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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第5章 国無シ島編

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後日談 「希望の刃」

 ご飯を食べて少し眠って気付けば夜。空もすっかりと青と黒が混じり合い星達が煌めいている。幻想的でいつもより綺麗な空が続いているように思える。

 そんな星空とは裏腹に我輩は後悔の中、甲板に居た。儀式内であったとしても助けられなかった人も多い、世話になった人も結果的に死なせてしまった。

 後悔も何もかも全部手遅れではあるがやっぱりどうにか出来なかったのかとは思う。

 例えば西園寺さんが暴走してしまったあの時、兵舎に行くのを止めていれば・・・打ち倒した時にきっちりと縛るなりなんなりしていれば・・・


 「なーに感傷に浸ってやがる」


 後ろから大河の声が聞こえた


 「仕方ないだろ。世話になった人に恩返しも出来ずに帰ってきちまってんだぜ?」


 振り返らず少しおどけて返事をする。表情は少し引き攣ってしまうだろうから空を眺める他ない


 「お前の悪い癖だぜ?帰ったら雪城ぐらいには打ち明けたらどうだ?」

 「そうだな、それがいいかもしれないな」

 「ま、お前が今欲しがってんのは優しい言葉よりも死なせたヤツからの罵倒なんだろうけどな」

 「バレバレか・・・罵ってぶん殴ってくれりゃ気が楽なんだろうけど。逆に謝られたりお礼言われたりで皆ワケわかんねぇよ。我輩は人の命奪ってるんだぞ」


 久野宮さんの時も今回も。この甲板で殺した子だって恨み言ひとつ言わずアリス、だったか。その子について行った。恨んでくれる方が気が楽だ。赦されるのが許せなかった


 「少数を殺して多くを救うなんてのはよくある話だ。俺は羨ましいよ、その全部救ってやるみたいな強欲さ」

 「強欲か・・・」

 「理論値求め過ぎなんだよお前は。人命救助は完璧じゃなきゃ気が済まない、手を伸ばせるなら誰でも助けようとするなんて俺は到底無理だ。助けられなかったらそれは仕方ない、運が悪かった、とか思っちまうからな」

 「結局は取りこぼしてばっかりだけどな」

 「いいんだよそれで。取りこぼした分もっと強くなろうって思うだろ、前に進もうってするんだろ?」

 「そりゃな」

 「じゃあ取りこぼした奴らの死は無駄じゃない。そいつらの屍がお前の糧でその糧がいつか誰かを救う力になる。そのいつかはいつってのは解らないけどお前なら確実に来る日だ、だからそれまでに踏ん切りをつけて次に活かせ」

 「そう、だな」

 「なんか説教くさいこと言っちまったな。悪い」

 「気にすんな。気を遣ってくれたんだろ?謝る必要もないっての」


 お互い無言のまま星空を眺める。一際光る不動の星、北極星。何か引かれるモノがあるが何がどう我輩を惹き付けているのか解らない。ブレない自分を持っているからか、誰かの道標になるその姿か、もしくはその両方か。今は解らなくてもいつか解る日が来るかもしれない。ぼんやりと星を眺め夜を過ごしていると夜の鍛錬の時間が来てしまったらしい


