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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第5章 国無シ島編
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第3.7幕 乖離

 「和、お前は人々の上に立つ人間になるのだ。我々結城家は元は人の上に立ち導く家だった。だがあの日以降我らは落ちる一方、それもこれも市長共が・・・」


 俺は昔から親父にそう言われ続けていた。正直ガキだった俺からすればそんなのはどうでも良かった。ただ人の上に立ち好きに振る舞ればそれでいい、王様気取りになりたかっただけだった。

 学校でも負け無し、強い奴との戦いはなるべく上手く避け絡まれたら数と力をつかって不意打ちでどうにかする、そんなモンで俺はそれを自分の力と思っていたに過ぎない。

 でも大型の黒影を倒したのは紛れもなく俺の実力だったはず。槍の一撃できっちり殺せた、そうだったはずだ。

 あの風咲と吉音という先輩達の殺し合いを見たらその大型を殺したという事実さえ本当なのかとさえ思う


 「和、身体は大丈夫か?」


 ぼーっと思考にふけっていると親父が俺の車椅子を押してそう言う


 「多分」

 「復帰はできるのか?」

 「解らない」

 「お前は上に立つ人間になるんだ。たとえ今のままでも他の方法でどうにか上に登り詰めるんだ」


 またそれかよ。なんだか怪我をしてこの親父の言葉が自分勝手な言葉に聞こえはじめた。こいつはただ俺が何かしらのポストについてその力を利用して楽したいだけなんじゃないか?


 「なぁ親父、俺は親父の道具なのか?」

 「何を言うか。お前は俺の息子で道具だなんて思ってないぞ」

 「じゃあさ、親父は今まで何してたんだ?俺に上に立つ人間になれって言ってる割にはさ親父はどうなだよ」

 「そ、それは・・・俺だって上に立ちたかったさ。でも父さんの時代にはまだ制度もなにもかもがボロボロだったんだ」

 「ならそこでどうとでもなっただろ」

 「和!お前をそんな風に育てた覚えはない!俺はお前が楽をして上に立つように良いようにしてやっていたというのに!誰もお前に逆らえない様にしてやっていたというのに!」


 頭に血が上ったのか親父は車椅子の持ち手を離し、俺の前へ来て俺を殴る。腰の入ってない痛くもないパンチ。でも、なんだかとても痛かった。

 親父に殴られた事なんてこれまで一回もなかったし誰かに怒られたことも無い。

 あぁ、コレ異常なんだ。吉音先輩や薬師寺先輩がどうしてあんなに怒るのかが理解できなかった。俺が異常であの人達がまともだったんだ。そして親父は俺以上に異常だったんだ。爺が権力者で狂ってたんだ。過去の栄光に縋って自分は甘い蜜吸おって魂胆かよ


 「ははっ、なんだ、そういうことかよ・・・」


 結局俺は親父の道具だったんだ。人の上に立って俺を楽させろ、そういう事だったんじゃないか?

 あぁ、解っちまったら嫌になってきた。車椅子の持ち手は誰も握っていない。車輪の横の円を握り車椅子を前へと進ませる。腕から血が滲んで来たが気にしない。痛みも鈍いしこのまま失血死するのも悪くないかもしれない。家を出て行くあてなんてないがとにかく今はあの家に居たくなかった。正確にはあの男の近くにか


 「ヴァッ!?お前!何やってんだ!?」


 気の抜けた驚きの声が俺の耳に届く。その声の方向に目をやると風咲先輩が缶珈琲片手にこっちに駆け寄って来ていた


 「馬鹿なのか!?傷口開いてんじゃんか!死ぬぞ!?せっかく拾った命は大切にしろ!!鎖は・・・あー!もう!なんで羽織忘れたかなぁ・・・!」


 先輩は服の袖をちぎって俺の腕にきつく巻き付けてからどこかへ電話をかけ始めた


 「急患というか結城!すぐ!商店街ちょっと先!あぁ!?少彦名命様ぁ!?その手があったか!でも一応車ですぐ来てくれ!止血はしたけど傷口から血が出てる!」


 どうやら薬師寺先輩に電話をしてたらしい。血が抜けて来てなんだかクラクラしやがる。思考がまともに出来なくなってきた。死んだら死んだでもういいや

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