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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第5章 国無シ島編
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第28幕 儀式開始

 「野郎ども!錨と足場を下ろせ!」


 提督の号令で乗組員が忙しなく動き錨やスロープを降ろしていく。錨とスロープには大量の久那さんがつくった札が貼られ島に群がる黒い影が艦に登れないようにしてあるらしい。

 島は思ったよりも大きく人数人と言われていたがもう少しありそうだ


 「一足お先に下降りますね」


 我輩は提督にそう伝え刀を構えながら魔術式の足場を跳んで島の足場へと降り準備をしていく


 「気をつけるのでありますよー!」


 提督が手を振り大声で激励してくれた。手を振り返して前を向く、そんな時、目の前の足場が消える。この付近が魔術式の使えない境界線なのだろう。さて、どうしたものか、跳んでしまって足場になる魔術式は消えた。新しい足場作れるのか・・・?いつものように足場になる魔術式を起動するがスっと消える。そんな中でも自由落下は続いていく。幸いなことに足を怪我する高さでは無いし上手く足元の黒い影で勢いを殺せればなんとかなる


 「白虎、行くぞ!」


 肩に一、二と白虎の峰を軽く当ててから身体が一回転するように上から下へ振り抜く。刃は黒い影を裂き腕に鈍い感覚が伝わると共に落下の速度が少し和らいだ気がする。そして我輩の足は地面へと接触する


 「いっってぇぇぇ!!」


 思わず叫んだ。めちゃくちゃ痛かった。折れてはいないけど足がジンジンする・・・こういう時のために鎖の一本でもあれば良かったんだけどな・・・

 そんなことより今はスロープ付近にいる奴らを払い除けるのが最優先だ。スロープとかが登れないだけでその付近に群がられちゃ降りてくる桜花さんや大和先生が大変だ。魔術が使えない場所にいるからここからスロープ付近まではただただ己の剣術が試される。自信が無いわけじゃないが咄嗟の時に取れる手段が限られるのは不安ではある。

 まだジンジンと熱くなる足を少し動かし、そこからどんどん速さを加えていく。目の前を阻む影を斬って捨て、スロープへと近づいていく。振るう刃はいつもより重く感じその重さがなんだか心地よかった。魔力がないからと言っても身体能力はそれほど変わっていないのかもしれない。腕力はちょっと補強してたからそれが刀の重さとなっているのかもしれない。

 三つ不定形な影が正面からこちらに向かって近づいて来る。一つを腰に差した鞘を逆手で引き抜きそれで殴打し、一つを斬り伏せ、一つを蹴り飛ばす。

 打撃とか効いて良かったなと思いながらスロープ付近、魔術が使える範囲までやってきた。

 あまり魔力を使い過ぎるのも良くないだろうから燃費のいいやつで周りの奴ら払い除けないとだな


 「椿我流、七彩」


 海水がある分七彩で使う水には困らない。少しの魔力で我輩が引く剣閃に鋭い水流が後を追うようにやってくる。

 近くのものを押し流し削り取っていく。これで周りは片付いた。我輩は大きく息を吸い声を張る


 「スロープ周り安全確保完了です!」


 我輩の声に答えるようにスロープから桜花さんと龍の面を被った黒い着物の久那さんが降りてくる


 「御苦労、大義であった」


 どうやら神様モードらしい。この場合は少彦名命様と呼ぶ方がいいかもしれない


 「向こうから影が来ておりますがどうされますか少彦名命様」

 「案ずる事はない」


 桜花さんの問に対して少彦名命様は余裕ありげに答えて着物から札を取り出しそれを四方へ投げる。ただの薄い紙に見えたがその見た目に反して真っ直ぐ、力強く飛んでいく。アレで黒い影はこちらに寄ってこないらしい


 「それでは儀式を始めようぞ。童、適当に胡座で良い、楽にして地面に座るがいい」

 「はい」


 少彦名命様の言葉に従い凸凹とした地面に座る。座ると共に額に何かが貼られた。一束だけ下がっている前髪に気を使ってくれたのか少し右にズレている気がしなくもない


 「これから童には過去に少しだけ干渉してもらう。そこでやってもらうことは雪城忠定のやり残したことをやり遂げる、それだけだ。完遂できれば童とあの男の魂の癒着は多少なり緩和されるだろう。そこを私が引き剥がす。良いな?」

 「やり残したこと・・・?」


 あいつのやり残したことってなんだろう?生きて帰れなかったこと?いや、それは多分違う。島の人間の避難か?


