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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第5章 国無シ島編
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第7幕 悪夢

 「軽い仮眠のつもりだったんだけどな・・・」


 我輩は夢を渡り辿り着きたくない土地へと来てしまったらしい。

 人だったモノを薪に紅蓮が燃える地、かつて日ノ元と隣国、そして大国がここを奪いあい最終的には三国の兵を巻き込む形で島事態を地図から無くし存在すらも歴史から消そうとしている場所だ。

 この燃え盛る炎が消えたらこの土地は砕かれ海へと消えていく、そういう場所だ


 「あ゛ぁ゛ぁ゛・・・」


 悲痛な呻き声、焦げて炭になった人だったモノが地を這い我輩の足を掴む。ぐにゃりとした感覚と脆い石に掴まれた感覚が同時に襲い来る


 「アンタに構ってる暇も無いし我輩はアンタを殺せない、悪いな」


 振りほどくという行為すらせず我輩は足を前に出す。炭はただ力無く我輩にまとわりつくが直ぐに解ける。早くここから出ないと、この夢から覚めないと。その一心で歩を進める


 「生きてる」

 「生きてるぞ」

 「やつは日ノ元の人間だ、殺せ、母国のため」


 死が迫ってくる。最早人種の違いも何もかも解らない腕や片目がない黒いモノ、それがひしゃげた銃剣の先だけを持ちこちらへと迫ってくる。

 炭のように焼け焦げていたら正直怖くは無い。我輩が怖く感じるのは筋繊維が剥き出しになり皮膚が溶けそれをぶら下げ徘徊するモノたちだ。今立っている時間よりも少し前、爆弾が投下されてすぐの時の方が見た目は酷い


 「・・・」


 ゆっくりと迫ってきていた死をスルリと避け地平線を目指す。いつものゴール、そこへたどり着ければここからは抜けられはずだ。

 歩く最中、鉄の塊が風を切り空を飛ぶ。それと共に何かが落ちてくる音、それと共に身を焼くような光と熱、そして爆風、腕が無理矢理引きちぎられ眼が焼け視界を奪われる。それとほぼ同時に腹部に何かがぶつかり抉るようにしてどこかへと跳ねる


 「痛い・・・」


 何かが当たった場所に触れようと手を伸ばそうとしたが右腕の感覚がない。仕方なく左手で触れると激しい痛みと生温(なまぬる)く濡れたぐにゃりとした何か、腸だろうか、それが飛び出しているようだ。不思議と痛みは薄い、とりあえず前へ進まないと、そう思い脚を動かそうとした瞬間、バランスが崩れて倒れた。これは手で触らなくても解る、あしが無くなってる。これじゃ前にも進めない


 「まだだ、まだ左うでがある・・・」


 我輩は左手に力を込め地面であろうモノを掴みまえへと進む。中身が飛び出していくのも気にせずただ前へとすすむ


 「何故そこまでして進む」


 ききおぼえのある声。しってるけどおもい出せない、だれだっけ、でも答えなきゃ


 「まってるひとがいるから」

 「お前のその中身の飛び出して四肢がもげ、焼け爛れたその身体を待つ者が居るとでも?」


 あぁ、そっか、ひだりうでもかんかくなくなったとおもったらもうないんだ


 「急に黙ってどうした。芋虫のように地を這い蹲る者よ」


 うでもあしもしかいもかんかくもない、でもまだあきらめられない、しにたくない。

 ・・・こわい


 「ぅ・・・げっほ・・・げっほっ・・・うぅ・・・」


 めはさめた、でも目覚めはさいあく、胃の中身をベッドの上にぶちまけていて口の中も喉も最悪に気持ち悪い


 「くっそ・・・なんなんだよ一体・・・」


 死にかけた記憶というかほぼ死んで目が覚めた。夢で見た光景は薄れているのにあの恐怖はしっかりと心に刻まれてしまっている。異様に乾いた喉を潤す為に立ち上がり姿見を見と我ながら酷い顔だ。それに服もゲロまみれだし・・・


 「将鷹・・・?大丈夫?吐いてるみたいな声聞こえたけ・・・将鷹!?」


 虎織が勢いよく近寄って状況確認をするように手を握る


 「気分悪いの・・・?熱は?」

 「怖い夢を見た。気分はまだちょっと悪い」

 「そっか、大丈夫だよ。夢はただの夢、大丈夫」


 ふらりと体勢を崩してしまった、そう思ったがどうやら虎織に抱き寄せられたらしい


 「虎織、服汚れる・・・」

 「気にしないよ。目を瞑って私の言葉を聞いて」

 「うん」


 虎織の甘くて優しい匂い、安心する。我輩は虎織の言葉に従い目を瞑る


 「まだちょっと呼吸が速いから一旦深呼吸しようか。ゆっくり、私の声に合わせて。息吐いてー」


 ふっーっと息を吐ききる


 「吸ってー」


 虎織の声に合わせて息を吸う


 「吐いてー」


 しばらく虎織の言う通り呼吸をしていると瞼が重くなって来た


 「はい、もう大丈夫だよ。さ、洗濯するから服と敷布団回収するよー」

 「ごめんな、服汚して」

 「気にしない気にしない。洗濯すれば済む話だからね!」


 洗面所に行って虎織から預かった服を洗濯機に入れてスイッチを押してから風呂に入る。身体を洗い久々の湯船に浸かりながら自分の手足があることに酷く安堵する


 「はぁ・・・ちくしょう・・・これどうにかしないと」


 震える手をぎゅっと掴み震えを止める。怖い、死ぬのも痛いのも怖い


 「入るよー?」

 「なんでぇ!?」

 「そんな焦んないでよー。というか私もお風呂入りたいし」


 それもそうか・・・しばらくゲロまみれだった状態にくっついていたな。そうだよなぁ、そうなるよなぁ


 「それじゃあちょっと話そうか、雪城忠定」

 「バレていたのか」


 まさかバレてるとは思ってなかったから正直びっくりした


 「深呼吸した時から入れ替わってたよね。まぁ正確には意識を無理矢理引っ張ってきた訳だけど」

 「で、何・・・」


 俺の身内こわっ。なんでそういう事平気でできるんだよ。高度な魔術式とか使うしこいつ万能じゃないか?


 「お前とは絶対にケリをつける。将鷹は絶対に渡さないから」


 気圧された。キッと睨まれただけで、それも自分より年下の娘にだ。

 口を開こうとした瞬間虎織が指をパチンと鳴らし俺の意識を深淵へと沈めた


 「あれ・・・?我輩いつの間に風呂に?」


 気がつくと我輩は湯船に浸かっていた。確か虎織の指示に従って深呼吸してて瞼が重くなって・・・


 「ごめんねー。気を失っちゃってたから勝手に服ひん剥いて身体洗っといたよ」

 「えぇ!?お嫁に行けないじゃん!?」

 「私がお嫁に貰うから大丈夫だよ!」

 「我輩が嫁ぐ側!?いや、我輩の言動的にそうなんだけどさぁ!」

 「あははは!元気になってそうで良かった!」


 嬉しそうな虎織を見て心がポカポカとする。ゆっくりと湯船に浸かって疲れとかを取るとしよう

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