第3幕 惚気話
「しっかしまぁなんというかここまで手酷く負けたのは久々だわ……」
虎織と雪と一緒に雑談をしながら中庭のレンガの埋め直し作業をする。元々我輩が剥がしたやつだからひとりでやろうと思ってたけど二人が手伝ってくれると言ってくれて助かった。これで今日中には埋め直せるだろう。
「雨桜がなかったらここまでじゃなかったかもね」
「それなぁ……なんなんだよあれ。七彩で使ってた水も切り札の炎も消えるしさぁ」
あの大火力なら勝てると思ったらすぐ消されるし、あの炎消すのにどれだけの魔力が要るのやら……
「それにこの季節外れの桜もその刀の能力でしょ?」
虎織が舞い散る桜を手のひらに置き雪に尋ねる。この季節外れの桜は確実にあの刀の能力なんだろうけど流石に桜咲かせてさらに高密度の炎の消火ってヤバすぎないか?
「まぁ見せちゃった能力だし一個一個説明しちゃおうか。まずは雨桜の通常時の能力は大体五リットルくらいの水の操作とその操作範囲ならどんな水でも僕の支配下に置けるってやつ」
「思いっきり我輩メタじゃん……白虎使い始めてから水多用するのに……」
だから七彩で使った水が刀から剥がされてたワケか。
「そうだね。将鷹に対する切り札の一つではあったかな。それであのバカみたいな火力の炎を消したのは思いっきり水の密度上げてポーンって感じで消し飛ばしたって感じだよ」
簡単に言ってるけど普通なら無理だと思うんだけど……
「でもさっき五リットルしか操作できないみたいな事言ってなかった?」
虎織が指摘してくれて確かにと思った。五リットルで消えるような炎じゃなかったはず……それにアレを使った時に炎だけ消し飛ばしたってんなら我輩の服自体が濡れてないとおかしいよな?
「うん。通常時は五リットルくらい、雨桜のリミッター解除、オーバーライド状態になったら操れる水は無制限、密度も自由、便利だけど桜の木が無いと使えないのが欠点かな」
デメリットがデメリットじゃねぇ……!?
「この桜が満開になってるのってそういう……?てかさ、何がどうなってリミッター解除の影響で桜が咲くんだよ……」
「不死殺し、妖刀心中と同じようなものって言えば解る?」
「想いを込めて鋼を積み重ねる、その果て、想いの結晶が刃の異能となる。だっけ?」
「そう、師匠の受け売りたけどね。僕にはまだ解らないし、そもそもで何層にも鋼を重ねるなんてロストテクノロジーだからね、と言いたいところなんだけど鋼重ねは試作再現出来たから薙刀作ってみたんだけどさ」
「マジで!?雪すごいな!」
ロストテクノロジーと同じ、または同等の技術力の復活とかしれっとやばい事やってるな!?
「と言ってもこれを将鷹好みの刃にするとなるとちょっと大変かな。僕的にも最高傑作を渡したいし」
「職人肌だな……」
「命を預ける刃は強い方がいいでしょ?」
「そうだけどな」
「私も雪に刀一本注文しようかな……」
レンガの間にモルタルパテを塗りながら虎織はふとそう呟く。
「いいよー。刃の全長はどうする?虎徹ぐらい?」
雪は軽く答えて一度立ち上がり伸びをしてから虎織の方を見ると同時に両手の親指と人差し指で長方形を作ってからその長方形に虎織を収める。
「虎徹より少し長めでお願いできるかな」
「了解ー。後で見積と要望書書いてね」
「うん!楽しみだなぁ。私の剣はあっても刀はなかったからなんかすっごい嬉しい」
「そういえば虎織はずっと虎徹握ってるんだもんな」
確か当主として決まったのが中学入ってすぐだったか。そうなると十年以上使ってる刀だよな。
「そうそう。雪城家の当主筆頭に持たせるっていう決まりだからねー。ま、そのうち返還とかあるかもしれないし、一本くらい自分の刀持ってないとね?」
「しれっと惚気話!?熱々だねぇ……でも、虎徹を手放すってなったら手放せるの?」
「惚気話なのか?」
どこが惚気なのか一切解らない。
「相変わらずのクソボケ鈍感男だね!?説明しないとダメ!?」
「ゆ、雪!!ストップ!!説明しなくてもいいから!?」
「いいや、我慢出来ない!説明するね!」
慌てて雪を制止する虎織と怒りながら早口で口を開く雪。色々と考えはするがどこが惚気なんだ……!?考えろ我輩!
「なんでそんな怒ってんだ雪!?」
「虎徹は雪城家の当主の刀、ここまではいいよね?」
スンっとさっきまでの勢いはどこへやら普通のトーンとテンポで雪は我輩に問う。それに我輩は気圧されながら肯定の意を示す。
「お、おう」
「じゃあ虎織が虎徹を手放さなきゃいけない、正確には雪城家当主じゃなくなる状況は?」
「え、えっと……謀反とか……?」
他は犯罪とか市からお家取り潰しくらうようなことだろうけど……
「頭のネジ締めた方がいいかなぁ?そこの工具箱のレンチでぶん殴って締めてあげようか!?あるよねぇ、虎織の家名が変わったりとかさぁ?」
「あっ……確かに……結婚すると風咲になるから雪城家当主から外れる可能性もあるのか」
なるほど!!確かにそれは惚気と取られてしまっても仕方ない!!
「確かにじゃなーーーい!!」
「まぁまぁ、将鷹はそういう抜けてるとこもあるから……結婚の約束を忘れてたとかそういうのは無いだろうし……ないよね?」
ないよねって聞いた瞬間めっちゃ怖かったんだけど!?こう、怒ってるとかじゃないんだけど表現しにくい負の感情なのは解る!そもそもあの約束を忘れた事は無い!
「ないない!ずっと覚えてる!」
「じゃあ一安心!あと虎徹にはお世話になってるけどあくまで雪城家の当主の証、主従関係でしかないしちょっと寂しいけど返さなきゃってなったら返すしかないかな」
「それでいいんだ……」
雪は呆れながらまた自分の足場のレンガを直し始めた。我輩も作業の手をもう少し早くしないとな。




