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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第1章 先代鬼姫編
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第25幕 神降ろし

我輩達は動かない。相手の出方を見てそれを対策しながら戦わなければ多分この相手には勝てはしない。


「おやおや、啖呵を切った割には随分と慎重ではないですか!」


城ヶ崎はそう言うと共にこちらに札を投げ雷を落としてくる。


「虎織」

「うん!」


2人揃って落雷を躱し城ヶ崎の懐へと飛び込み、そして2人でボディブローをくらわせる


「こふっ、これはこれはお見事、どうやら私は君をいや、君達を舐めていたようですねぇ?」


城ヶ崎は口から血を吐きながらニコリと不気味に笑った。

我輩達は不気味さと危険を感じ虎織の手を掴み元いた場所へと飛び退く。遠距離相手には悪手かもしれないが近くにいた方がさらに危険と判断した結果の一手である。


「実に実に、随分と察しが良い2人ですねぇ。せっかく2人仲良く連れていけたというのに・・・」


悲しそうな表情をしているが瞳には狂気を宿していた。

まさに狂人と言うに相応しい存在なのかもしれない。


「虎織、バックアップは任せた」

「無理だけはしないでね」

「保証は出来ないな。でも死にはしないから」


我輩は厄介な狂人目掛けて走り出す。


「こらこら、ヤケで突貫はいけませんよ?」


真っ直ぐこちらに雷撃が飛んでくる。どう避けるべきか、そんなこと考えなくても大丈夫だ。


横から強風が吹き我輩を吹き飛ばす。

狭い場所なのと咄嗟に魔術式を発動させた為虎織でも風の加減が効かないようだ。あまりの暴風で柱に身体をぶつける事になるが感電するよりは幾分もマシだ


「ほうほう、それは面白い避け方ですねぇ?自らの身体などどうでもいいと言わんばかりの回避方ではありませんか!ではでは、これはいかがですか!」


城ヶ崎の周りに雷を内包する球が城ヶ崎の周りをクルクルと回り始め、余裕と言わんばかりに自らの爪を眺めていた。



雷球に構わず城ヶ崎の居る方へと跳ぶ。


「愚か愚か、コレを警戒しないとは実に愚か!空中など身動きも出来ぬ空間に逃げるなど・・・」

「もう射程圏内なんでな」

「は?」


城ヶ崎はキョトンとしていた。それもそうだろう我輩の足が目の前まで迫っていたのだから。


「馬鹿な馬鹿な・・・さっきまでもっと遠くに・・・」

「風の魔術師が居るならこういうのは警戒するべきだったな!」


跳んだ瞬間に暴風で一気に距離を詰め蹴りを入れに行く。遠距離相手の1度きりの初見殺しとも言える技だろう。

パッと見、昔から憧れているヒーローの必殺技みたいだから我輩はこの技が結構好きだ。


「ぐっ・・・」


城ヶ崎の顔に足がめり込む。周りの雷球はそれと同時にスっと消える。

離れる為に城ヶ崎の首を蹴り元いた場所より5歩ほど手前の場所に降り立つ


「ごめんね。勢いよく柱にぶつけちゃったけど大丈夫・・・?」

「問題なし!」

「随分と随分と、厄介ですねぇ・・・さすがとだけ言っておきましょう・・・2人揃うと手間取るとは言われていましたがまさかここまでとは・・・致し方ありません。実に実に、残念ですがここは撤退しておきましょう」

