プロローグ
走る、走る。ただひたすらに、死の足音と熱を背に逃げる。この逃亡が無意味なのは一秒もしない間に理解はできるが背を向けずには居られない。一歩踏み出した途端灼熱と何かの破片が身体を引き裂き過ぎ去って俺たちの命をもぎ取っていく。
辛うじて生き残った者はもう敵か味方かなど解らないほどに顔や身体は焼かれ、ぶちまけた中身を必死に身体に納めようとする者、水を欲して這い回る者、恨み言を言いながら同胞だったであろうモノに必死に呼びかける者。多種多様の地獄が目の前には広がっていた。俺はどうやら運が良かったらしく皮膚と服と髪が燃えて溶けた落ちただけで済んでいる。これでも死んだモノや周りの者に比べれば随分とマシだ。だがマシなだけで俺の命の灯火はもう尽きかけているのが解る。
なんでこんなことになったのか?アイツに変わってここに来たからだ。死ぬと解ってここに立っていたのだがどうにも死にたくないな・・・結局少彦名命に返事をすることもなく死んでしまうのか。しかしまぁ人のまま死ぬにはこの機会を逃すともう存在しなくなるだろう。
岩場を背に俺は座り込む。露出した筋繊維に岩が当たるがもう感覚もなく意識が朦朧としてきた。
こうして俺とこの島だった土地は世界の歴史の闇に葬られた。らしい




