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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第1章 先代鬼姫編
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第24幕 戯れ

2人の戦闘は至ってシンプルな殴り合いであった。

先代もそうなのだが久野宮さんが容赦なくボディブローとかをぶちかましている。

仮にも女性にそれはどうかと思うが仕方ない。闘いは無常だからな。

まぁ先代はノーダメージっぽいからこんなこと言えるのだろうけど


「せい!」


先代が蹴りを入れようとするが久野宮さんは寸前でそれを躱す。

その蹴りに男として少々寒気がした。


「金的はなしでしょうが!」

「殺し合いに金的は無しもクソもあるか!最後まで立っておれば良い!」


そう。男の最大の弱点でなりふり構わない喧嘩なら真っ先に狙う金的である。

ちなみにモロに食らうと大の大人でも蹲る程痛い。


「卑劣!卑怯!男の敵!」

「ガキの言い分じゃぞそれ!」


楽しそうに笑みを浮かべ2人は喧嘩をする。マジでただの喧嘩である。

先代は得意であろう八極拳と腕の鋼鉄化を使わずただ殴り蹴るのみ。

久野宮さんもそれに応えるようにステゴロの喧嘩をしている。


「ウォーミングアップはもうこれで終わりで構いませんかね」


久野宮さんの口から放たれたその言葉でここまでのただの喧嘩が準備体操である事が明かされた


「えっ?今の準備体操?えっ?それは真か・・・?」

「そうです。ウォーミングアップです。」


先代がキョトンとした顔で呆け、久野宮さんはにこやかに笑う。

絶対これ先代の戦意喪失を狙ってるな。これが1番良い手なのかもしれない


「道理で力が拮抗する訳じゃ・・・というか長らく相対する事もなかった故忘れておったがお主八極拳使っておらんかったな・・・」

「えぇ、そういう仄様も硬化使っていなかったじゃないですか」

「お主に硬化を使ったとて鋼をも打ち砕くその拳で無意味であろう?」

「なるほど。それでどうしますか?殺し合いますか?それともここで辞めますか?」


久野宮さんの言葉に先代は間髪入れずに答える


「やめる!死ぬのはもう嫌じゃし」

「そうですか。では、ワタシの話を1から聞いてください。そして知っている事を全て話してください。」

「いきなり不意打ちで殺したりしない?」

「しません。というか大人しくしてれば殺しません。」

「ならそこの2人と一魔術式が殺しに来たりとかは?」

「ないです」


先代の朱くなった髪は白へと変わる。

戦意が無くなったと捉えてもいいだろう。

それにしても一魔術式って数え方が随分と独特だな

まぁあれを1人とカウントしていいのかはまだ分からないしな


さっきと比べて先代の表情は随分とさっぱりしている。

さっきまでは憎悪を燃料に動く鬼という感じではあったが今では1人の朗らかな女性のような顔をしている。


「久野宮さんの質問の前に1ついいですか?」


虎織が口を開く。いつもよりも声のトーンが低い気がする。


「よい。なんでも答えよう。」

「なんでそんなに平気そうにいられるんですか?もしかしたら私が久野宮さんの言葉を無視して襲い掛かるかもしれないんですよ・・・?」

「久野宮の言葉を信じることにしたからだ。原始的な殴り合いという方法ではあったが久野宮が妾を殺していないというのは何となくわかったからな」


すごい原始的だ・・・いや、でも昔から暴力で物事解決できる場面も多いしな

でもそれで伝わるのかどうかは謎だ


「それにお前はその童の前では荒れ狂う姿を見せたくはなかろう?」

「昔のお父さんと一緒にしないでください」

「昔ということは今は随分と丸くなったというわけか。いやはや、あの華姫で屈指の獰猛者が今ではすっかり丸くなったか」

「えぇ、優しいお父さんですよ。まぁちょっと気に食わない所も有りますけど」


どうやら虎織のお父さん、虎吉さんは昔凶暴だったようだ。そんな感じはしないんだけどなぁ


「そして今から言うのはなんだが、そこの名も知らぬ童よ、昨晩はすまない・・・この程度の詫びでは気が済むはずはないだろうが本当にすまない。」

「えっ?あぁ、別に気にしてませんよ。ただ虎織に怖い思いをさせたのは赦しません。」

「ははっ、自分より他人、いや、世界より娘という方が正しいか。随分と狂っておるな・・・童、お前名はなんという?」