「先代様を元に戻してから帰りやがれ!」


逃げる気か!とか言えばかっこいいんだろうけど残念ながらそんな余裕は今の我輩には一切ない。

という訳でダメもとで先代を元に戻せと言ってみた。

ぶっちゃけ今の先代を止める手段は一切ない。

殺してしまえば楽だろうが久野宮さんが傷だらけになりながら防戦一方で頑張っているのだ。できれば殺したくはない。というか殺せるかすら怪しいのが現状だし。


「これはこれは、なかなか恐ろしい事を言う人だ。しかししかし、あの人にたまらなく似ているではありませんか!いいでしょういいでしょう、お望みとあらば仕方ありません」


城ヶ崎は指をパチンと鳴らす。


「久野宮、お主傷だらけでどうしたのだ?って腕が止まらん!避けろ久野宮!どうなっておる!?身体が言うことを聞かん!」

「何しやがった城ヶ崎!」

「おやおや、これは異な事をおっしゃる、私は君が命じた通り和煎仄を戻しましたよ?ああ、なるほどなるほど、君達は知らないのでしたね。その体は和煎仄の頭と心臓以外は別の物でしてね。いやー可哀想だなぁ?君が戻せと言うから戻した結果ですよ。どうですか?自分の予期せぬ事態になる気分は?」

「最悪だな。気が変わった。ここでお前を捕まえて牢獄にぶち込む」


本当に最悪だ。我輩の余計な一言で最悪の事態になった。口は災いの元と言うやつか


「妾の身体は偽物か・・・ははっ・・・悲しいがしっくりくるな・・・そりゃ死んだ妾が蘇るはずもないか・・・虚しいな」


制御の効かない身体に振り回され、久野宮さんへの攻撃を続ける先代。

その表情は全てを諦めているような、しかし、まだ諦めきれないそんな表情をしている。


「仄様、身体が偽りであっても貴女様はここに居ます!脳と心臓、人として成り立つ為に必要不可欠な物は貴女の物なのです!ならばそれは和煎仄と言っても問題無いはずです!」


久野宮さんは叫びながら攻撃を躱す


「ははっ、言ってくれる」

「ちょっと動きが鈍くなってきたのではないですか?」


確かに最初程勢いは無くなってきた気がする。

おっと、余所見している暇は我輩にはなかったな。城ヶ崎を倒さないとな


「虎織、もう少し力貸してほしい」


虎織の方を見ると少し汗をかいて血色が悪い。

この感じは魔力の使いすぎだ。


「やっぱり大丈夫だ。虎織は休んでてくれ」

「平気だよ。今は疲れよりあいつを倒したいって気持ちの方が大きいから」


虎織は目に見えて疲弊していた。そんな虎織に力を貸してほしいとか我輩は最低な人間だ。



そんな時タッタッタッと魔術式を蹴る独特な音が鳴り響く


「虎織!将鷹!大丈夫!?」


片手に槍を携えた黒髪の女性、吉音月奈が窓から内部へと飛び込んで来た


「月奈!?お前別件で遠出してたんじゃないのか!?」

「桜花さんから皆がピンチだって聞いたら急いで帰ってきたの!」


これは頼もしい助っ人が来た。しかし、大量の人間モドキをヴァンさんとローズさんが相手している。

そっちを手伝って貰う方がいいだろう


「広場でヴァンさんとローズさんが・・・」

「安心して。もう片付いてるから」


言葉を遮るように月奈は言う。その遮り方はめちゃくちゃ不吉なんだけど。あとあの数こんなに早く片付くのか?


「あっ、一応聞いておかなきゃね。なんか人間モドキが一気に塵になったけどこっちで親玉みたいなの倒した?」


親玉・・・多分白浜のおっさんを人間モドキにしたってやつかな?


