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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第1章 先代鬼姫編
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回顧 久野宮譚

8月の暑く太陽が照りつける日の事だ。

ワタシの世界は一変した。ワタシの主に仇なす者をただ殺めるのみの朱殷(しゅあん)色しかない日常が何も無い色とりどりな非日常へと変化した。



「今日からこの華姫市を治める事になった和煎仄です。父と方針は変わりませんが私なりのやり方でこの土地を治めます。意見等は聞きますが過度な指示、私に刃向かう者は容赦なく殺します」


珍しく拾弐本刀全員が会議室に集まっていた。

どうやらワタシの主が元主の娘へと変わったらしい。どうでもいい事だ。方針も変わらないのならワタシの日常に変化はない。


「それと私は正直仕事がどういうものか全く分かってないから、そうだな、久野宮だったか?そこの黒髪の細マッチョ。お主には私の補佐をしてもう。何か反論か文句はあるか?」


文句や反論が有ろうものならきっとこの場で殺すのだろう。

ワタシは無言で佇むのみだ


「無いなら解散して自らの仕事に戻れ」


随分とあっさりとした挨拶だ。まぁその方がいいが。

皆解散の言葉を聞いて市長室から出ていく。ある者はドアを蹴り開け、ある者は煙のように消え、ある者は窓から出ていった。


ワタシ達拾弐本刀は統率が取れていない。そも群れて黒影や人間を狩るよりも1人で赴いた方が断然早い。それにここに居た者達に仲間意識などと言うものは一切ないのだ。

拾弐本刀は己の強さによって壱から拾弐までの数字が振り分けられ、それにより待遇や給料も変わる。

皆競走相手であり蹴落とすべき邪魔者というのが拾弐本刀全員の認識だろう。

ワタシはそういう競走などに興味はない。


「さて、久野宮。早速で悪いんだけど珈琲作って」

「それは貴方自身がやればよろしいかと」

「めんどくさい。久野宮、早く」


最初の挨拶から段々と話し方が崩れて来ている。

彼女本来の話し方なのだろう。

ワタシは言われた通りインスタント珈琲を作る


「ミルクと砂糖は?」

「常備しておりません。鷺草様はブラック珈琲を好んでいたと記憶しております」

「ふーん。ならここら辺に置いてあるか」


ワタシの主は机の引き出しをおもいっきり開ける。

そこには大量の砂糖とガムシロップが入っていた。

そしてそのガムシロップを3つ手に取り全て珈琲に入れる。

どうやらワタシの元主と現主は極度の甘党だったようだ。血は争えないというものだな


「うむ。いい味」

「それはただの甘味では?」

「それがいい。それに甘味の奥にある微妙な苦味も楽しめるしな」


主は舌を出し苦い顔をしておどけていたが何が面白いのか分からない


「それでワタシは誰を殺せば?」

「は?何それ。人殺しなんて物騒極まりないな。」


主は何を言っているんだコイツはという目でワタシを見る


「人殺しが物騒とは言いますが貴方は逆らう者は殺すと」

「あぁーあれはハッタリ。ただのガキと思われちゃ鬼姫としての面子が無いからな。面子と命は守れってパパ・・・じゃない、先代から言われてるから」


パパとは随分と外国かぶれな言い方だ。特にどうこう言うわけではないがやはり華姫の長として少々古臭い言い回しをしてもらいたいものだ


「そうですか。ではワタシは何をすればよろしいでしょうか?ワタシは殺し以外の仕事をした事はありません」

「そう。これはパパは家に帰ったら怒らないとダメだな」


主はボソっとつぶやき言葉を続けた。


「で、久野宮はやりたい仕事とかはないのか?」

「ありません」

「即答か」

「はい。殺し以外能がありませんので」

「ならちと着いてこい。護衛ぐらいはできるだろう?」

「承知致しました」


主は会議室を後にし華姫市内へと繰り出す。

珍しくもないいつもと変わらない街並みを主は目を輝かせながら歩いていく。一体何に心踊らせているのか皆目見当もつかない。


「さっきから仏頂面だな。楽しくないのか?」

「仕事ですので。それにいつもと変わらない街並みですので」

「久野宮は分かってないな。この変わらない街並みがいいんじゃないか。皆楽しそうに店を出しそこで買い物をする客も笑っている。実にいいじゃないか。そうだ!久野宮、視察も兼ねてゲームセンターなるものを見に行こうぞ!随分と楽しい場所だそうだぞ」


