表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第5章 国無シ島編
333/360

第40幕 大物

 「マップ的にはこの付近に密集してるよ。ピンの数は三十かな・・・」

 「かなりの数だね」

 「まぁやるしかないだろ・・・死ぬなよ?俺がぶっ殺されるから」


 各々少し間隔を開けて立ち、黒影の襲来を待っているとヴァンさんがハルバードを構えて冗談めかしてそう言って笑う


 「緊張してきた・・・」

 「着いてきたからには死ぬ気で仕事してもらうよ。ただ無理だと思ったらしっぽ巻いて逃げて貰わないと困るからね。将鷹が帰ってきてすぐに落ち込まれちゃ仕事が増えるからさ」


 結城君の不安そうな言動に月奈が喝を入れる


 「どんだけ風咲先輩の事好きなんすか・・・」

 「てめぇぶっ殺すぞ」

 「月奈、口悪いよ。あと仲間割れしないで」

 「良かったね、虎織が甘くて」

 「はいはい、戯れんのもそこまでだ。警戒怠るなよ」

 「そうですよ。いつ出てくるかわかんないんですから」


 この場に居るはずのない子の声、九重ちゃん着いてきたの!?と思ったけど周りには私たち以外居ないしスマホから声が響いてる訳でもない


 「九重、何をどうやってんだ?」


 ヴァンさんが冷静に疑問を投げる。振り返りもせずただ真っ直ぐ見張るべきところを見ながらだ


 「僕の特殊能力ってやつです。ペルソナフォローっていって僕の人格を好きな物に憑依させたり幽霊みたいに誰かに追従させたりして情報の収集と伝達が出来ます。多分魔術ではないんですけどね」

 「何それめちゃくちゃ便利!!」


 思わず声が出てしまった。実際後方支援の声がラグなく、電波とか関係なく伝えてくれるのはめちゃくちゃ助かる


 「でしょう?」

 「そういうの使えるなら早めに申告しとけよ・・・」

 「あははは、できるようになったの最近で・・・」

 「それなら仕方ないか。それで現状どんなもんなんだ?」

 「まだ動きは・・・って言いたかったんですけど今しがた黒いのが見えました。すぐに目視できる範囲に来ます」

 「了解、各自構えて奴らの進行を止めろ!」


 黒いモヤが見えてきた。形は不定形と言いたいけどなんか蜘蛛の脚が人間の手足みたいなのに置き換わった気持ち悪い見た目だった・・・

 初めて見るタイプだし嫌悪感が凄い


 「うわっ、キモイのが来た!?」

 「見た目なんてどうでもいいですよ。殺せば消えますから」


 月奈はやや機嫌悪そうに槍を振るう。神殺しの槍のギミックの一つ、槍の分割とその間に通っている鎖。神様製だからなのかその槍にその量は入らないでしょってくらいには伸びる。それで黒影に穂先を当てて切り裂く。黒影は霧散して消えるけどまた同じようなのがカサカサと凄いスピードで私に向かってくる。背負っている蛮歌に手をかけ、地面に振るうと刃は土に埋まり、同時に紫の布が解け四角い鉄板のような黒い刃が姿を現す


 「椿我流」


 蛮歌の土から引き抜き腰を落として蛮歌の大きな刀身で身を隠すように霞の構えで迫る黒影との距離を測る。蛮歌の切っ先、というより角を地面につけて待ち構える


 「半月!」


 相手が刃に触れた瞬間に獲物を引っ掛けるように持ち上げその勢いで後ろに叩きつけながら蛮歌の重みで斬り潰す。持久戦なら動き回るよりできる限りこうやって待って、一撃で仕留めていった方がいい


 「虎織!もう一匹そっち行った!」


 月奈の声で後ろの霧散した黒影から前へと目線を戻す。

 迫ってくるのはさっきのより小さいし速い。今から構え直して振り下ろすのもタイミング的に微妙、蛮歌から手を離し腰に差した虎徹と鞘へと手をかけ振り抜く。普段の黒影には感じない鈍い肉を斬る感覚に多少の気持ち悪さを感じながら怯んで後退りした黒影に一歩分踏み込んで袈裟斬りでの追い討ちを行い霧散させる。

