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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第6章 華姫祭編
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第12幕 引けない闘い

 黒転を相手にするならやっぱり刀を抜かせない、これが一番だが難しいかもしれない。なら一閃を避けてこちらは一撃で相手を沈める。必要なのは速度、これはアザーズで手に入れた加速魔術式で、と思ったが前よりマシとはいえ対象がぼやけるのは明らかに悪手。どれだけ速くても弾丸を斬ることができる技量があるなら加速したところでやられる。

 なら流体化で間合いにとも思ったがこれは最終手段だ。袖から短刀を滑らせ、掴んで構える。


「そんな木の棒出してどうした?刃物は鞘から抜かな使えんぞ」

「ならアンタもその黒転を引き抜いたらどうだ?」

「見せすぎたか。まさかコイツを知っとるしこの二回で見破られるとは思っとらんかったわ。まぁそれがどうした言う話やがな」

「そうです、かい!」


 そう言うと共に我輩はおっちゃん目掛けて一直線に走る。姿勢は低く、袖で短刀を隠し、ただ真っ直ぐにトップスピードで迫る。

 鯉口が切られた瞬間、身体を反る様にして我輩は声を上げる。


「イグニッション!」


 加速する脚、抑えつけて来るような風、回る風景。

 地面を蹴りつけ、走り高跳びの様に宙を舞う身体。進んできた方向にではなく後ろに跳び、刃を無理矢理避ける。地面へと身体が落ちる。めちゃくちゃ痛いけど斬られるよりは何十倍もマシだし居合には振り抜いた後の隙が有る。親指で短刀の鞘を押して鯉口を切り倒れたまま上半身を起こし短刀を振るう。その勢いで鞘はおっちゃん目掛けて飛んでいく。速度も十分、何かしらのダメージは期待できる。そう思った。


「連続で抜けんとでも思ったか?悪いがワシは弱点を徹底的に潰しとる」

「マジかよ……」


 目の前で二つに裁断される鞘に乾いた笑いが出る。笑うしかない。どう攻略するんだよこれ。多分爺様の何かしらの魔術道具を複数個掛け合わせた何かなんだろうけど今のままでは正直勝ちを拾えるビジョンが見えない。

 ……なら、弱点が解るまで続けるしかないよな。負けられない、止まれない、譲れない。そういう感情が我輩の心に炎を灯し身体を起き上がらせる。同時に使える魔術式は限られているが試せる手はまだある。幸いなことに炎も今は自由に使える。


「走れ!緋炎双(ひえんそう)!」


 言葉と共に魔術式を起動し地面に浮かぶ式を踏み壊す。それとともに炎が二つ勢い良く地面を走る。緋炎走の火力調整も兼ねて作ってみたけど案外いいかもしれない。

 走る炎の速度は少しズレて対処は面倒だろう。そう思ったが両方おっちゃんを避ける形で軌道を変え通り過ぎる。火避けか何かか……

 間髪入れず魔術式の起動と共に袖を振るい風の刃を飛ばす。これもただ竹林の竹を刻むだけ、短刀だけではなく刀を抜かないと制御の難しい魔術式を使うのが良いかもしれないが正直刀は抜きたくない。黒転の刃を刀で受け止めれば話通りなら刀も斬られる。


「刀抜くんが怖いか?そりゃそうやなぁ。なんせ黒転はなんでも斬るからなぁ!」


 的確なタイミングで煽ってくるなこの人……!一か八か、賭けるか……?

 何となく虎織とアリサの方へ目を向ける。それに気付いたのか虎織は笑って頷き、口を開く。


「自分を信じて!」

「お兄ちゃん負けないで!」

「あぁ!」


 二人の声に背中を押され、気合いを入れるために柏手を一つ。青い火の粉が舞い、集まって狐火が周りに浮かぶ。

 魔術ではなく妖術。魔術との切り替えは前より速くなったとはいえ万全の状態じゃないとな。

 短刀を仕舞い、両手でデザートイーグルを構え、今回は跳弾など考えず真っ直ぐにおっちゃんを狙い引き金を引く。轟音と腕に伝わる衝撃、轟音と共に我輩は叫ぶ。


「行くぞ!」

 

 撃ち出された弾と共に一直線に走る。追い越せない弾丸を追いかけ走る。走りながらも反動に耐えながら弾丸を放つ。そんな中黒が走る。案の定弾は斬られたらしい。そしておおよそ斬られた弾丸と同じ地点、斬られた。だが流体化で無理矢理前へと、懐へと入る。それと同時に魔術と妖術を切り替える。狐火は弾け、また青い火の粉へと戻る。狐火は切り替えの指標、自分の感覚だけじゃなく目視で切り替わったかを確認するための術だ。まぁ今回は必要無いただの飾りなんだけど!

 踏み込みと共に拳を構え、突き出す。加減はするから重症にはならないはずだ。


「椿我流!八極!」


 拳に伝わる硬い感覚。きっちり鉄か何かしらの内鎧着込んでやがった。でも、一瞬姿勢は崩れたし次の一撃に繋げるには十分!袖の収納の魔術式を開きおっちゃんの襟を掴み空へと放り投げる。


「白鎖!椿流、奥義が一つ!」


 白い蛇のような鎖が袖から飛び出しおっちゃんに向かって空を駆ける。

 

「クソが……!この距離で斬れん思うなっ……!」


 ガチャッと鉄がぶつかる音が響く。襟を掴む少し前に鎖を銀の鞘と黒転の鍔に絡ませて抜刀の阻害をさせていた。八極を食らった痛みで気付いてなかったみたいで良かった。白鎖がおっちゃんを縛ったのを見て地面を蹴り魔術式を足場に高度を上げる。そしてさっきと同じように襟を捕まえて地面へと体重を乗せ急降下する。


「櫓落とし!」


 地面が近付いたところでおっちゃんを地面へ勢い良く投げ捨てる。それと共に白鎖が緩まり袖へと戻る。

 土煙と共に轟音が鳴り渡りクレーターが出来上がっていた。加減はしたから死にはしてないはず。


「おっちゃんー?生きてるかー?」

「し、死ぬか思た……あんなもん人に使うとかアホちゃうか……!?」

「生きとんならよし。今回はおっちゃんの負けでえぇやんな?」

「しゃーない。負けや負け」


 今回は何とかなったか……てかこの闘いって我輩達にメリット一切なかったよなぁと冷静になってから気付いた。せめて勝ったらなんかしてもらうとかそういうの言っとくべきだったな……後でなんか要求するかぁ……

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