「風咲将鷹です」

「風咲・・・あぁ、幸三郎殿の孫か。しかし幸三郎殿は娘しか居なかったと記憶しておるが?婿養子でもとったのか?」

「俺に父親は居ない」

「これは失礼な事を聞いた。すまない・・・」


感情が昂って一人称が俺になってしまった。もう使わないって決めてたんだがな・・・


「もう良いか?特に何も無ければワシが質問を始めるが」

「お主一人称ワシなのか・・・変わったな」

「変なところで突っ込まないでください」


久野宮さんが口を開き先代が茶化す。

もうなんかマジで夫婦の惚気茶番に付き合わされてる気がしてならない。


「もう大丈夫です」


虎織が答える。


「ではまず1つ目、何故あのような上納金制度を設けたのですか?」

「上納金制度?なんぞ・・・身に覚えがないぞ。」

「市民が一揆起こした原因ですよ!?身に覚えがない事なはずが」

「それが原因で妾殺されたのか!?冤罪と言うやつだぞそれ!妾何もしてないし、というか絶対そういう系はお主に話通すし!」


これは色々と厄介だな。誰かが先代に化けて制度を作り殺される原因を作り、なおかつ久野宮さんに出張の命令を出した。

そして誰かが久野宮さんに化けて先代を殺した。


「嘘は言っていないな・・・次の質問に移ります。どうやって生き返ったのか」

「それがさっぱりなのだ。気づいたらここで目が覚めて手紙が貼り付けられておった。手紙に昼には外に出ないようにという内容だったな。」


生き返った原因不明か。

先代の話を聞くと何故か見えていた物が遠ざかり違う所へと進んでいる気がする。


「将鷹、難しく考え過ぎちゃダメだよ」

「あぁ、分かってる。」


「これはこれは仄様、随分と怨敵と仲良くなっていらっしゃる。ダメですよそいつらは殺すべきなのですから」


金髪ロン毛の男が階段を登ってきた。


「お前は城ヶ崎!?」

「おやおや、華姫の英雄久野宮さんではありませんか。これはこれは名前を覚えていただけて光栄ですね」

「その喋り方とその飄々とした姿を忘れるはずがなかろう。」

「それはそれは、そこまで特徴的でしょうかねぇ?」

「あぁ、殴りたくなる程にな」


城ヶ崎、旧拾弐本刀の陸番だったか。まさかこんなウザイ喋り方する人だったとはな。

この人は確か白浜のおっさんが失踪する前から行方不明になっていたか。

まさかとは思うけどこの人が元凶だったりしないよな?


「おやおや、そこの黒髪の君はまさか風咲家の長男坊ですか?」


こちらを見ながら城ヶ崎は口を開く。風咲家というか我輩の爺様は有名なのだが我輩自体は名が知れるほどの功績は立てていない。

そんな我輩を何故コイツは知っている?


「怖い怖い。そんな恐ろしい目で見ないでください。でもでも、今の君は覇気が足りませんねぇ?」


城ヶ崎は何枚か札を取り出す。

符術士か。厄介そうだがやる他ないか


「風咲、さがっておれ。ワシがこやつの相手をする。」

「ほうほう、それは随分と面白い提案ですが、被検体3号。貴女の獲物です。殺しなさい」


城ヶ崎の言葉でさっきまで白かった先代の髪がさっきの朱色とは打って変わって深紅へと変貌する。

それと共に紅い光が蛍のように先代の周りを舞う。


「るぅぁぁぁ!」


先代は咆哮と共に久野宮さんに噛み付くように襲い掛かる。

その目に生気はなく亡者と同じ目をしているように思える程濁りきり、赤い文様が腕と顔に走り呪いの魔術でもかけられているようだった。

なりふり構わないというかなんというかそれは鬼というより化け物と表現するのがいいかもしれない。


「仄様!そのような物に呑まれてはいけません!どうか目を覚ましてください!」


攻撃を躱しながら久野宮さんが叫ぶがその声は届かず久野宮さんの喉を切り裂くように爪を立てたり、掴みかかろうとしている。


「おやおや、よそ見している余裕があるとは。余程余程、私は甘く見られているようですねぇ?」


目の前に雷が落ちる。

本格的にやらなきゃだな。敵の実力は未知数。勝てる保証はない。だが勝てないと決まっているわけでもない。


「虎織、力を貸してくれ!」

「うん!例えどれだけ拾弐本刀が強かろうが私達なら倒せるよ!」

「面白い!面白い!2人で私に挑みますか。実に実に面白い!いいでしょう2人まとめて相手してさしあげましょう!」


刀を引き抜き我輩達は旧拾弐本刀の陸番、城ヶ崎と相対する

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