 こっちにはもう来てないかなと辺りを見渡す。ヴァンさんもクルクルとハルバードを器用に回して遊んでるし月奈も余裕そうに構えてる。結城君はまだ覚悟が決まりきっていないのかみんなより一歩下がった所で頬を叩いて気合いを入れていた。

 安全確認も出来たし地面に刺さった蛮歌に手をかけ引き抜く。それとほぼ同時に地面が揺れ轟音が響く


 「地震、なわけないよな!大物が来るぞ」

 「やっぱりそういう予兆!?」

 「お察しの通り大物です!黒影の平均サイズを大きく超えたよくわからないのがこっち向かって来てます!」

 「よくわからないってどういうこと」

 「見れば解ると思います!」


 わからないって一体って思いながら構えていると九重ちゃんの言葉の意味がわかった。というより見えた。

 キメラでもなければ龍や巨人でもない。いや、そういう風に言うべきじゃないか。なんたって


 「なんでもかんで混ざりすぎじゃない!?」

 「ドラゴンにイエティ、ウロボロスにペガサス、オマケにデカデカと人間の顔まで付いてやがるな!」


 身体は大きい四足歩行のドラゴン、そしてドラゴンの翼の代わりに毛むくじゃらの剛腕が生えて繋がっているのか浮いているのかよくわからないけど蛇が尻尾を咥えて後輪となっている。

 見上げるとドラゴンの首の先は頭の代わりにペガサスの身体が生えていて首に人間のような顔が浮かんで何かを叫んでいる


 「これ黒影とかそういうのじゃないだろ絶対!!」

 「何してくるかわかんないからみんな気を抜かないで。特に結城」

 「ここまで来るとなんか現実感なくて怖く無くなって来ましたよ・・・!」


 そう言いながらも結城君の声は震えていた。必死に恐怖に立ち向かっているんだろう。かけられる言葉はないけど一応言っておかないとね。きっと将鷹ならこう言う


 「現実感なくても攻撃はできる限り避けること、いい?」

 「うっす!」

 「よし!じゃあやっぱり大型相手なら私とヴァンさんは攻撃いなして月奈と結城君が弱点見つけて叩く、それでいい?」

 「私は異論なし」

 「俺もだ」

 「俺にできるんですかね・・・」


 正直私が思いっきりぶった斬って月奈が一気に払うみたいな方がいいのかもしれないけど一人棒立ちか相手の攻撃捌くので手一杯ってなると色々と困る。なら決め手になってもらう方がいい


 「やってもらわないと。ここに何しに来たか覚えてるよね?私はあんまり手合わせしてないからわかんないけど将鷹は褒めてたしやれると私は思ってる」

 「・・・はい!」


 嬉しそうにそう答えてくれて良かった。

 大型相手ならこっちも大型武器使わないとね。こういう機会想定して蛮歌を作ってたんじゃないかって思うと雪はやっぱりすごいなとは思う。いつも思ってるんだけど今日は特に


 「弐刃解放、双翼剣!」


 蛮歌に魔力を流し重なっている二振りを剥がす。蒸気圧着かそういう技術って雪は言ってたっけ。剥がして二振りになった刃の背を魔力を流しながらぶつける


 「一刀両刃、長柄大剣!」


 煙と共に二刀の背が合体して持ち手の下部分が展開してさらに持ち手も伸びる。もう正直謎技術にも程があるんだけど。

 一応これであのデカブツを叩き斬るのに向いてる姿にはなったかな。低く唸る人面の声は出来れば聞きたくないけどどうしようもないよねぇ・・・

 ズシズシとドラゴンの足がこちらに歩を進めてくる。アイツに視覚があるのかどうかも結構気になるところではあるし色々試して行かないとかな


 「行くぜぇ!」


 ヴァンさんは掛け声と共にハルバードを相手の脚目掛けて放り投げ、懐から長方形で曲がったハンガーみたいなのがかかってるような銃を取り出して凄まじい勢いで乱射する。黒影は怯む様子もないけど脚の影が削れている感じはする。

