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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第5章 国無シ島編
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第10.5幕 結城の一日

 黒影対策課のオフィスに泊まって一日、昨晩と変わりなく、誰かがいる訳でもない。ただ一人、隅に置いてあるソファで目を覚ます。

 先輩達は備品は好きに使えと言っていたけどどうも見慣れないものが多い。赤く四角い、長方形の穴と数字の書かれたつまみがある機械、多分トースターだろう、それと赤と青のボタンがあるウォーターサーバーみたいなもの。

 ここには俺の知っているトースターや珈琲メーカーは無い。何事も挑戦とは言うが下手に触って備品を壊すのは避けたい。あれこれ悩んでいるうちにオフィスのドアが開く


 「あれ?結城いるじゃん・・・ったく風咲先輩一言くらい言ってくれててもいいじゃないっすか・・・」


 入ってきたのは茶髪の顔立ちの整った男、たしか辻井禍築とか言ってたっけ。昨日は非番だったらしく居なかったから俺がここでしばらく寝泊まりするのを知らないのだろう


 「おはようございます」

 「おう、おはよう。ここ数日の勤務態度から想像つかない挨拶だけどなんかあった?」

 「心を入れ替えました」

 「そう。じゃあ今晩予定空けといて、歓迎ぐらいはしてやんないと」

 「うっす。あの・・・このトースターとかウォーターサーバーってどうやって使ったらいいっすか」

 「あーこれ?ポップアップトースター使ったことない?いやまぁそれはそうかー最近はホットサンドメーカーとかの方が多いもんなぁ・・・はぁ・・・」


 ため息をつかれた。でもめんどくさいとかそういうのじゃないってのは何となくわかる


 「じゃあまずパンは?」

 「これを」


 昨日薬師寺先輩がくれたパンを渡すと辻井先輩は少しびっくりしていた


 「これ蓮先輩がくれたの!?えぇ・・・あの人がこのパンを?」

 「そんなに珍しいんですか?」

 「そりゃあだってこれ結構高い食パンだしあの人のお気に入りだからそう易々とは・・・というかそもそもで風咲先輩以外にはあんまりデレない人だしなぁ。でもまぁ改心した祝いみたいなものか・・・」


 どうやら薬師寺先輩は普段は思ったより優しくないらしい。粉珈琲のスティックまでくれたと言ったらさらに驚きそうだ


 「何はともあれこの穴にパン入れて、ここの横のレバーを下げて、それでつまみを3分のとこに合わせれば勝手に焼けるさ。ウォーターサーバーは見ての通りの使い方だけど冷たいのなら青いボタン押しながら下のレバーみたいなのをコップで押すといいよ。赤いのは熱いのが出るから気をつけて」

 「うっす」


 なるほど。こういう感じなのか。家じゃ飯は基本母さんが作ってくれてたし水は水道水、お湯はケトルだったからな、我ながら無知が過ぎるのではないだろうかと思う。そもそもあの神に指摘されるまで気付かなかった自分が恥ずかしいものだ。

 こっちに戻ってくるまでのあの期間・・・思い出しただけでも背筋が凍りつく。体感十五日、星と夜しかない森で生活させられたのだから・・・

 不思議なもので森から帰ってきたのは起きてから一時間も経っていなかった頃だった


 「おーい、パン焼けたぞー」


 物思いにふけっているとパンが焼けたらしい。さっき顔を隠した白いパンはこんがりと焼けひょっこりと顔を出していた。


 「いただきます」


 パンに一口かぶりつくと市販のパンとは思えない甘さがあった。それに焼いた外側とは対照的に中はふわふわとしている。確かにこれが高いのは頷ける


 「いいなー。美味そうだ。俺も蓮先輩からまた貰うかぁ」

 「買わないんすか?」

 「確か市販の食パン一袋分のサイズで五百円以上だぜそれ。普段二百円くらいで済ませてんのにそんなに出せないっての。塵も積もれば山となる、蓮先輩みたいに毎日食ってたら直ぐにお店のボトルくらいになっちまうよ」

 「キャバクラっすか」

 「来る?」

 「興味はあるっす」

 「黒影倒せるようになったら連れてってやるよ」

 「うっす」


 どうやら今日の歓迎会は普通の店で行われるようだ。正直ちょっと期待してたんだけどな。

 そんなこんなで今日は始末書を書いていたら一日が終わってしまっていた。鬼姫は落ち着かないと言いながらも仕事を黙々とこなし定刻には仕事を切り上げていた。そのため俺たちも残業とかはせず定時になった途端辻井先輩と初老のおじさん、白鷺先輩に連れられ夜の繁華街へと繰り出した。外は親父と出くわす可能性があるからあまり出たくは無いがあんなのでもこんなヤバそうな繁華街には来ないだろう


 「禍築、まさかお前歓迎会であの店を使う気では無いだろうな?」

 「そのまさかっすよ桜花さん!」

 「お前・・・流石に一発目であそこはやばいだろうが・・・馴れれば居心地は良いが。結城、度肝を抜かすなよ」

 「どんな場所に連れてかれるんすか・・・」


 ネオンが灯る繁華街の裏路地、その先にピンクと緑のネオンが点滅する置き看板がある店、ベッロパヴォーネと言うらしい。辻井先輩が戸を開くとベルが鳴る、そして白鷺先輩の後ろについて行く形で店の中へと入る。普通のバー、そう思っていた。

 カウンターに立つ男を見るまでは。

 そこに居たのは胸元が開いたド派手な青のドレスを身に纏ったごつい男だった


 「あら、いらっしゃい。辻ちゃんに桜花ちゃんは久しぶりね、その後ろの子は初めてよね?」

 「あぁ、今年入った新人だ」

 「アタシは晴臣、孔雀院晴臣よ。末永くよろしくね?」

 「あ、えっと、結城和です」

 「じゃあユウちゃんね!」

 「ほら言わんこっちゃない、結城が完璧にフリーズしておる」

 「一番どぎつい店に連れてきた方が後々楽じゃないっすか。それにいい店なのは変わりないっすから」

 「あらー!辻ちゃんいいこと言うじゃないのぉー!でもおだててもアフターはナシよ?」

 「それはこっちも願い下げっす!!」

 「店主、いつものを頼む」

 「はーい。これメニューね。ゆっくり選ぶといいわ」


 ゴツくて縫い跡だらけの腕とこの店のメニューが差し出される


 「今日は儂らの奢りだ、存分に飲んで食ってすればいい」

 「そうそう。なんでも頼んでいいぞー。俺はとりあえず生大ジョッキで」

 「変わらないわねー。それはそうと貴方、成人してる?」

 「酒は飲める歳っす。飲んだ事ないっすけど」

 「そう、じゃあ問題ないわね。まぁそこの二人が居るし年齢詐称は無さそうね」


 メニューを見つめていると店のドアが開く。ふとその方向を見ると疲れ切った可愛げのある女と雪城先輩が入ってきた。雪城先輩の連れてる子中々可愛いなと見ていると雪城先輩がこちらに気がついたようだ


 「あれ?桜花さんに禍築君?珍し、くはないか」

 「お?虎織一人か・・・?いや、まさか?」

 「将鷹です」

 「風咲先輩!?」


 思わず声を上げてしまった。いやいや、こんな可愛い子が風咲先輩なわけないだろ


 「なんだよ。我輩で悪いかよ」


 この独特な一人称、確実に風咲先輩だ。どうなってるんだ・・・

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