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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第1章 先代鬼姫編
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中心シ殺死不 刀願 章断

不死の化け物を殺す事が出来る刀を俺は今打っている。

願い、情、思い。俺の全てを持って鉄を打つ。

何故そんな物を打っているのか。それは拾壱年前に遡る。


俺と彼女の出会いはなんてことはなかった


あれは俺が拾肆の時の夏、お天道様が照りつける日飯を買いに出た時のことだ。



「あのーそこの鉄の匂いのする旦那」


か細く今にも消え入りそうな程小さな声だった。

声がした方角を見ると黄金色の髪をした異国の女が地に顔をつけて倒れ込んで居た。


「なんぞ?それは俺の事か?」


鉄の匂いのする男などここには俺しか居ない。間違いなく俺が呼ばれている。だがもし人違いならそれはとても恥ずかしい。というわけで確認を取る。


「そうそう。折り入って頼みがあるんだけど」


地に伏したまま声を出す女。腹減って倒れてるのか?状況的にそれ以外思いつかない。

それにしてもこの女異国の人間にしては随分と日の元言葉が達者だ。


「その前に顔上げぇ。腹減って倒れてるのか?」

「ふいっと。そんなことはないです」


女は顔を上げながら言う。

女の顔は整っており日の元の女にはない魅力があった。一際目を引くのが青く綺麗な硝子玉のような瞳だった。

その綺麗な両の目に俺は釘付けになってしまっていたのだ。産まれてこの方、女を見てもなんとも思わなかった。しかし今ここで初めて心から美しいと俺は思った。


「えっとですねぇ。ご飯頂けません?」

「やっぱ腹減って倒れてるんじゃねぇか」

「倒れているのは日の元の伝統ドゲザ?というやつです。人に物を頼む時は突っ伏して額を地面につけろと道行の人に教わりました」

「お前さんそれは悪意のある嘘だぞ」

「いやいや、心優しい日の元の人がそんな嘘つくはず・・・何故皆さん冷たい目で僕を見ているのですか?まさか本当に教えて貰ったドゲザが違う物なのですか!?」


女はキョロキョロと周りを見て自分の異常性に気づいたのだろう。顔が青ざめていた。


「とりあえず俺が冷たい目で見られてるから立って歩け。腹減り過ぎて倒れてる訳じゃないんだろ?」

「あーすみません。見栄を張りました。実は首動かしたら空腹が限界まで来てしまいましてもう指1本動かない状態なんですよ」

「やっぱり空腹で倒れてんじゃねぇか!」

「いやー面目ないです。でも女の子を担ぐ事ができるってなかなかいいじゃないですか。今なら身体触り放題ですよ」

「阿呆か」


その冗談は俺にとってはとても魅力的な物であった。



月日は流れ空腹で倒れていた異国の女は俺の家と仕事場である鍛冶場に住み着いていた。


「なあなあ、なにか菓子はないか?」

「ない。鉄打ってる時は話しかけるな。それにお前さっき飯食っただろ」

「あっ、煎餅みーつけ」

「おいバカそれは得意先に渡す菓子だ。手ぇつけるなよ!」

「ダメ?」


この女の物欲しそうに見つめてくる目には勝てない。


「1枚だけだぞ・・・」

「ありがと」


さらに月日が流れ俺が拾漆になった日、女はいつも飄々としていたのだがこの日は違った。


「聞いて欲しい事がある。」

「なんでぇ真面目な顔しやがって」

「実は僕は老いず、死なずの化け物なんだ・・・かれこれ200年は生きていて・・・」

「はっはっはっ!随分と面白い冗談を真面目な顔で言うじゃねぇか!」


冗談ではないのはわかっている。だが重苦しい雰囲気は俺は苦手だ。こいつにはいつも通り飄々としていて欲しい。


「重苦しいのが苦手なのは知ってる。でも今は真面目に聞いて欲しいんだ。僕は死に場所を探してここまで来た。死ねない身体なのに馬鹿らしいだろ?」


「まぁそうだな」


「それで君に出会った。一目惚れというやつかな?僕は君に惹かれてしまった。それで君に甘えてだいたい1年君の家に住まわせて貰った・・・でも僕と君とじゃ住んでる世界が違う。君は死んでしまう・・・僕を置いて・・・だからね、僕はここから出ていこうと思う」


「なんでだ?」


「だって・・・この幸せが君の死という形で崩れてしまったら僕はもう耐えられないだろうから・・・」


「ならお前さんが俺と死ねるようになればここに居るのか?」


「あぁ・・・勿論・・・」


「分かった。俺はお前さんと俺を殺す刀を打つ。だから俺の傍に居ろ」


「それは・・・そのプロポーズというやつかい・・・?」

「ぷろぽおず?なんぞそれは?」


「一緒に添い遂げるという言葉さ」


「ならそうだな。そのぷろぽおずってやつだ!」


「でも僕を殺す刀を作れるの?」


「作ってみせるさ。どれだけ失敗しようが俺はお前と俺を殺す刀を作ってみせる!」


「随分とかっこいい旦那様だ・・・」


女房はそう言って一筋涙を流しながら笑った


そこからは風が過ぎ去るが如く時は流れた。

子宝にも恵まれ、その子も元服し元気に巣立って行った。


そして齢参拾参にて、ついに念願たる不死の化け物を殺し、自らをも殺す刀を作り上げた。

その頃には俺の身体は無理が祟り肺炎やらよく分からん流行病に侵されていた。


「ついに出来上がったんだね・・・」

「あぁ、ゲホッ、ゲホッ・・・」


咳をしたら吐血する。こんな人生とはおさらばだ。死んでも妻と一緒に居られるよう呪いもかけた。輪廻転生というのが有っても必ず巡り会うようにと


「覚悟はいいか?」

「うん・・・君との時間は一瞬だった・・・でも長い長い人生だった・・・」

「痛いかもしれんが我慢してくれ」

「ははっ、あの日よりはきっとマシだよ」


女房が俺に抱きつく形で覆い被さる。そこに俺は抱きしめ返すように自ら打った刀を突き立てる。

じわりと胸が熱くなり鋭い痛みが走る。


「ありがとう」


女房は笑い、そして息絶えた。

俺も目を瞑りそのまま息絶えた。





何故俺が語り部をしているか?それは簡単だ。

女房と共に幽霊としてこの世を旅しているからだ。


余談ではあるが俺の作った不死殺しの刀は斬った者と斬られた者を必ず殺すという特性を悪用され戦争中に多くの死者を出し、妖刀と化してしまった。

本来の使い方をされたのは俺と女房の心中だけだった。


「旦那様。次はエジプト観光なんてどう?」

「砂漠しかないだろ」

「でものんびり歩くにはいいんじゃない?」

「そうだな。では行こう」


不死殺しの刀、心中は次に俺が望んだ使い方がされればお役御免ということで壊し回収することにした。

その時が来るのを願い俺たちは旅に出る。まぁ幽霊の状態でだが

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