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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第1章 先代鬼姫編
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第31幕 重たい一歩

あと数歩、数歩で仄様へとこの刃が届く。

この刀を握った瞬間からワシの真横で幾人もの人達が死にそれが黒い影となり蠢いていた。

ワシの脚にしがみつく者もいる。これは幻覚だというのは分かってはいるが精神的に堪えるものがあるのが現状だ。

それに今ワシは最愛の人を手にかけようとしている、その事実だけで吐き気がして胃の中の物が全て出てきてしまいそうだ。


風咲はきっとこの刀を渡したくは無かっただろう。あぁいうのはきっと1人で背負い込んでしまうタイプだ。それに人の死にはきっとまだ慣れていないだろうな。

ワシのわがままのせいで風咲に心の傷を負わせてしまったかもしれないと後悔してしまう。


日々喜もきっと悲しむだろうな・・・昔とはいえお父さんと慕ってくれていたのだ。身寄りの無かったあの子からすれば親2人を失うようなものだ・・・


甥の辰希も多分・・・


あぁ、ワシ自身は幸福だ。しかし周りの人を悲しませる不幸者でもある。

人間は何かしら矛盾を抱えて生きていくものだがここまで矛盾してくると笑えてくる。


幸福な不幸者、愛しいからその人を殺す、愛しい人との楽しい記憶を思い出すだけで涙が零れ落ちる。


人は死ぬ間際走馬灯というのを見ると言うが確かに楽しかった思い出を一瞬思い出してそれが光の速さで過ぎ去って行く。


刀を強く握り締め1歩踏み出す。


楽しかった思い出を噛み締め1歩。



刀を構えて1歩。



仄様様の笑顔を思い出して1歩。




刀の届く距離まであと1歩。









「久野宮。あともう一歩だ」


仄様が笑った。思い出ではなく実在する神と混じってしまった仄様だ。

その言葉に励まされ最期の1歩を踏み込み刀を仄様の胸へと突き立てる


「ありがとう。一緒に来てくれるとはな・・・嬉しいのか悲しいのか・・・」

「仄様、共に逝きましょう」


心中は深く深く仄様へとくい込んで行く。

無数の手。これは亡者の手か。1つがワシの胸に触れてから中へとスルりと入る。心臓を掴まれるとはこういう感覚なのか。痛みと苦しみが身体中を駆け巡る。


「300年経ってまともな使い方がされるとはな」


知らない誰かの声が聞こえた瞬間痛みと苦しみは消えワシの意識は途切れた

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