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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第5章 国無シ島編
312/361

第32幕 惨状

 意識が朦朧とする。我輩はさっきまで風咲の本家に居て・・・今は海というか船の上か?


 「軍部の奴らまんまと騙されてくれて助かったよ」

 「まさか変化鏡で幸三郎に化けて来るとは思ってなかったのでありますよ。それにしても少彦名命に挨拶をしなくて良かったのでありますか?」

 「そうだぞー仮にもお前の女だろ?」


 話しているのは爺様・・・に化けた忠定、俊作さん、提督か。相変わらず提督のこの口調には慣れない


 「まぁ・・・彼女に言うとさ、行かせてくれないか神にされるか不死にされるか・・・どう転んでも人間らしく無くなるのは解ってたからさ」

 「忠定は何故そこまで人間に拘るのでありますか?」

 「簡単な話さ、今は人間に生まれたなら人間として生きて死ぬってのが世の摂理ってやつだ。時代が変わればこういうのも変わるんだけどな。今みたいな不安定な時代じゃ一柱神が増えただけでもバランスはどこかへ行ってしまう。そのバランスを崩したのが少彦名命となると他の神に責められるだろうしな」

 「本音は?」

 「人の意地っての?そういう他人からみたらくだらないやつさ」

 「身勝手なヤツ」


 不機嫌そうに提督はそう言って俊作さんの肩を降りて甲板中央へと立ち腕を組み先を眺める。眼前には木の生い茂る島、きっとこれが元の国無シ島だろう


 「さ、見えてきたのでありますよ」

 「じゃあお前らともお別れだな」

 「本当に死ぬ気でありますか・・・?」

 「出来れば生き延びたいがなぁ。難しいだろうから死ぬ気で出るってだけだ」

 「ならば我々としてはこういうべきでありますな。また今度」

 「・・・ははっ。そうだな、また今度」


 積荷や兵士が島へと降ろされていく。我輩も船から降りるべきかもしれない、そう思って島に降りようとしたら弾かれた。結界かなにか解らないが我輩はここには入れないらしい。ゲームじゃないんだからさぁと思いながらもここのルールには従う他ない


 「よかったのか、見送って」

 「いいのであります。男とはそういう生き物なのでありますから」

 「お前は命は大切にしろよ。私より脆いんだから」

 「綾寧には敵わないのでありますよ・・・」


 風景と太陽と月が目まぐるしく動き始める。何回まわったのかは解らないがきっとここの世界の今は八月十五日、島が消える日だろう。月がまどろみ、太陽が起きる少し前。夜と朝の境界を船が進む。目の前の静寂に包まれた島を目指して


 「急ぐのであります!一人でも多くの命を助けるために!」

 「タンカーとかいいから足場!ありったけ持ってこい!積載量増えるんだから使った足場全部置いてく!」

 「例え他国の者が乗り込んでも気にせず乗せるのであります!人命は平等、選り好みは後にするのであります!」


 俊作さんと提督は船内を駆け回りながら船員に指示を出していく。島はまだ健在、ということはまさか俊作さんは軍部の作戦という名の人種を問わぬ虐殺を聞いて一人でも多く人を助けようと船を出したのだろうか?


 「総員上陸後直ぐに現地の兵士と協力して島に居る者を連れてくるのであります!艦内指揮は綾寧に権限を渡すのでそれに従うこと!では、只今より人命救助作戦を実行するのであります!」


 焦りと強い志を感じさせるその号令に船員は応え提督の背を追いかけるようにぞろぞろと続いていく。

 船内に残った人達は慌ただしく地上と船を繋ぐ足場を繋げて提督は的確に指示を出して時に手伝い準備を進める。

 そんな中耳を劈くようなキーンという音が響き島に俊作さんの声が響き渡る


 「この島に居る者よ!どうか耳を傾けて欲しい!この島に本日十時頃より爆撃による敵味方関係のない掃討作戦が行われる!諸君らの命を我々は助けたい!これは我が国の意思では無く私個人の意思だ!どうか信じてこの島の北に停めている艦に乗ってほしい!諸君らの命は保証する!」


 この放送を聴いて来る人間なんて居るのか・・・?絶対に罠だと思われるだろ・・・

 こちら側の人間はどんどんと船に乗り込み始めたが外の国の者はほとんど乗ってきていない。

 太陽は目を覚ましどんどん天へと昇っていく。俊作さんも船に戻ってきてるし少なくはあるが外の人々もそれなりに船に乗り始めている。刻限まではまだある・・・そんな考えはどうやら激甘だったらしい。空を裂く轟音、来やがった・・・!


 「魔術式による障壁を展開急げ!甲板にいる者は伏せろ!」


 目のくらむ閃光、そして静寂と爆風。轟音は遅れてやってきた。

 木々は一瞬で薙ぎ払われ、燃え尽き、爆心地と思われる場所は更地と化す。

 障壁は衝撃は防げても熱線までは防げなかったのか甲板の人間の身を焼いていた。皮膚が溶け剥がれ、筋繊維がむき出しになるもの。目を押さえてその場でのたうつ者、誰かに覆い被さるもの、様々な地獄絵図。

 間髪入れず二つ目の閃光。また悲鳴と土地が消えた。

 甲板も既に酷い状態だ・・・もうどれが誰の皮膚か解らない


 「しっかりしろ俊作!なぁ!お前こんな所で死ぬようなたまじゃないだろ!?」


 聴こえてきたのは提督の泣き叫ぶ声


 「綾寧は無事でありますか・・・?」

 「あぁ・・・!私は無事だ!」

 「艦を動かせるなら動かして欲しいのであります・・・」

 「わかった・・・!動ける者は直ぐに出航準備を手伝ってくれ!」


 泣きそうな声で提督は叫びそれに呼応するように軽傷の者たちが船を動かす。俊作さんはよろけながらも甲板の生きている者達の手当を始める。正直生きているのが不思議な程の熱傷を負っている者が大多数で俊作さんもそのうちの一人だ。

 また静寂と轟音、音はひとつではなかった。次第に音は数を増していく。それと共に甲板の人達は苦しみながら胃の中をひっくり返し動かなくなっていく。

 我輩はただその光景に恐怖し涙するしか出来なかった。

 そんな中、急に誰かに手を引かれる。暖かい手だ


 「すみません、こんな所まで見せるつもりはなかったのですが・・・」

 「しかも一度目の一番酷い惨状とは・・・これは少し精神面を削られるのでありますね」

 「久那さん?提督?」


 言葉と共に我輩は現実へと戻って来ていた


 「お疲れ様です。見せるべきでないものまで見せてしまい申し訳ありませんでした」


 久那さんがそう言って我輩に謝る。提督も一緒に頭を下げていた


 「謝らないでください。これも知るべき、目を逸らしちゃいけない歴史ですから・・・」

 「さっきのは正しい歴史であり、現実とはまた違う歴史なのであります」


 提督の言っている事が解らなかった。どういうことだろうか。悩む時間もなく提督が続ける


 「私の能力は片目の視力を代償にした時渡り。その私の一度目の記録であります・・・」

 「時渡り・・・?一度目・・・?」


 頭が混乱している。きっちりと言葉が飲み込めない。倒れる様に我輩の意識は切れてしまった

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