 「やりたい事は向こうの忠定か内に居るのに聞くんだな。では始めるぞ」


 その言葉で視界が真っ白になる。身体が沈むというより落ちていく感覚だろうか。それに身を委ね落ちていく。

 走馬灯のような昔の思い出が過ぎては次の思い出がやってくる。懐かしい、虎織と喧嘩した日だ。こっちは月奈と初めてあった日、次は琴葉ちゃんが連れていかれた日、時間が逆行しているのか。

 身体が落ちる感覚は気づけば無くなって真っ赤な彼岸花と白い花が咲く水面に立っていた。ここは我輩の心の底・・・?


 「よう、ついにきちまったか。にしても軍服なんて似合わないもん着てんなぁ」

 「忠定・・・似合わないのは百も承知だっての」

 「そいつは失敬。あの死地に行ったら俺を見つけて肩を叩け。今の俺の魂が入るはずだ。そうすりゃお前も楽できるだろ?」

 「楽、なのかな・・・」

 「楽とは言えないかもしれないな。なんせ戦争だからな。お互い憎くて殺しあってんだ、血で血を洗うってのを体験できる珍しい機会かもな」

 「そういうのはやなんだけど・・・」

 「ま、嫌でもやってもらわないと困るんでな。少彦名命に怒られるし」

 「ちなみになんで我輩はここに来てるんだ」

 「俺が呼んだからな。目を覚ませば戦場さ。覚悟のひとつやふたつしときたいだろ?」

 「ありがたいもんだけどもう覚悟は決まってる」

 「じゃあ行ってこい。お前の魂と炎を取り戻すための戦いに」


 我輩は目を瞑り、再び目を開ける。変な匂いするし視界は煙たくて、息苦しい・・・いきなりなんなんだよ・・・

 起き上がると無数の倒れた人々。まさかガス兵器使われてる状態か!?

 近くに倒れている人の脈を測る。どくどくと動いている、まだ生きてる!


 「おい、起きてくれ!何がどうなってる!?」


 身体を揺すって起こすと苦しそうに軍人は口を開く


 「ガスだ、しばらくしたらアイツらが来る・・・動けるのなら早くにげろ」

 「この地点で魔術式は!?」

 「使えない・・・」

 「わかった!基地の方向はどっち!?」


 我輩の問いに対して口を開くことなく軍人は指で方向を示してくれた。我輩は彼を担ぎガスであろう物質が立ち込める場所を抜け、その場で軍人を降ろしてガスが撒かれている場所へとまた歩き出す。多少なりとも神様の加護とかで毒と薬には耐性がある、なら今ここに転がっている人を助けられるのは我輩だ。一人一人、脈など気にせずガスが立ち込める場所から遠ざけ運んでいく。何往復かしているとガスの向こうからざっ、ざっ、と足音が聞こえる。死の足音だ。我輩は全力でその場に転がっている人を担ぎ走る。視界が悪いのは相手も同じ、なんならガスマスクをしているであろう分こちらの方がマシだろう。だからといって無理に戦闘を仕掛ける必要はない。逃げの一手だ。ガスを抜け横たわっている人、座り込んで体力が少し戻ってきた人に叫ぶように声をかける


 「起きて走れるか!?」

 「な、なんとか」

 「なら逃げるぞ!すぐそこまで来てる!」

 「わ、わかった!」


 我輩が一番後ろで警戒を続けながら負傷した軍人達の基地へと向かう。森の中を抜け塹壕や境界線と思われる堀を越して木造家屋がぽつぽつと見える場所に来た。ここが日ノ元、いや、日本の基地か

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