 それに続けとばかりに私も蛮歌を振りかざし力任せに振り下ろす。狙ったのはドラゴンの脚、一瞬めちゃくちゃ硬くて弾かれそうになったけど力任せに振るったのもあって鱗部分さえ過ぎてしまえば斬れる!

 というかヴァンさんのハルバードさっき刺さってなかった!?どんな力で投げたの!?


 「虎織!危ない!」


 月奈の声で上を向くとペガサスが胴体ごとこちらを見下ろして口を開けて黒い炎を吐き出す。避けられないなんて事はない。脚を斬っている最中の蛮歌を引き抜き炎を避ける。

 炎は地面に着くと燃え上がること無く人型の黒影へと変わった。これもしかして量産されるやつじゃ・・・

 そうだった場合早めに倒さないと近づくどころか物量で押し切られる


 「月奈!結城君!あの人型任せていい?」

 「任せて」

 「うっす!」


 二人が人型目掛けて槍を振るってくれる。ただあのデカブツへの通路は現状二人が開けてくれているところ・・・と思ったけど今の私にはこの羽織がある


 「白鎖!!」


 左腕を掲げて名前を呼ぶ。袖の魔術式から白鎖が飛び出しデカブツの首に巻き付き勢い良く私を空へと放り投げ、白鎖は袖へと帰っていく。

 薄情な鎖って訳じゃない。この鎖は刃を両手で振れるように、そして空中で身動きが取れないこの状況での緊急回避手段の確保、確実に将鷹の戦術を学んでの動きをしてくれてる。

 蛮歌を両手で握り込み首目掛けて刃に炎を纏わせ振り抜く


 「椿流、龍伏せ!!」


 首は脚よりは固くない!もっと細ければ首を落とせたのに・・・ただバランスを崩したりするなら脚を狙うのがセオリー・・・月奈なら魔術式を足場に空を駆けることが出来るけど月奈一人の時に何かあったら困る。

 考え事をしながら着地地点を模索する。そんな時声が聞こえてくる


 「熱い・・・苦しい・・・殺して・・・」


 首に埋まった人面からの声・・・!?

 驚いてる場合じゃない!やるべきことは変わらない!倒さないと・・・!惑わされるな!


 「虎織!もう少し奥に着地して!アレ使うから!」


 月奈の言葉を聞いてなにをするかわかった。魔術式の範囲内全てに強制力を持つ魔術式・・・

 命令すれば全て実現させる市長が持ってる強制遂行の強化版みたいなやばいやつだ。

 着地地点の修正のために普通の鎖を木に絡ませそこへ向かう。白鎖でも良かったんだけどさすがに頼りすぎるとね。

 着地をして範囲外なのを確認してくれてたのかワンテンポ遅れて月奈が叫ぶ


 「この範囲内では私がルール!霧散しろ!」


 いつもなら静かに命令を下すのに切羽詰まったように早口で叫んでいてびっくりした・・・

 範囲内の黒影は消えかけたけど直ぐに元の姿に戻る


 「うそ・・・強制力は上げてるのに・・・!」

 「何かしらのカラクリはあるはずだ。例えばあの後輪になってるウロボロス!あいつは再生の象徴、そいつを潰せばどうにかなるんじゃないか!?」

 「なるほど!虎織、後ろから行ける!?」

 「任せて!」


 一跳びで黒影の背に乗ってそこからもう一跳び、蛇目掛けて斬りかかる。もう少しで切っ先が入る、そんな時に横から剛腕が迫る


 「脚とか首の時は狙って来ないなと思ったら後ろ向きに付いてたって訳ね・・・!」


 斬りかかるのを中断して蛮歌を盾に横から迫る剛腕の直撃を防ぐ。防ぐと言って衝撃を多少分散する程度で普通に痛いし後ろに吹っ飛ぶ。やばい、このままじゃ木にぶつかるしこの速度なら最悪木の枝が突き刺さる・・・

