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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第5章 国無シ島編

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第24幕 刻坂綾寧

 暗闇の中影が唸る。怨嗟に満ちた何重にも重なった声で我輩を責め立てる


 「お前は何も出来なかった。見ていること以外出来なかった」


 あの状態で助けるって、どうしたらよかったんだよ・・・!

 何にも触れられない、そんな状態で!


 「その場から動く素振りも見せずただ我らを俯瞰し観測し何もせず恐怖に震え泣くのみだった。お前ごときが誰かを救うことなどできるものか」


 返す言葉もない。あの時怖くて脚すら動かずただ傍観しか出来なかった


 「ったくよぉ。お前なんでこんなもん見てんだよ」


 呆れ声と共に目の前に蒼の炎が柱を作る。蒼炎に照らされた足元は水面。そこに映るのは我輩であって我輩では無い。灰色の髪の我輩、影朧だ


 「どんな惨状見たか知んねぇけどよ、動けなかったのはお前の意思なのか?」

 「どういう・・・」

 「簡単だろうが。動けない制約かけられた可能性があるかもしれねぇって話だ」

 「そんなことして誰になんの得があるんだよ・・・!俺は怖くて足がすくんで・・・!」

 「一人称崩れてんぞ。少なくとも俺の知ってる風咲将鷹はあの場で怖くて足がすくんでも駆け出すヤツだと思ってたんだが」

 「買い被りすぎ」

 「それならそれで別にいいんだけどよ。そのままの自分でいいのか?」

 「いいわけないだろ!!」

 「そうだろ?お前は目の前の人間を救うって決めてんだろ。ならこんな所で止まってねぇでさっさと現実にもどれよ。ここで誰でもない、あの場の自分を戒める幻影なんか作って自責するなんてらしくねぇよな」

 「ははっ、自責か・・・確かにそうかもな。にしてもこれ、我輩の作った幻影かぁ・・・随分と恐ろしいモン作ってるな・・・」

 「そういうこった。んじゃ、さっさと帰れ」


 影朧に背中を叩かれ、若干モヤモヤとしたものを抱えたまま我輩は目を覚ました。ここは確か・・・前に我輩達が使ってた部屋?机が新しく入ってるけど多分前と同じっぽいな


 「ってて・・・なんか頭痛いな・・・」


 痛いと重いの二重苦だこれ・・・天気痛か?

 とりあえず起き上がって部屋を出ようと思ったが机になにか置き手紙が置いてある。

 見慣れない筆跡、提督だろうか。内容は起きたら執務室に来るようにと簡単に書かれていた。その手紙に従い執務室へと向かい戸をノックする


 「ふぁぁぁ・・・こんな時間に誰でありますか・・・?」

 「風咲です」

 「やっと起きたのでありますね。入室を許可するのであります」

 「失礼します」


 扉を開けると眠そうに目を擦る提督が珈琲カップを二つ手に取って、珈琲メーカーの方へと歩いていた


 「砂糖とミルクは山ほど入れるのでありますか?」

 「ブラックでお願いします」


 珈琲メーカーから珈琲が注がれる。独特で落ち着く好きな匂い、銘柄は解らないけど多分豆引きから自分でやってそうだなというのは何となく解る


 「つくづく幸三郎の孫でありますな。おっと失礼、手が滑って砂糖を入れてしまいました、次はミルクが・・・」


 提督が一つ目のカップに角砂糖一つと少し多めにミルクを注ぐ。多分爺様はダバダバ牛乳入れて角砂糖めっちゃ入れてたんだろうな・・・


 「お気遣いありがとうございます」

 「手が滑っただけなのでありますよ。まぁここでは肩肘張らずゆっくりしてくれる方が私としては嬉しいのであります」


 提督はそう言いながらブラック珈琲の方をクイッと飲む。熱く無いのか・・・!?


 「やっぱり淹れたては熱いでありますね!」

 「淹れたてだからそりゃ熱いでしょうね!」

 「はっはっはっ。反応まで幸三郎そっくりであります」


 懐かしむように提督は我輩にカップを差し出す。我輩はそれを受け取り思い出し気になったことを提督に聞く


 「提督、嫌なら答えなくていいんですけど俊作さんはあの場で亡くなられたんですか・・・?」


 我ながらド直球ですごく失礼な質問だ。だが気になることがある。あの状況下で生きられるはずがない。そして何より、()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 「いえ、風咲殿が見たのは気を失う前に言った通り一度目の結果であります。私の記憶と風咲殿の中に居る忠定の記憶を触媒にあの空間を作っていたので私の記憶から引っ張り出されてしまったのでしょう」

 「一度目ということは二度目も・・・」

 「時渡りでの試行回数は百を越えた辺りで数えるのは辞めてしまいました」

 「・・・代償は」


 気を失う前に言っていたが今一度聞き違えていないか確認をしておく


 「この眼でありますよ」


 提督は前髪をずらし普段見えていない左眼を顕にする。その眼は一目で視力が低下していると解るほどに瞳が白く濁っていた。白内障だったか、確かこんな感じに視力が低下して瞳が白くなっていくみたいな症状だった気がする


 「何故そこまで・・・」

 「好いた人の死は受け入れ難いものでありますから。回避出来る死ならば回避させたいと思うものでしょう?」

 「確かにそうですが・・・」

 「一度目はあのように。二回目は全力で止めようとしたのですが俊作は部下二人で私を押さえてそのまま出航、最期も看取れぬまま帰らぬ人となりました。そのあともあの手この手で止めたのでありますが残念ながら最後には時渡りの使い過ぎを咎められてしまいまして・・・」


 少し困ったような顔をして提督は笑って誤魔化す。聞いた感じだと提督の時渡り?というのは一定期間まで時を巻き戻せる能力ということでいいのだろうか?


 「ですが一度目よりは随分と長く一緒に居られたのでそこで満足とは言いませんが約束を破るほどでは無いと感じて今に至るという感じでありますな」

 「なるほど・・・」

 「大変ではありましたが五年、長生きしてくれたのであります。嗚呼、男の子が人前で涙を見せるものではありませんよ」

 「えっ・・・?」


 自然と涙が流れていたらしい。目を擦ると確かに濡れている。胸がギュッとなりはしたがまさか涙まで流れているとは・・・


 「優しい子だな君は。私の話を聞いて少しでも心に残ったのなら君は君のままで家に帰って想い人には私のような思いをさせるなよ」


 俊作さんと一緒に居る時の口調に戻った提督に少々びっくりして思わずそれが声に出てしまう


 「口調が・・・」

 「私からの本心と受け取っておくといい。まぁ今では彼の口調も私の本心ではありますがね?」


 提督は何時ものように俊作さんを真似た口調に戻りそこからは俊作さんの話を聞かせてもらった。時刻は朝の十一時、提督のこんな時間にって言葉からてっきり夜だと思っていたら・・・まさか夜営明けだったとは・・・

 これは悪いことをしてしまったな

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