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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第5章 国無シ島編

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第27幕 大倶利伽羅風切

 夜を越し早朝、凍るような寒さの甲板で提督は佇んで居た。軍刀を地面につき、そこに両手を乗せ白の軍服をはためかせ立っている。眠気覚ましに朝の風を浴びに来たらまさかの邂逅である


 「風咲殿。そろそろ海域に入りますから覚悟するのであります。島自体にはもう少しかかりますがこの付近の死者もそれなりの数が存在しますし波に呑まれて流される者もしばしば。既に数匹艦に取り付いているのもいるみたいでありますな」


 提督の言葉を聞いて臨戦態勢に入るがふらりと外に来たが故に獲物がない。素手でもやれなくもないか。いや、そもそもそいつらって倒せるのか?倒してどうなる?


 「提督、その幽霊的なのって」

 「ただの怨念の塊でありますよ。意思なんてものはありもしない、ただ慰められぬ魂が海に浮かび彷徨い害をなすのみであります」

 「素手とかで倒せます?」

 「それは正直解らないのであります。ここまでの敵意を向けてきたのは初めてでありますから」

 「マジですか・・・」

 「大マジでありますよ」


 ガタンと甲板の手すりに何かがぶつかる音がした。目を向けるのは怖いが見なければならない。

 そこにはボロボロの茶色い布切れのような軍服を着たモノが立っていた。顔は原型を留めている、熱傷が酷いながらも無表情。その不気味さに一歩後退ってしまう。我輩は震える喉と身体を押さえつけ、平静を装ってそのモノに話しかける


 「貴官、所属とこの艦へと乗った目的は?」


 返答は無い。ただ恨めしそうにこちらを見つめるだけで微動だにせず立ち尽くす。殺気は感じられない、ただ己に降りかかった理不尽を訴えるような様子と言えばいいのだろうか


 「久那さん、お線香ありますか?あっ、でも普通は玉串か・・・」


 ここには居ない久那さんに語りかけるように呟く


 「うちはお寺ではありませんが一応準備はしてありますよ。玉串でやるのが普通なんですが急を有する時はこちらの方が良いかもしれませんからね」


 我輩の真後ろから久那さんの声が聞こえる。一瞬ノイズが入ったような声だったのは少彦名命の能力のひとつを使って近くに来てくれたからだろう。こちらを睨め付ける先人から目を離さず失礼ではあるが肩の上に手を開いて持っていく。すると手のひらに和紙と同じ手触りの箱が触れる。それを握りしめ目の前まで持っていく


 「助かります」


 紫の線香の入った箱が一瞬視界を遮り目を離してしまった。やばい。多分目の前にいるやつだこれは。

 予想通り先人は目の前に居た。ただただ彼は目の前の我輩を睨め付けるのみ、近づいて来たからか感覚もしっかりしてきて、色んなものが焦げた臭いが鼻を突く。

 紫の箱を手探りで開け中の厚紙をどけて二本線香を取り手を後ろにして狐火を焚き線香に火を灯し線香独特の匂いが立ち込めたのを確認し線香を前に出す


 「先人よ。どうか安らかに眠ってください」


 しまった・・・線香を置く場所がない。火をつけてからそれに気づいた。これでは手を合わせる事が出来ない・・・そんな時、先人は手を伸ばし火の灯った線香を一本取ってから消えていく


 「どうやら一人帰られたようですね」

 「みたいですね。でもなんで一本だけ取っていったんでしょうね・・・」

 「私には解りませんね。でもあの方話のわかる方で良かったですね。今しがた上がってきたモノ共はそうはいかないみたいですが」


 黒い影が人の形を模して甲板へと一匹、二匹と這い上がってくる。さっきの先人とはモノが違う。ただの怨念の塊。負の感情が渦巻き災禍となった成れの果て


 「数は六か・・・って武器ないんだった・・・」

 「綾寧、軍刀に下賎を払う程度の加護は与えたので自衛してください。それに将鷹君は手のやける子ですね全く。大倶利伽羅、来なさい」


 風切の鞘に納まった刀が久那さんから我輩に手渡される。重さはなんだか軽い気がする


 「力を借りるぞ大倶利伽羅!」


 鞘から引き抜く瞬間、刀が重くなる。風切の入っていた鞘と同じ魔術式。鞘の鯉口から刀身と共に蒼い炎が吐き出される。引き抜いた刀身には龍が彫られており話に聞く徳川から伊達に渡された大倶利伽羅そのものだった。なんで久那さんが持っているのかは不明だが今はそんなこと考えるよりも目の前のヤバそうなやつらだ。

 刀を八相で構えて足で地面を掴み蹴る。跳ぶように一歩で距離を詰め勢いのまま災禍を斬り捨て、着地と共に次の着地点を定め、また一歩で跳ぶ。少しでも高い所に登って視界を広げる為に砲塔へと跳んで周囲を見渡す。蒼炎が燃えているのがさっきいた場所、次は艦首の群がってるやつら・・・跳ぼうとした瞬間提督の声が響く


 「風咲殿!後ろ!」


 目視、後ろに来てたとは。ちょっと困るな・・・跳び出す瞬間だから振り返って斬るのは無理がある。このまま強行して跳ぶと背中からやられるか?

 我輩は艦首の方へと跳び出し、その前で魔術式の足場でUターンする形で後ろに居たモノを正面から斬り払う。そしてまた艦首へと跳び刀身に風を纏わせ上から落下と共に群がる災禍を斬り捨てる。蒼炎がパチパチと火花を散らし空を舞う。

 次はと周囲を見渡すと災禍は去り、海に浮かぶモノも静まっていた


 「これで一安心でありますな」

 「ですかね。でもこっから現地までは気が抜けませんね」

 「えぇ、しかし久那は何処へ行ったのでありますか?明確に声は聞こえたのでありますが」


 提督がキョロキョロと辺りを見渡していると艦内に繋がる扉から久那さんが急いで飛び出してくる。手には我輩の風切を除く装備一式が抱えられていた


 「あれ・・・?さっきのは・・・!?」

 「もう居ないのでありますよ」

 「対処早すぎませんか・・・将鷹さんの刀とか色々抱えて走って出てきたんですが・・・」


 ぜぇぜぇと息を切らして久那さんがその場にへたり込む


 「大倶利伽羅だけで事足りましたよ。さすがは名刀ですね。ちなみになんですけど風切って実はこいつだったりします・・・?」


 風切の鞘に納まっていてなおかつ久那さんが風切を抱えていない。さすがにこれは風切の中身が大倶利伽羅だったとしか考えられない


 「お察しの通りです。流石にまだ成人をしていなかった将鷹さんに大倶利伽羅そのまま渡したら受け取らないでしょうし偽装しておきました。今やどちらが真名なのやら状態ですがね」

 「まぁ確かにあの頃から大倶利伽羅が名刀っての知ってましたし受け取り拒否してましたね!というかなんで陸前国の藩主の刀が播州まで来てるんですか・・・」

 「刀というのは世を転々と歩いていくものなのですよ。主を失えば違う主を求めるか美術館という鞘に納まるかですから」

 「そういうもんなんですか・・・にしても風切がねぇ・・・」


 そう呟いた瞬間刀身が蒼炎に包まれ見慣れた風切に戻っていた


 「風切に戻った・・・!?」

 「また名を呼べば姿を変えてくれますよ」


 少々驚いたが見慣れた姿になってくれて安心した。いや、まぁ大倶利伽羅も実質我輩を助けてくれてたワケで同一なんだけどなんか、ね・・・?

 そんなこんなで目的地まであと少し。覚悟はもう決まってる。決着をつけに行くんだ・・・

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