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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第5章 国無シ島編
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第19幕 出立

 夢を見ることなく朝を迎える。隣で眠っている虎織を起こさないようにそっとベッドを出ようとした。寝巻きの甚平の袖に違和感。というよりいつもの感覚、虎織が我輩の袖を掴んで寝ている。

 甚平をベッドで脱ぎそっと、気付かれないようにベッドを出る。そして普段着ないワイシャツに袖を通す。少し肌寒いし上も着ておくか。

 クローゼットから軍服のような見た目の十二本刀に支給される制服を肩にかけ、ズボンも制服のものを履く。

 朝ごはんは今日は食べてる余裕はないか。

 刀を二本、ベルトに括り付け銃弾と拳銃を肩掛けの鞄に入れる。今回は羽織は置いていくから荷物は最小限にしておかないと。軍服にも魔術式を組み込めばいいのだがそれでは魔術が使えない場合に困る。何せ今回は国無シ島、あの地で魔術が万全で使えるなら外の国も喧嘩を仕掛けてくることなんてなかっただろう。

 用意を済ませ名残惜しさを感じながら部屋を出て隣の爺様の仏壇に手を合わせてから家を出る


 「行ってきます」


 まだ暗さのある空の下、我輩の声だけが響いた。

 竹林を抜けスマホで音楽を聴きながら駅まで歩く。

 虎織に挨拶くらいして出かければよかったかな、とか思ったけどなんだかそれだとせっかく決めた覚悟が揺らいでしまう気がした。

 我輩の気持ちとは裏腹にスマホから流れる音楽はとても爽やかで軽快だった。今の我輩にはこれくらい明るい音楽の方がいいのかもしれない。歌に耳を傾け日が登り始めた空を眺め歩く。

 三十分ほどかけて華姫の中央駅へと辿り着く。そこから始発の電車で明石まで向かう。提督とは淡路島の方で合流することになっている。久那さん達は昨日のうちに明石に向かったらしい。

 電車に揺られながら眠気に耐える。乗り過ごしは面倒だから音楽をロックなものに切り替えて電車での時間を過ごす


 「次はぁ明石ぃー次は明石ぃー」


 車掌のアナウンスを聞き、誰もいない電車を降りる。明石の街に来るのは久しぶりだが懐かしさはあまり感じない。駅の目つきの悪い信楽焼のたぬきを拝んでから城の跡地とは逆、商店街がある方向へ歩を進める。朝故の閑散とした雰囲気を抜け船のエンジンが聞こえる港へとやってきた。朝の潮風が涼しい、というより寒い中明石海峡大橋を眺めることの出来るスポットへとやってきた。早朝だと言うのに多くの釣り人が綺麗に間隔を空けて竿を振り下ろして釣りに興じている


 「おぉ、将鷹、おはよう」


 聞きなれた渋い声、桜花さんだ。声のする方向を向くと桜花さんと共に見慣れた人が立っていた


 「おはようございます、桜花さん、それに大和先生」


 我輩の魔術の恩師、三左衛門堀大和先生が桜花さんと共に居る。桜花さんの同行は聞いてたけど大和先生も来ているとは


 「おう、元気そう、じゃぁないな。野郎ばっかりだってテンション下げんなよ」

 「ははっ、こっからさらに野郎しかいない場所に放り込まれるんですよ?テンション上がりませんよ」


 気軽にそう返しながら肩を竦めてみせる。精一杯の我輩は元気だというアピールではある


 「大和先生はなんで今日ここに?」

 「巫女さんに露払い頼まれちまってなぁ。それに国無シ自体に俺自身興味あってな?教師としちゃ歴史から存在消そうとしてる島なんて行かない訳ないだろ?」

 「確かに」

 「そんでもって歴史からあの侵略戦争を消そうとしてる奴らをどうにかしたいともおもってんだよなぁ」

 「まぁ、そこは我輩達より火野姫に任せときましょう」

 「そうだな」

 「そういえば久那さんは?」

 「あぁ、今モーターボートを取りに行っておる。そろそろそこで待つとしようか」


 桜花さんが指さした場所は白を基調としたこの場所で唯一浮いている錆色の船着場のような所だった


 「あそこですか!?」

 「錆まくってんなぁ・・・足元大丈夫ですかね白鷺先生」

 「まぁ問題なかろう。あと先生と呼ぶな。お前にものを教えた覚えはない」

 「失敬、つい職員室感覚で話してしまいました」


 二人の会話を聴きながら我輩は策を越えて錆びた船着場のような場所に立つ。足場が錆びて崩れてはいるがまぁ問題はなさそうだ。久那さんが早く来てくれればの話だけど


 「お待たせしました!時間押してるんで飛び乗ってください!」


 数分後、白と緑の四人乗りのモーターボートを走らせ久那さんがやってくる。走っているモーターボートに乗れと!?三人で顔を見合わせてから無言で頷き全員で飛びだす。大和先生が少しズレてしまって海に落ちそうになるが風の魔術式で自分の身体を吹き飛ばし何とか席に着くことが出来た


 「っぶねぇ!!」

 「さっすが先生、ナイス判断」

 「教員より十二本刀の方が向いておるのではないか?」

 「俺は教員がいいんですぅ!教える方が楽でっぇ!」

 「今から飛ばしますから口閉じて舌噛まないでくださいね?警告はしましたから!」


 大和先生が喋っている最中に久那さんが速度を上げ船体が揺れる。どうやら大和先生は言葉を言い切る前に舌を噛んでしまったらしい・・・可哀想に・・・

 そんなこんなですぐに淡路島に停泊していた提督の大型戦艦、武蔵丸が見えてきた。

 そういえばこのモーターボートどうするんだろ?


 「綾寧ー!来ましたよー!」

 「おぉ、久那に風咲殿、それに白鷺殿にお付の方、今船を引き上げるので待っていて欲しいのであります」


 艦から顔を出した童顔の女性、提督がそう言って顔を引っ込める。しばらくしてから久那さんがエンジンを切り武蔵丸から垂らされた鎖を船体に巻き付ける


 「野郎共!引揚げろ!!」


 提督の掛け声でモーターボートは宙に浮き艦の上へ持ち上げられる。甲板は前と変わらず綺麗に整備されていた。そしてそこに身の丈より大きな白の軍服を羽織る提督が居る


 「ようこそ武蔵丸、私の艦へ」

 「これからしばらくお世話になります」

 「えぇ、今回は殺されぬよう頑張るのでありますよ」

 「はい」

 「まぁちょうどいい時間に来たので朝会とするのであります」


 こうして我輩達は艦に着いて早々地獄の筋トレをさせれるのであった。これ絶対明日筋肉痛だ・・・

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