 「野郎ども!筋トレの時間だ!」


 艦内放送で提督の力強い号令が響き、乗員がぞろぞろと甲板に集まってくる。地獄の鍛錬から逃げよう、そう思ったがどうやら間が悪かったらしい


 「風咲殿、何を逃げようとしているのでありますか?」

 「いやぁちょっと気乗りしなくて・・・ダメ、ですか?」


 いい言い訳が思いつかなくて提督から逃げることが出来なかった。肩を捕まれ


 「駄目であります」


 そう笑顔で言われた


 「身体を動かした方が頭に割くリソースも減りますし落ち着くのでありますよ?」

 「そんなこと言われるとやるしか無くなるじゃないですか・・・」


 気を紛らわせるには確かにちょうどいいかもしれない。儀式での疲れは長時間座っていた疲れぐらいしかないし身体自体は元気だしやるか・・・


 「ではいつも通りラジオ体操からやるのでありますよ!」


 ダイナミックな動きを要求されるラジオ体操をしてから腕立てに腹筋、背筋、スクワット。段々と馴れて来た自分が少々怖い。それでも疲れて倒れ込むんだけどさ


 「なんで大和先生そんなピンピンしてんだよ・・・」

 「お?こんなもんでへばるなんて年取ったなお前も」

 「学生の頃から体力そんななかったって!」

 「なんだまだ元気あんじゃん。見ろよ白鷺さんを」


 大和先生が親指で後ろを指差す。その先にはパイプ椅子に座り込んで灰になりかけている桜花さんが居た。

 もう限界そう・・・


 「本当にやばい人はあぁなるんだよ」

 「な、なるほど・・・桜花さん大丈夫ですか?」

 「余裕だと思っておったが・・・終わった途端もう、ガタが来た・・・菜津(なつ)と遊ぶ時は無限に体力があるんだがな・・・」

 「なぁ、白鷺さんってもしかしなくても親バカなのか?」

 「そりゃあもうゾッコンですよ。なんなら嫁さんにもかなり惚気てます」

 「そ、そうか。なんかもっと亭主関白かと思ってたんだけど」

 「そういう印象あるのは仕方ないけど結構失礼では?」

 「いや、別に儂は気にしてないから良い。実際昔のままならきっとそうだっただろうからな・・・小春のおかげだ」


 息が整ってきた桜花さんの惚気を聞きながら各々部屋へと戻る。羨ましい限りだなぁと思いながらよくよく考えたら我輩達もそうでは?となる部分もいくつかあったりもした。そしてベッドに横になり眠りに落ちる


 「あー・・・終わってもやっぱり断片とかはあるのか」


 今立っているのは紅蓮の死地。燃え盛る赤と呻く黒。堕ちて黒く焦げながらも燃え続ける鉄屑、変わらない風景を横目に終わりに向かって歩き出す。

 焼け焦げ溶け落ちた皮膚と名もないボロボロの刀をぶら下げ死者は歩く。そして終われない悪夢を終わらせる為海へと身を投げる。痛みは既に感じない


 「じゃあな忠定」


 そう呟いた。今回死地を歩いていたのは我輩ではなく忠定だった。きっとこれが正しい彼の終わり。その身を焼きながらも仲間を護るために全てを撃ち落とした英雄の姿。沈んだ英雄、そしてここで散っていった英霊達に敬礼を。

 もうここに来ることは無いだろう


 「ん・・・もう朝かな」


 珍しくスッキリと目が覚めた。スマホで時間を確認すると朝5時。何をやるでもなくぼーっと時間を過ごす。スマホも圏外だし甲板で刀を振るうのが一番有意義か?

 そう思って白虎を持って甲板へと出る


 「おや、風咲殿。早起きでありますね」

 「おはようございます将鷹さん」


 甲板には提督と久那さんが居た


 「おはようございます。お二人も随分と早起きですね」

 「艦長の朝は早いのでありますよ。それに日の出をみたい気分だったのであります」

 「私も同じようなモノです」

 「ま、お前らからしたら一件落着だろうしな。俺からしたら地獄の始まりだけど」


 ケタケタと久那さんの持っている本が口を開き笑う。忠定だ


 「お前は相変わらずだな」

 「そりゃどんな姿でも俺は俺だからな」

 「その姿勢は見習いたいもんだよ」

 「見習えるもんは見習っとけ。ダメなの以外な。てか刀持ってるってことは甲板で素振りでもする気だったと見えるがどうだ?」

 「正解。思ったより早く目が覚めたからな」

 「筋トレは嫌うのに素振りはするのでありますか!?」


 提督は意味がわからないというように驚愕する


 「しますよ。過酷な筋トレが苦手なだけです」

 「過酷なつもりはないのでありますがね・・・」

 「慣れるまでかなり大変ですよアレ」

 「なんでも慣れるまでは大変でありますから。ささ、私たちは気にせず刀を振るうのでありますよ!」

 「そうさせてもらいます」


 白虎を引き抜き振り下ろし、そして使える型を一通り使っていく


 「風咲殿!アレやって見て欲しいのであります!九発同時の斬撃!」

 「出来ません!!」


 四発ですら出来ないのに!そして漫画でしか出来ないような技だしなんならビームじゃないかあれ!?


