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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第5章 国無シ島編
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第1.5幕 先行

 結城和はバイクに乗り黒影の住まう山、黒縄山へと向かう道中、いけ好かない奴らより早く黒影を狩って自分の実力をあいつら全員に思い知らせてやると男は意気込んで居た


 何がまだお前を実戦には出せないだよ。黒影の一匹や二匹、それくらい簡単だ、何せ俺は高校じゃ負け無し、実地演習も大型一匹一人で倒したんだ。あんなおっさん達にやれて俺が出来ねぇわけねぇっての


 男の内心はどうやってあのいけ好かない職場の人間を黙らせるか、その一心に支配されていた。


 木が生い茂り光の射さない道の半ばで男のバイクが言うことを効かなくなり始めた。ハンドルが何かに持っていかれそうになりタイヤがいきなり跳ねる。男は思わずバイクを乗り捨て後ろを振り返ると全長1メートル程の黒い蜘蛛がぶら下がっていた。黒影にしてはまだ小型と言えるがその姿を持つ本来の生き物から見ればかなりのサイズなのは確かだ


 「けっ、随分と小ぶりの黒影だな。もっと二メートルとかの大物期待してたんだけど、なっ!」


 言葉とともに背負っていた槍を構えて黒影に突き立てる。槍は蜘蛛の眉間をきっちり、正確に捉えその場から縦に蜘蛛の頭を切り裂く


 「楽勝じゃねぇかよ。歯ごたえもねぇしこんなんなら十匹だろうと二十匹でもやれそうだぜ」


 男は倒れたバイクを起こそうとして黒影から目を離してしまった。まだ黒影は霧散していないというのに。対策課の人間なら霧散を確認するまでは絶対に目を離す事など有り得なかっただろう。だが男はまだ実戦経験などほぼない対策課に入ってきて数日の人間、教えて貰うべきことを教わること無くこの地へとやって来てしまったのだ。男がバイクを起こすと同時に男の肩に鋭い鋏角(きょうかく)が突き立てられる


 「あがっ・・・!」


 肩の激痛に驚き握っていた槍を地面に落としてしまい、更には蜘蛛が吐いた黒い糸が首に巻き付きそのまま黒影にのしかかられ組み伏せられてしまう。苦しい、痛い、重い。そんな言葉が男の脳内を支配する


 「クソッ!離せ!っ・・・!」


 考えるのは後だ、今はこの状況をどうにかしないと死ぬ。男はそう思い、噛まれた肩とは逆の腕を振るおうとしたその時、腕に鋭い激痛が走る。もう声も出ない程の痛み、鋭く細い針の様な脚部で二の腕を刺された男は一度声にならない叫びを上げてからぷつりと意識が途絶えた。だが蜘蛛はそれを許さなかった。脚部を捻り中の肉を抉り男の意識を気絶という逃避から引き戻す


 「痛い!痛い痛い痛い痛い!」


 声を上げのたうち回ろうとする男だったが蜘蛛が首に絡む糸を引き、腕以外の四肢にも自らの脚部をねじ込む


 「ぉ゛っ・・・」


 酸欠からか、それとも痛みからか白目を向き涎を垂れ流しながら男は完全に意識を失う。そしてまた蜘蛛は脚部を捻り意識を引き戻してから横腹へと脚部を押し込む。今度はゆっくり、ゆっくりと優しく肉をかき分け貫通させまた引き抜き同じように抽送し、男はそれに身を捩る


 「許し・・・て・・・」


 男は必死に許しを乞うが相手は黒影、人の言葉など通じぬ人外である。蜘蛛の脚部は八本、刺さっているのはまだ五本、そのうちの一本が脊髄の付近を優しく撫でるように引っ掻き、肉を抉る


 「ぁっ・・・!や、やめ・・・そこは・・・!そこだけは・・・終わっちゃう・・・!やめ・・・」

 「一人で突っ走りやがって。文句は全快してからにするけどさ」


 そんな声が男の耳に届いた時には黒影は霧散して、片袖しかない羽織を着た風咲将鷹が白い刀身の刃を持って立っていた


 「ダメだよ、黒影との実戦に私たちが連れてって無いのに走り出しちゃ。ちょっと痛いけど我慢してよ」


 雪城虎織はそう言いながら傷口に手を当て炎で男の傷口を止血し将鷹に鎖を借りて男を縛り誰かに電話をかけていた


 「うん。黒影に滅多刺しにされてるからなるはやでよろしく。じゃっ。薬師寺君直ぐに車回してくれるらしいからすぐ降りるよ」

 「おう。じゃあ行くぞ」


 将鷹は呆れ顔で鎖を引き男を背負い山を全速力で降り、麓で待つ薬師寺蓮の車へと男を乗せ見送るのであった

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