第13幕 息抜き
我輩は風咲邸の竹林を歩きながら黒影対策課に今年から正式に入った俗に言う男の娘、九重に電話をかける。多分今はパソコンとにらめっこしている頃だろう。コールと共に女性を思わせる高めの声色が響く
「はい、黒影対策課、皆さんのアイドル九重です!」
こいつ対策課に来てからもうなんか色々とヤバい吹っ切れ方してんだよなぁ。
経理課に居た時はおどおどして自信なさげだったのに対策課来てからは皆に可愛いって甘やかされて完璧男の娘というアイデンティティに自信を持ってめっちゃ可愛いに振り切ってんだよなぁ。仕事の腕は確かだけど
「あー九重、ちょっと頼みたいことあるんだけど」
「はい、何なりと!」
「市内の監視カメラで結城の父親探せるか?」
「えーっと、ちょっとお時間いただきますね。三十分くらいしたら把握出来ると思うんでかけなおしますね!」
「了解、適度に息抜きしてな」
「あははは!ありがとうございます!」
これである程度はリスク回避はできそうだな。まぁその三十分くらいの間に出くわすと面倒なんだけどな
「どこに遊びに行く気ですか。パチンコ、競馬、競艇どれですか?」
「遊びの選択肢がギャンブル限定ってやべぇぁ!なに?学生の頃からそうだったのか!?」
「そうっすけど?遊びはギャンブルしか教わってないんで」
「かぁっー!なんつー最悪な英才教育!カラオケとかは?」
「行ったことないっす」
「ゲーセンは?」
「スロットやる程度っすね」
「食べ歩きとか映画は!?」
「映画はたまに親父と「お前の親父絡んでんならろくな映画観てないだろ!!ピンク映画だろ絶対!!」
「それはちょっと偏見っすね。ピンク映画六割洋画四割っす」
「六割はそうなのかよ!?てか待て!普通に条例違反だぞ!?十八歳のレーティングきっちり守ろうな!!」
「今はもう十八っす」
「・・・そうだな。いやまぁうん。まぁ、その、さっきのは聞かなかったことにする」
「で、どこ連れて行ってくれるんすか」
「ゲーセンにでもするかぁ。虎織、いいか?」
「いいよー!ちょうど取りたい景品あるんだよねぇ!」
「ゆる狐のでっかいぬいぐるみか!」
への字の目に寝そべるようなポーズ、そしてなんとも言えない可愛さのあるぬいぐるみシリーズ、それがゆる狐だ。しかもだいたいのぬいぐるみは手触りもこだわってるらしくさらさらのもふもふで抱き枕にもピッタリなモノだ
「そうそう!50cmもあるんだって!」
「それは落とすの手強そうだなぁ」
っと、これは結城が置いてけぼりだな。ゲーセンには息抜き、そして楽しく修行ができるものがある
「結城にはやってもらいたいゲームがあってだな」
「なんすか」
「洗濯機型の音ゲー」
「は?」
どうやら触れたことはないらしい。音楽ゲームと言わなきゃわかんないパターンだったかもしれない。そもそも略し方がどっちに転んでも解りにくいよな。
音ゲーだと乙女ゲームと同じ音だし音ゲーだとオンラインゲームと同じだしな
「知らないか?音楽ゲーム」
「いや、それは知ってますけど。太鼓とかギターとか」
「それの洗濯機版」
「その洗濯機ってのが意味わかんねぇんすよ!」
「あー・・・それは見れば解る」
ドラム式洗濯機と見間違えるあの筐体は太鼓やギターに鍵盤、それらの中に異彩を放ちながらも最早あるのが当たり前となっている。
そんなこんなでしばらく歩いてゲームセンターへとやってきた我輩達だがあと少しで九重から電話が掛かってくる頃合いか。とりあえず結城に洗濯機の遊び方、と言ってもやり方はゲーム機のチュートリアルがあるから大丈夫か
「・・・先輩、これマジで洗濯機っすね」
筐体を見つけた結城は半笑いになりながらピカピカと発光する洗濯機に手をかける
「だろ?どう遊ぶかは筐体が教えてくれるからそれに従えよー。あと店員さんに軍手かなんか貰った方がいいかもな。それと、くれぐれも台パンだけはすんなよ」
「そんなことしないっすよ」
「ならいいや、我輩は表で九重からの連絡を待つからしばらくやっててくれ。あとこれ使うといい」
そう言い残して我輩は結城に千円札を渡してゲーセンの表へと出る。
目の前の自販機で買った缶珈琲片手にスマホを眺める。今日のニュースとかは面白みがない。だいたいは政治的なもんだし他の市の施策がどうのとか知ってる話でもあるのがニュースの退屈さを助長しているのかもしれない。
そんな中一つだけ目を引く文字列があった。国外領土問題、海域めぐり衝突か。そんなタイトルだった
「外の領土のゴタゴタねぇ・・・国無シみたいにならなきゃいいけど」
思わずそう呟いてしまう。国無シ島が元々そういう領海権だの漁業権だのが絡んで外と土地取り合戦で殺しあった訳だし。それが長引いて結局みんな引けないから全部消し飛ばすって愚行に走った訳だけど。謎が多い決断ではあるが人間極まっちゃえばそこまで行くかとは思ったりもする。
ちょっと考えすぎか。そんな時タイミングよく電話が鳴る
「九重、見つかったか?」
「はーい。みっつかりましたよ!駅のパチンコ屋に居るみたいです!」
「そっかそっか。ありがとなー」
「えっへっへっへっ。それじゃあ休日楽しんでくださいねー」
「おー」
電話を切ってからゲーセンの中に戻る。ちょうどワンクレ分終わった頃だろうか。知らない曲をプレイすると視界でノーツを追いそれに対応するボタンをタイミングよく押さなければならない、反応速度とかそれに合わせて動く身体を鍛えるにはいいと我輩は思っている
「くっそ!もういっちょ!」
「虎織、今どういう状態?」
「今はねぇ、ワンクレ分終わって評価がそんなに良くなかったからリトライしてるとこ」
「目標が高いのはいいことだけど楽しんで欲しいんだけどなー」
ドラム式洗濯機に翻弄される後輩の背中を見てから周りのクレーンゲームを探す。獲物はあった、頑張って虎織と二人で取るとしますか!