「多分久野宮さんが」

「なら大丈夫だね!これでこの目の前の凄いウザそうな喋り方しそうな外道っぽいやつに専念できるね!」

「おやおや、それは私の事でしょうか?」

「えっ、貴方以外にいますか?」

「なるほどなるほど、確かに私しか居ませんね」


納得するなよ・・・


「将鷹、虎織を休ませてあげて。限界近いみたいだし」

「分かった。あとは任せる」

「任された!」


月奈は槍をクルクルと回してから穂先を敵に向ける。

我輩は虎織の方へと走り今にも倒れそうな虎織を抱え天守閣の端に向かう。


「ごめんな、こんなになるまで付き合わせて」

「気にしなくていいよ、将鷹の力に成りたいって私の意思で戦っただけだもん」

「でも・・・」

「そうだなぁ、なら昨日結局パフェ奢ってないし、2人で割り勘してカップルパフェの大盛り食べに行くってので」

「分かった」


端で虎織を降ろし袖から水の入った水筒を取り出して虎織へと渡す。

虎織は渡した水筒に口を付け一気にそれを飲み干す。


「ぷはっ・・・少し生き返った気がする・・・ありがと」


そうは言っているがお世辞にもマシになったとは言い難い。

魔力不足の主な症状に強烈な眠気というものがある。

虎織はその眠気に今まさに襲われている。


「虎織、今は寝てもいいよ。ゆっくり休んで明日また遊びに行こうな」


我輩は虎織にそう声を掛けると虎織はコクリと頷き眠りにつく。


「将鷹!危ない!」


月奈の声が天守閣に響く。振り向くとこちらに向かってくる雷撃が近くに迫っていた。

虎織を連れて避けるのは難しいだろう。受け流しも出来ない。

電流が全身に流れないことを祈る他ないか


「間に合ったか・・・城ヶ崎め、動けぬ者を狙うとはとんだ外道だな」

「先代様・・・なんで」


目の前に先代が飛び込んできた。そして間髪入れず雷撃が直撃する。


「痛っ!ちょっと強めの静電気みたいで微妙な嫌がらせみたいな痛さだが思ったほどでもないな。妾がわざわざ庇ってやる程でもなかったか」

「もしやもしや身体の主導権を握られてしまいましたか・・・実に実に厄介ですねぇ。こうなってしまったからには禁じ手を使う他ありますまい」


城ヶ崎は赤黒い札を取り出し、それを高く掲げる。


「その札は神降ろし・・・!しかも普通のやつじゃない!?」


月奈の声からやばい代物だというのは分かった。


「それをどこで手に入れた!」


珍しく月奈が激昂しながら城ヶ崎へ一撃を加えに行く。

城ヶ崎はそれをヒョイっと避けながら赤黒い札を燃やす。


「札の対象は和煎仄に。降ろすモノは荒れ狂うモノならどれでもよろしい!」

「それ以上口にするな!それはお前が口にしていい句じゃない!」


月奈が荒れ狂う如く槍を振り回すが城ヶ崎はそれを余裕の表情で避ける。


「うぅ・・・せっかく身体が言うことを聞くようになったというのに・・・」

「仄様!風咲、城ヶ崎の口を閉じさせろ!」


先代はその場に倒れ込み苦しみはじめた。

あの金髪を黙らせれば止まるのか?

なんとなくあれの動く道筋が見えた気がした。我輩はそこに短刀を投げ、銃を構える


「私は傍観者。そして華姫に仕える神子な」


短刀は城ヶ崎の手首へと深く突き刺さり言葉が途切れる。

刹那、視界が眩む程の閃光が辺りを包む。


「あぁ、なんとなんと、やってしまいましたねぇ?不完全な神降ろしほど恐ろしいものはありませんよ?」

「くそっ・・・今日はこんなのばっかりだ・・・なんでこうなる・・・」


阻止出来なかったというよりさらに厄介な状態になってしまったらしい

全てが裏目に出て最悪な状態にしかならない。

どうしてこうなった・・・


「将鷹、気にしないで。身体が完全に乗っ取られるより随分とマシだから。不完全な分なんとかできるはず・・・」


月奈はこう言うが事が終われば腹を切って詫びなければならない程の失態だ


「すまない風咲、ワシが黙らせろと言ったばかりに・・・」

「そうだそうだ。さっきのは久野宮が悪い」


地面に突っ伏したまま先代は言う。

恐ろしくシュールな光景だ。

ムクリと先代は起き上がりこちらを見る。


「先代様、大丈夫なんですか・・・?」

「そうだな、もってあと5分だろう。神とやらは今は大人しいがそのうち暴れ、荒れ狂うだろう。華姫を危険に晒すのは嫌じゃ。お前達に頼むのは気が引けるが手遅れになる前に妾を殺してはくれんかな?」


先代は酷く悲しそうにそう言った

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