主は少し笑いながら歩き出す。ゲームセンター・・・確か遊技場だったか。どうでもいいが兄がゲームセンターで随分と躍起になっていたというのを聞いたな。物静かな兄が躍起になるほどだ。少しばかり楽しみというのだろうか


「では参りましょうか」



「うおっ!凄い爆音だな!それに目がチカチカする程眩しいな!」


遊技場と聞いていた為ピンボールやインベーダーゲームばかりかと思っていたが見たことも無いガラス張りの箱などが並んでいた。主ははしゃぎすぎていると言ってもいい程気分が高揚しているようだ。


「久野宮!これ!」


主は中に猫の人形が入ったガラス張りの箱を指さす。


「これは?」

「可愛くないかこれ!」

「ワタシにはよく分かりません」

「なんと・・・!?まぁよいか。すまないそこの御人、これはどういうものなのだ?」


通りがかった男に主は声をかけ箱について聞いた。どうやらここの専用コインを入れて箱の中の景品をクレーンという物を操作して中身の景品を出口まで持っていき落とすというゲームらしい。


「久野宮、やってもよいか?」

「視察に来たのでしょう?ならばやってみても良いかと」

「ではコインを買ってくる!」


まるで駄菓子屋へと向かう子供の様だった。仕事中に遊技に興じるなど言語道断だがあくまでもこれは仕事だ。



「むぅ・・・何故だ。何故かすりもせん・・・」

「少しよろしいでしょうか」

「なんだやりたくなったのか?」


流石に千円分で一切景品が動かないのは見ていられない。


「そんなところです」


・・・なかなかこれは難しい物だ。少しずつ動きはするが取れるまでは行かない。そもそも景品を持ち上げはするが上へとクレーンが上りきった時衝撃で景品が落ちてしまう


「久野宮、やけになってないか?もう二千円は使っておるが・・・?」

「ここまで来て引くのは癪です」


なるほど。確かにこれは躍起になってしまう。こうも1つの事に夢中になれるとは


「あっ、取れた」


今回は落ちずに運んでくれた。

最初からそうしてくれれば良かった物を・・・


「では、貴方に」

「いいのか?せっかく苦労して取ったというのに」

「良いのです。熱中出来た、この事実だけでワタシには十分なのです」

「これを仕事にしたいとか言うなよ?」

「バレましたか」

「お主は思った以上に道楽向きの人間だな。よし!今日は遊び倒すぞ!」

「仕事・・・いえ、それは無粋という物。今日だけは自分に甘く行くとしましょう」


この日ワタシの視界に朱殷色以外の色が戻ってきた。子供の頃以来の色とりどりの世界。実に楽しかった。



月日は流れワタシの非日常は日常へと変わっていった


「久野宮ー遊びに行かせてくれ」

「仄様、あと少しです。頑張りましょう」



気づけば仄様と出会って9年の月日が経っていたある日


「久野宮。明日から華姫を離れ美作の方へ仕事してきなさい。貴方の甥っ子が治めてる土地だし無関係って訳じゃないでしょう?」

「そうですね。では、今晩華姫を発ちます」


珍しくワタシに出張命令が出た。そういえば仄様に甥っ子の話をしていただろうか?まぁ知っていてもおかしくはないか



美作での仕事を終え華姫に帰ると惨状が広がっていた。

街は荒れ、人の死体が転がっていたりもした。

雷が落ちたかの如く黒焦げになった者、鋭利な刃物で切り刻まれた者、絞っている雑巾が如く腕や脚があらぬ方向を向いている者。


「久野宮さんだ。我らが英雄、久野宮さんだ!」


知らない顔の男が声をあげると共に人々がワタシの周りに集まり身に覚えのない賞賛の言葉を投げる。

その時、悪魔のような鬼、和煎仄を討ってくれてありがとうと聞こえた。


「どういうことだ!」


ワタシは叫んだ。仄様を討った?そんなことはしていない。それに仄様は誰かに討たれるような悪いことはしない!


市民達の話を聞きワタシは絶望した。

何故、仄様はワタシに相談してくれなかったのか・・・

何故、そのような凶行に走ったのか・・・

何故、市民達はいきなり一揆など起こしたのか・・・

おかしい・・・何もかもがおかしい・・・

ワタシはこの何もかもがおかしい事件の真相を知るため事件について調べ尽くす事にした

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