 「久那はできるのでありますよ?」

 「できるんですか!?」

 「できますよ。神様パワーアリじゃないと無理ですけどね」


 できちゃうんだ・・・流石神様パワー・・・冗談交じりに話しながら素振りを続けていると提督が銀時計を眺めてから艦内放送を行う


 「総員朝練の時間であります!」


 動いたついでにラジオ体操と筋トレをしてその場にぶっ倒れる。桜花さんも同じようにぶっ倒れていた。大和先生はピンピンしてるんだけど・・・

 少しこのままぶっ倒れてから食堂へと向かって朝ごはんを済ませる。お昼前には華姫に着くらしいしそれまではゆっくりとしよう。そう思って部屋でウトウトとししているとスマホが鳴る。

 虎織からのメールだ。いってらっしゃい、ただその一言だけだった。これは儀式前に見たかったなちくしょう!!

 そのメールに対して儀式終わったよとメールを返す。

 しばらくしていつ帰ってくる?とメールが来た。お昼には華姫に着くよと送ると迎えに行くから待っててと返ってきた


 「嬉しいもんだなぁ」


 そして時間は流れて艦は華姫港へと停泊する。提督にお礼を言ってから艦を降りると虎織が飛んできた。言葉通り飛んで来たので抱きとめ、勢いを殺す為に一回転する


 「おかえり!!!」

 「ただいま!」

 「怪我してない?どっか痛いところとかは?」

 「大丈夫だよ。心配かけてごめん」

 「うん!元気なら良し!」


 報告は落ち着いてからでいいと琴葉ちゃんからの連絡があった。各々港で解散となり虎織と我輩は家へと帰る。

 帰路で今回の儀式であったことを話し虎織から我輩のいない間にあったことを聞く。やっぱり黒影が各地に出たらしい。ただ各地で被害が出たとかはないらしく偶発的な同時発生として処理されたそうだ。

 家に帰ると近衛が何やら布にくるまれた長方形のモノを運び入れていた。そして我輩に気付くなり上機嫌に話しかけてくる


 「ちょうどいいタイミングで帰って来たな。面白いモンが手に入ったぜ」

 「何?」

 「とりあえず手ェ洗ってから居間に来い、お披露目はそこでだ」


 言われた通り手を洗って居間に座る。そこで準備ができたというように近衛は運び入れたモノの布を解く。出てきたのは切り裂かれた赤い炎を背に刀と四角い拳銃を持った軍服の男の油絵だった


 「今日美術館に持ち込まれてな。まさかなと思って買い取ってきた」


 近衛は今学芸員兼警備員として華姫の美術館で働いている。美術品の知識もあるし腕も立つということで雇われたらしい


 「この絵の男、将鷹、お前だろ?」

 「確かに特徴捉えてるね。髪型とか白く光る刀にロックに見える拳銃。確定じゃない?」


 明らかにこの形はグロックかUSP辺りだしなこの拳銃・・・あの頃にはなかったとはいえこの絵が描かれた頃には存在したかもしれないし


 「偶然の一致って可能性とかあるじゃん?そもそもあの儀式で現実に影響出ることなんて考えにくいし」


 出した結論はこうだった。現実的に考えたらこの推測が正しいはずだ


 「西園寺國広って画家の作品蔵で見つかった絵だ。なんでも知らないうちに増えてたとかなんとか。絵のタッチを見た感じだと本人のモノで間違いない。それに絵の摩耗を見る限り五十年は経ってるが作者の名前に覚えは?」

 「ありまくる・・・」


 西園寺さんこっちでは生きてたのか・・・ちょっと安心すると共に死ななくていい人が死んだのかと考えると落ち込みそうになる。

 まぁ生きててなによりと考えるべきか


 「なら確定だな。これはお前にやるよ。世話になってる礼も兼ねてな」

 「ありがとな。・・・爺様の部屋にでも飾っとくか」


 絵を飾る時ふと額縁にあるタイトルに目が行く。「希望の刃」か。その名に恥じない活躍をしないとな!

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