 どうしよう、そう思考を巡らせていると身体が凄まじい勢いでぐいっと前へと引き寄せられる


 「白鎖!?」


 左袖から白鎖が出てきて直ぐに戻って行った。どうやら凄い速度で黒影のどこかしらに引っ掛けて私を引っ張ってくれたらしい。なら、このままあのウロボロスをぶった斬る!

 今回は速度が乗っているのもあって腕は反応してこない!

 刃が蛇に食い込む。速度も相まって手に伝わる抵抗は大きいけど斬れないことはない。一部を斬ってみんなのいる方向に左腕を伸ばすと白鎖が近場の木を掴み連れて行ってくれる


 「斬れないことはないけど神殺しとかで斬った方が確実かもしれない」


 着地と同時にみんなに状況報告する


 「機動力があればいいんだけどね・・・」

 「なら私が吹き飛ばすよ!」

 「問題はあの腕、だな。そこは俺と虎織で抑え付けるそれでいいか?」

 「問題ないです。結城君、あの頭のペガサスお願い出来る?」

 「や、やってみます!」

 「なら決まりだね、二人とも、この鉄板に脚乗せて」


 二人は首を傾げながらも蛮歌に足を乗せる。二人分だからめちゃくちゃ重い・・・魔術式で腕力を上げてこれだけ重いってやっぱり一人ずつの方が良かったかな


 「吹き飛ばすってまさか!?」

 「その、まさかだよ!!」


 思いっきり振り上げ二人を砲弾みたいに吹き飛ばす


 「「うわぁぁぁぁぁぁ!?」」


 結城君と月奈の悲鳴が聞こえて来たけど気にせず剛腕の所まで走り、斬りかかる。関節部分に切り込みを入れて人体的には動かないはず・・・

 上を見上げると結城君がペガサスの頭に槍を突き立てさらに懐に持っていたナイフで翼を切り落とす。痛みがあるのかペガサスは嘶き暴れ始める。

 腕が動き始めた瞬間、跳んで付け根の部分に蛮歌を押し込む。暴れる度にどんどん刃が沈み込み蛮歌の重さで斬り落とす。

 そんな中、金髪金眼となった月奈がウロボロスに槍を突き立てる。向こうの腕が動く感じもないしヴァンさんが上手く押さえ込んでくれてるみたいだ


 「さっさと!消え失せろ!」


 月奈が叫びと共にもう一度ウロボロスに槍を突き立てる。それと共に雷撃が地面へと撃ち込まれる。どちらが有効打になったかはわからないけど黒影は霧散していく


 「九重ちゃん!」

 「黒影の反応ロスト!お疲れ様です!」

 「あわわわわわ!誰か助けて!!」


 落ちてくる結城君を白鎖で捕まえて木の枝を介して滑車みたいに吊り上げる


 「ぐえっ・・・雪城先輩、これ下手したら中身出ますよ・・・!」

 「吐くなら草陰にしてよー」

 「これで一件落着でいいのかな?」

 「そうみたいだな。和、よくやったなぁ!」


 ヴァンさんが結城君を褒める


 「ちょっ、恥ずかしいですって!」

 「ヴァンさん」


 私はヴァンさんに声をかけてから拳を突き出す。突き出した拳にヴァンさんが拳を軽く当てる


 「ナイス!」

 「虎織、私も!」

 「俺もいいですか?」


 なんだかんだ全員でグータッチしていた。ヴァンさんに教えてもらった挨拶の一つだけど気づいたらみんなやるようになっていた。少しだけ気を緩めて休憩してまた気を張り直そう。今はただみんなであの大型を倒した喜びを分かち合いたい

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