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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第6章 華姫祭編

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第1幕 四季刀

 虎織達と一緒に役所の中庭に降りる。そこにはもう将鷹と雪が向き合って立っていた。

 将鷹は右腰に刀を一本、鍔の形からして風切かしら?

 雪の方は腰に刀を四本が各々桜、紫陽花(あじさい)、紅葉、椿の描かれた鞘に収まっていた。雪の師匠の遺品、四季刀……資料で読んだざっくりした情報しかないけど手合わせで出すような代物じゃないと思うんだけど。


 「琴葉ちゃん、アレどう思う?」

 「正直厳しいわね。四季刀の能力総動員してきたら詰みよ」

 「あー、やっぱりあれが四季刀なんだ。初めて見た……」


 虎織も見たことないなんて。でもそれもそうか、雪が戦闘するなんてよっぽどの人手不足、それに雪の気が乗らないと戦わないもの……そんな雪が四季刀引っさげて将鷹と手合わせなんて何かあるのかもしれない。


 「さぁ、観客も来たしやろうか」

 「随分と乗り気だなぁ。ま、そうじゃないと我輩と手合わせなんかしないもんな」

 「学生の頃からどれだけ強くなったか見るのって楽しいじゃん?楽しませてね」


 雪が桜の鞘から新品の鏡の様に輝く刃を引き抜く。それに呼応する様に将鷹も風切を抜いて流れるように真っ正面に構えて雪の喉元に切っ先を向ける。

 虎織との手合わせならここで読み合いと相手の動き待ちがある、けど雪は違った。構えず凄まじい速度で将鷹との距離を詰める。一瞬反応が遅れた将鷹は構え直さず正面に構えたまま腰を落として身体全体を使って前に出ながら突きを繰り出す。

 刃が火花を散らしながらぶつかる。将鷹の突きに対して雪は切り上げで返して将鷹の刀と腕を上へと向ける。上がった腕を確認してから雪は左手で紫陽花の鞘から透き通った白い刃を振り抜く。

 決着は着いた、そう思ったけど現実は違った。将鷹はその刃を右手で腰から逆手で抜いた空の鞘を使って防ぐ。どうやら突きを上げられた時点で右手を離して鞘に手をかけていたらしい。


 「随分テクニカルになったね!」


 雪はそう言って切り上げの時に上がった右手を返して切り下げに転じると将鷹は地面を蹴って後ろに跳び退く。それと同時に破裂音と将鷹の靴から煙が出ているのを見ると靴底火薬で距離取りをしないと危なかったのかもしれない。手の内はバレてるとはいえ火薬靴を早々に使わされたのは将鷹にとってはかなりの痛手かもしれない。

 切り下げが空ぶった雪は一本目の刀を桜の鞘に納めてから刀身を身体で隠すような構え方をする。


 「相変わらず容赦がないなぁ雪は!」


 ニッっと不敵に笑いながら将鷹は鞘を袖の魔術式に放り入れ、風切を握り直して大上段で構える。不思議なことに将鷹は一番得意な八相で構えない。楽しむためにまだ使ってないのかそれとも状況に合わせて型を変えているのか、素人の私には一切解らない。


 「容赦してたら本気出してくれないんだもん!」

 「何時でも本気出してるとは思うんだけど、なっ!」


 言葉と共に将鷹が距離を一気に詰めようとすると雪は右手を前に出して魔術式を発動させる。


 「させるかっての!」


 将鷹は刀を振り下ろし起動の一瞬だけ顕現する魔術式を斬り裂き、発動を不発にする。

 私でも解る、あの魔術式は陽動……それをわざわざ叩き割るなんて奥の手があるのかしら?


 「魔術式に気を取られちゃったね!!」


 雪の楽しそうな声と共に白い刃が横薙ぎに振るわれる。

 普通ならこれで勝負は決していたかもしれない、でも将鷹はそんなに甘くはなかった。


 「へぇ、これ防がれるとは思ってなかったなぁ」


 刃は将鷹の右腕に防がれる。いつも着ている片袖の羽織は防刃仕様とは聞いてたけど流石にそれだけじゃない。

 刀を防いだ正体、黒い鎖が右袖からバラバラと砕けて落ちる。さっきの一撃を防いで接合部が幾つか砕けた、そう見るのが無難なんだけどそんな威力で斬撃放ってるの!?


 「羨ましいよねぇ。将鷹があそこまで全力で戦って(あそんで)くれるなんてさー」


 虎織が若干不貞腐れ気味に、羨ましいというようにそう言った。たまに頭のネジ飛んでるんじゃないかと思う発言するけど将鷹が絡むとだいたいこうなのは昔からだしなれたモノかしら?


 「完璧殺し合いじゃないかしらアレ?」

 「全身全霊でぶつかってくれるならそれってなんであれ嬉しくない?」

 「どうかしらね……まぁ今の将鷹じゃ虎織のことは大切過ぎて無意識にセーブしちゃうかもしれないわね」

 「それはそれで嬉しいんだけどね。っと、話してる間に決着は、着いてないね」

 「流石にここで決着だったら一瞬過ぎるわよ」

 「それはそうなんだけど勝負は本当に何が決め手になるか解らないからさ」


 確かに虎織の言う事は戦いの真理ともいえるかもしれない。なんでも使えるものは使っていく二人の対決なら尚更ね。

 今度は雪が跳び退く形で距離を取っているのを考えると将鷹が攻撃を防いでから反撃、それに反応して雪が後退したって感じね。


 「いっくよー!」


 雪が刀を空高く掲げてから振り下ろすと風が吹き荒れる。これは雪の魔術式?それともあの紫陽花の鞘の刀の能力!?虎織が掴んでくれているから飛ばずに済んでるけど規模デカ過ぎない!?

 風の音で周りの音がかき消されて視界も半分目を開けるのが精一杯、そんな中、将鷹が居たであろう場所で青い何かが見えてた途端風はピタッと止んだ。


 「うわっ!大倶利伽羅!?どこでそんな刀持ってきたの!?」


 雪が目をキラキラとさせながら将鷹に問う。一瞬で刀の()を看破するなんて……と思ったけど刀鍛冶だし刀の特長を見れば解るモノなのかもしれない。


 「さっきまで打ち合ってた風切の本来の姿だ」

 「じゃあ少彦名命様から賜った代物なんだ」


 雪は紫陽花の鞘に刀を納めて紅葉の鞘から少し赤みがかった鈍色の刀身を引き抜く。四季刀の名になぞらえて春、夏、秋、冬って順番で抜いてる?四季刀それぞれの能力とかそういうのは資料にもない未知数の刀達だしもしかしたら四季が巡ると何かあるのかもしれない。将鷹なら気づいててもおかしくは無いけどどうかしら……


 「……」


 雪が何か呟いたのは解ったけど何を言ったのかまでは解らない。空気が冷えるのを感じた途端将鷹の手から大倶利伽羅が零れ落ちる。零れ落ちるというよりも弾き飛ばされたという方が正しいのかもしれない。


 「また厄介な刀抜いたなぁ……!何に弾き飛ばされたかもわっかんねぇ!でも、やっぱ戦いってのはこんくらいの解らない要素がある方が面白いよな!」


 そう言って将鷹は楽しそうに袖から白い鞘に納まった刀、白虎を引き抜く。今の将鷹にとっての切り札にして将鷹の使える属性全てを実戦的な威力で出力できる杖。ある意味では雪と雪の師匠の製作者の対決とも言えるかもしれない。

 果たしてどっちに勝利の女神は微笑むのかしら? 

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