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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第5章 国無シ島編

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キ引幕 幕弐拾肆第

 随分と時間が経った、そう思う。ひたすらに斬って撃って潰して・・・夏の暑さとは裏腹に身体も随分と冷えてきた。身体は冷えているのに暑い、矛盾した汗が流れる。基本的に魔力の枯渇が先でここまで身体が冷えるなんて体験したことがなかった。今にも凍りつきそうな冷たさを抑え込んで戦う。まだ出発の汽笛が聞こえない。忠定もそろそろ限界、いや、とっくに限界は超えている。最後だからとその一心だけで立って戦っている。お互い無駄な体力を使わないように無言で黒影の相手をする。

 そんな時後ろから声が聞こえる


 「忠定、それにもう一人の方、早く乗るのであります!」


 この声は俊作さんだ。ここで黒影を押しとどめているので精一杯だから姿までは確認出来ない


 「俺の事は気にするな!今すぐ出ろ!」


 忠定はどうやらここに残るらしい。殿の役目は我輩に押し付ければいいのに。こちらとしては有難いが・・・


 「しかし!」

 「俺はここで死ぬって決めたんだ。少数切り捨てて多数を救え!」

 「だとしても!!」


 これは埒が明かない。力を振り絞り冷えきった身体に魔力を回し魔術式を新たに組み上げる。それを二つ起動する。

 空高く上る炎が地面を走り忠定と我輩、黒影を分断する


 「お前、何やってる!?」

 「俊作さん、そいつをぶん殴ってでも連れて行ってください。我輩は大丈夫。元々ここには居ないモノですから」

 「・・・その言葉、信用するのでありますよ。またいつか」

 「えぇ・・・未来で・・・」


 小さくそう呟いて風切を引き抜き真名を呼ぶ


 「大倶利伽羅」


 風切が蒼炎を纏いメッキが剥がれるように表面の鈍色が蒼炎に溶ける。

 こちらに近付いてくる黒影を一太刀で斬り伏せる。

 そして、しばらくして汽笛が鳴る。これでみんなは安全圏だ。もうひと頑張り、せめて爆撃機は潰していかないと・・・


 「やるぞ・・・!」


 気合いを入れるために一声。もうヘロヘロと言いたいところだがまだやれる・・・やらなきゃいけない


 「ったくまた一人で背負いこもうとしやがって」


 我輩の影が口を開く。いつもなら魔力がごそっと減る感覚があるが今は魔力の減りは何故か感じ無い。 そして影から蒼炎が吹き出す。

 そして出てきたのは我輩と容姿は似ているが髪が白、眼が水色の男、影朧だった。

 魔術式の変異から生まれた存在で我輩の瀕死状態で起動して暴れる魔術式の人格、らしいが今じゃ暴れまくる魔術式という印象はすっかり薄れてしまっているしなんなら何かしらを触媒にこうやって現界して手助けしてくれるようになった


 「よう、助けに来てやったぜ?」

 「影朧!?お前触媒も無しになんで!?」


 お前何かしら触媒要るとか言ってたじゃんか!!


 「お前の心意気を汲んで出てきてやったんだよ。ここは少彦名命が管理している結界だ、そのリソースをちょちょいっと貰って出てきたって訳だ。最初から出てきても良かったんだが流石にお前の為にもならないしな」

 「それで心折れそうな時に出てきたってワケか・・・」

 「まぁな。本当は回復役に徹しておこうとは思ったがこれは想定以上の部の悪い戦いだからな」

 「想定って・・・」

 「俺の中じゃここまで黒影、いや、ここに居た奴らの怨念が多いとは思ってなくてな。まさか現実の地脈伝って自分の故郷に戻ろうとするとはな・・・」

 「はぁ!?なんだそれ!?てことは各地に黒影を模した怨念が出てるってことか!?」

 「そういうこったな。今天照達がフィルターかけたりしてるから被害は出てないんじゃないか?少なからず天照が戻ってきてないってことは華姫は無事だ」

 「・・・かなりやばいことしてないか我輩達」

 「そうかもな。でもここに吹き溜まって厄災に成り下がるよりは随分とマシかもしれないぜ?」

 「厄災に成り下がる・・・か。確かにそうかもな」


 五十年以上経ってもなおここに留まり続けるならそのうち本当の厄災になりかねない。しかしその、自分のために他の市とか無法区に迷惑かけるのはすごく気が引ける。どっかで謝りに行った方がいいよなぁ・・・


