第26幕 告白
「諦めてどうするんですか!死にたくないんじゃないですか!?」
久野宮さんが叫ぶ
「久野宮、妾は誰かの悪意で死ぬのは嫌だ、でも妾のせいで華姫の人々が傷つくのはもっと嫌なのだ・・・」
「しかし・・・」
「死ぬには惜しいが誤解が解けて良かったと妾は思っておる。あと死しても魂は残るものだ。妾は檻に閉じ込められていたが今回は自由になれる気がするのだ」
「置いていかれる者の気持ちにもなってください!ワタシはどれだけ悲しく、辛かったか・・・」
「たしかに悲しいし、辛いかもしれん。だが、乗り越えて欲しい。」
「実に実に面白い茶番劇ですねぇ?死人が殺して欲しいだの生者が死人に生きて欲しいなどと。滑稽で滑稽で、実に実に、不愉快」
さっきまで飄々としていた城ヶ崎は月奈の攻撃を避けながら不機嫌に、人を見下すように言葉を紡ぐ。
「これだから人間は嫌いなのです。自分勝手で人に自らの意識を押し付け自己満足の為だけに綺麗事ばかり口にする。反吐が出るほど気持ち悪い物ですね」
「私からすればお前の方が気持ち悪い!」
「おやおや、そのような汚い言葉遣いでは想い人に嫌われてしまいますよ」
「うるさい・・・!将鷹!こいつ殺してもいい!?」
月奈は凄い剣幕で我輩に問う。何故我輩にその問いを投げる?まぁ直ぐに殺しにかからないだけまだマシか
「できれば生きたまま捕まえたいから殺すのは最終手段だ」
こいつには色々と聞かないとだし、何より今起きている事を終わらせるにはあいつの知識が少なからず必要な気がする。多分気がするだけなんだろうけど。
「OK。なら半殺しまでは大丈夫だね!」
ニヤリと黒い笑みを浮かべる月奈。
昔から思っていたが月奈のこの異常なまでの悪人への殺意はどこからきているんだろうか・・・?
「お前も苦労人気質だな・・・あの娘の手綱はお前が握っていれば問題はないかが1度手を離すと厄介極まりないタイプだ、絶対に離すな」
「手綱を握っているつもりはありませんよ。月奈は好き勝手やってますから」
「まぁ人それぞれという事か・・・」
先代は呆れたようにため息をつく。
「さて、そろそろ限界が近いようだ。あとはお前たちに任せるとする。短い間であったが世話になったな」
「仄様・・・本当にどうにもならないのですね・・・」
久野宮さんは涙を浮かべ、先代の手を握り言う。
「別れの前に一言、言わせてください」
「なんだ?」
「昔からお慕い申しておりました・・・」
「今それを言うか・・・ふふっ・・・だがまぁうむ。人に告白されるというのは思いのほか嬉しいものだな」
先代はにかりと笑う。
だが同時に後悔と悲しみ、無念というような感情が渦巻いている気がする
「そうだな。うむ。もしも神から妾を解放してくれたのなら一緒に暮らすとしよう。妾も久野宮の事、結構好き・・・なのかもしれんしな」
「ハッハッハ。これは無茶を言ってくれますね・・・ですが目の前に人参を吊られて走らぬ馬はおりますまい!」
「妾は人参扱いか。まぁよいが。今度こそ頼んだぞ」
先代は目を閉じ倒れ込む。
これから起き上がるのは先代鬼姫、和煎仄ではなく荒ぶる神だ。
それは人に非ず。ならば我輩は本気を出せる。
「くくっ、久しぶりに現に現界出来たか。長かった。実に長かった。それにしても鬼の身体とは随分と良き物を用意したものだな」
顔つきや姿に変化はない。しかしその声は先代の声に重なるように低い男の声が混じっていた
「来やがったか・・・。神様、あんたの名は?」
普通の神様なら無礼極まりない口調で我輩は目の前の神に名前を聞く。
敵対するのなら礼儀など無用だろう。生憎武士道精神などは持ち合わせていない。
「随分と無礼な口の利き方をする人間だな。普段ならお前をこの場でぶっ殺しているが今は気分がいい。殺すのは後にして、その質問に答えてやろう。今の我に名はない。忌々しき神の禁厭に奪われたのだ。思い出すだけでもイライラしてきた・・・よし、殺す」
「神殺しは初めてだがやってやるさ・・・虎織、ちょっとだけ痛いかもだけど地面で寝ててくれ」
抱き抱えていた虎織を地面に寝かせてから羽織をかける。
羽織有りで色んな戦術を使うのもいいが2種類の武器で戦う方が今は最適だ。
どんな手を使うか考えるより2種類に絞って必死に食らいつく方が格上には丁度いい。
「風咲、お前は雪城の面倒をみておいた方がいいんじゃないのか?狙われてからじゃ手遅れになる」
久野宮さんが心配そうにこちらに声をかけてくれた
「結局近くで戦うなら抱えてるよりも両の手で守った方がいいじゃないですか」
抱えていては全力は出せないし片手では護りきる事は出来ない
「それもそうか。では共に戦うとしよう。仄様の為に」
「我らが挑むは名無しの神!風咲将鷹、推して参る!」
昔の武士のような掛け声を発し短刀と拳銃を構え我輩達は名も無き神へと立ち向かう