 「今はごちゃごちゃ考えてないで目の前のをどうにかしようぜ」

 「だな・・・」


 一瞬立ちくらみが起きた。そりゃ戦いっぱなしで魔力も枯渇しかけだしな


 「ったく情けねぇなぁ・・・ちょっとだけだからな」


 影朧が我輩に向けて蒼炎を放つ。疲れはそのままだけど魔力は少し、ほんの少しだけ回復した。

 ちょっとだけっていってマジでちょっとだけな事ある?とか今は贅沢言ってられない。身体が動くようになったらそれだけでも十分!華姫の黒影よりは随分と弱いしな。

 刀を握り直して近くの黒影をと思ったら消えてる・・・?まさか時間か・・・?いや、早すぎる・・・


 「やぁ、親友、お待たせ。帰ってきたよ」

 「天ちゃん!!」


 炎の渦を作りそこから半日くらい前にここを去った天ちゃんが姿を現した。今回はモコモコ部屋着ではなく羽衣に豪奢な着物といういかにもな姿だった


 「げぇっ!天照!?」

 「その反応二回目だけど影朧、まさかとは思うけど忠定の反応見てたな?」

 「バレたか。まぁそうじゃないとこんな反応する必要ねぇしな」


 影朧がケタケタと笑う


 「そんで、戻ってきたってことはそっちは何とかなったのか?何にしろ俺は出てきた意味がなかったワケだが」

 「あぁ、問題無く。多少取り逃したが彼らは帰ったし清めておいた。まぁ自力で祓ったヤツらも多いけどね。そんなことより親友、時間知りたくない?」

 「知りたい!!」


 思わず飛びつく勢いで言ってしまった。少し恥ずかしい


 「今は午前九時五十分、あと少しでここを爆撃機が通り過ぎるよ。流石に巻き込まれるのは嫌だからこれだけ置いて帰るとするよ」

 「天ちゃん!これ!?」


 投げ渡されたのは風咲家の魔術秘宝の一つ天穿ツ弓。朱色の和弓だ。それと矢のケースも一緒だ


 「大丈夫ー。レプリカだから安心していいよ。那須与一顔負けの弓使い楽しみにしてるからさ。じゃあねー」

 「あっ、言うだけ言って行っちゃったよ・・・」

 「てかさ、俺マジでなんで出てきたんだ状態じゃないか?」

 「確かにな!でも、心細かったから助かったよ」

 「はー・・・お前はさぁ、もっとこう・・・いや、言っても無駄か・・・まぁなんだ、きっちり役目は果たしてこい」

 「あぁ」


 影朧はそのまま消えるのかと思ったがどうやら見届けてくれるらしい。弦に矢を置いて待つ。ただ静かに待っていると静寂を破る轟音が訪れる。黒く大きな鉄の塊・・・こんなものがよく飛んだものだなと思いながら弦を思いっきり引き絞り離す。轟音にも負けない風を切る音。大きな音と共に閃光と熱線が降り注ぐ。そして鉄の塊も落ちて来ていた。体の皮膚がボロボロになっているのが解る。


 「影朧、もう遅いかもしれないけど落ちてくる人助けてくれ・・・」


 もう感覚も薄いしさっきので一気に気持ち悪くなって地べたを這いつくばっていた。再現とはいえ人を殺した罪悪感に胸がぎゅっと締め付けられ、そして中身を吐き出しそうになった


 「おいおい嘘だろ・・・無人機技術なんぞこの時代にあるわけないだろうがよ・・・将鷹!人間いねぇぞ!」

 「あぁ・・・もしかしたら溶けたのかもな・・・」

 「無人だよ。あれは」


 知らない声だった


 「僕はね、あれに突っ込んだんだ。操縦席目掛けて思いっきり正面からね。そしたら何かしらで遠隔操作してたのさ」


 顔を上げるとそこには見覚えのあるボロボロの軍服を身にまとった青年が居た。確か艦で線香を上げたあの人だ


 「こんな悪夢はもう終わりだ。君は君の居場所に帰りたまえ。あとお線香ありがとう。アレで僕は救われたよ」


 地面に這いつくばった身体を持ち上げられ轟音と閃光、そして熱線を受けながら海へと投げ捨てられた


 「普通に死ぬよなこれ・・・」

 「死にませんよ。お疲れ様でした。これで儀式の第一段階は終了です。あとは忠定と決着を付けるだけです」


 海に沈んでいると久那さん、というより少彦名命様の声が響く。

 まだ終わりじゃないのかよ・・・というかそれは早めに言って欲しかったな・・・

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