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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第4章 異端狩り編
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第40幕 真価

 「任せるっても何やる気だよ・・・?」


 我輩は琴葉ちゃんに問う。荒唐無稽な事は言わないとは思うけどちょっと不安だ


 「簡単よ。こうやるの」


 琴葉ちゃんが落ちている大きめアスファルト片に手を当てるとアスファルト片が脆くひび割れて行く。鬼に乗っ取られた時見せたあの力だ


 「鬼の私がわざわざ最初に教えてくれてたんだけど今になってやっと思い出せたわ。全く困ったものね。乗っ取られた時の記憶を封印されてたなんて」


 記憶の封印は奏さんか土地神さま辺りだろうか?下手に記憶があってそれがストレスになる場合を考慮しての措置だろうか


 「それで、どうやって鎧に触る気だ?」

 「将鷹と虎織、アリサが守ってくれるでしょ?」

 「なかなか難しい事を言ってくれるお姫様だなぁ・・・」

 「でも、やれるしかないよね・・・!」

 「うちもなるべくサポートするけぇ」

 「よし、じゃあやるか!」


 各々覚悟は決めた。このボロボロの身体でどこまでやれるか解らないけどやるしかない


 「将鷹、少し屈んで」

 「ほい」


 琴葉ちゃんの言葉に従い腰を落とす。肩に小さな手がのると身体の痛みが引く。驚き過ぎて我輩は素っ頓狂な声を上げていたかもしれない。琴葉ちゃんがクスクスと袖で口元を隠し笑っていた


 「何やった!?」

 「ひ、み、つ」


 琴葉ちゃんが我輩の前に立つ。身長が伸びて少し大人びたその姿は先代様によく似ている。だがその髪は怒りに燃える深紅ではない、ただ燃える真朱だ


 「先駆けは我輩に任せろ!」


 我輩は腰を落とした状態から姿勢を低くして吹き飛ぶように走る。琴葉ちゃんの手が触れないといけない、ということは刀と腕、出来れば足の動きを制限したい。難しいけど何とかできるだろう。

 あの甲冑の刀は衝撃や斬撃が遅れてやってくる。なら攻撃の隙を与えなければこちらの刀に来る衝撃はかなり緩和されるはずだ。今は言葉を吐くのも時間が惜しい、でも癖で口走っちゃいそうなんだよなぁ。

 刀を弾くため姿勢の低くい状態から白虎を突き出してから上に打ち上げるように振るう。そして刀を弾いた所で虎織が虎徹を振り上げ峰で甲冑の肩部分を狙う。それとほぼ同時に甲冑は短刀を引き抜き我輩に向ける。

 峰が甲冑の肩に当たると同時に我輩の肩にも衝撃が走る。感覚共有か!?いや、それなら我輩が加速状態での蹴りの時にやってるはずだよな?

 ならさっきの短刀が何か関係あるはずだ。これは太刀より短刀の方を先にどうにかしないとダメだ


 「虎織!先に短刀の方どうにかするぞ!」

 「おっけー!」


 二人して跳び退き、また我輩は踏み込み距離を詰める。痛む肩を気にせず短刀を持つ手に刃を振るう。鉄がぶつかる音と火花が散るだけでビクともしない。少々焦ったがまだ切ってない手札がある。だが果たしてここで使っていいものか?いや、でもこれから使う場面はあるのか?一瞬悩んだけど原理の説明はしてもらった。作り方が解っているなら研鑽すれば出来るはずだ。

 振るわれる錆びた太刀を刀で払い除け振るわれる短刀を見てから袖に右手を引っ込めて黒いナイフを取り出し短刀の鎺へとぶつける。短刀は根元から綺麗な断面で引き裂かれ刃はそのまま自重で落下する


 「貴様・・・兄者に賜ったものをよくも・・・」


 くぐもったしゃがれた低い声だった。こいつ喋るんだ・・・ここまで無言だったから機械兵と同じだと思ってたんだけど。でもそれだと虎織が言ってた中身がないという言葉が気になる


 「悪いけどお前の身内事情なんてどうでもいい」


 黒いナイフ、黒転に目をやるとまだ形を保っている。だが刃はもうボロボロかもしれない。これ以上使う訳にはいかない。

 錆びた刀が大きく振り上げられるとアリサの弾丸が錆びた刀へと当たり手が止まる。その隙に虎織が足払いで甲冑の体勢を崩す。

 そこに琴葉ちゃんが息を切らして走ってくる


 「どんだけ・・・距離・・・離してん、のよ!」


 悪態をつきながら倒れた甲冑に手を置く。すると甲冑にヒビが入り崩れ始めるが甲冑は抵抗するように身体を思いっきり起こす。

 その勢いで琴葉ちゃんは吹き飛ばされ我輩の近くへ飛んでくる。我輩はそれを身体を使って受け止める。骨とか当たってめっちゃ痛いんだけど!もう少し肉つけてもいいと思うんですけどねぇ・・・


 「琴葉ちゃん、無事か?」

 「大丈夫よ。それはそうとちょっと失礼な事思ってない?」

 「オモッテナイヨ」

 「今はそういうことにしておくけど後できっちり話はさせてもらうわ」


 甲冑は立ち上がるも崩れ落ちそうな全身を直すのに必死のようだが修復よりこぼれ落ちる破片の方が多い。この好機を逃す訳にはいかない、そう思い、距離を詰め、拳を構え、踏み込む


 「椿我流!八極、無刀天打ち!」


 拳を直線ではなく斜めに伸ばし甲冑を地面から空へと吹き飛ばす。そして我輩も空へと魔術式を足場に翔け上がる


 「椿流、奥義が一つ!」


 空を舞うボロボロになった甲冑の頭部を掴み身体を重力に従わせ甲冑と我輩の重量で自由落下を加速させる


 「櫓落とし!!」


 言葉と共に甲冑を思いっきり地面へと投げ放つ。地面に甲冑がぶつかると共にアスファルトが砕け土煙が立ち込める。それを切り裂くように我輩の身体は自由落下を続けそのまま速度の乗った状態で甲冑の上に蹴りを入れる形で降りる。それを受けてかそれともさっきの櫓落としが効いたのか解らないが甲冑全体が砕け異形たる中身が姿を見せる。それは人間の脊髄と神経、そして男の生首。そう形容するしかない。生首だけは皮と最低限の肉が付いているがそれだけだ。眼球は萎み至る所皺だらけの老人と言ってさしつかえないもの


 「兄者・・・」


 そう生首はつぶやき眠るように目を閉じ砂へと変わる。残ったのは錆びた刀と籠手だけ。供養はしてやるか。そう思っていたがどうやらその必要はないらしい。近くに同じ甲冑がもうひとつ現れていたのだから。そして剣さんと戦っている男がその甲冑の肩を叩き言う


 「万物創造、その七罪甲冑も俺の作品に過ぎない。だがしかし弟は逝ってしまったか。クククっ。まぁ空想具現にまた弟を作らせればいいか」

 「テメェの言ってる空想具現ってのはコイツの事か?わりぃがもう始末しちまったぜ?なんせマキカルのサイン入りペンラにヒビ入れやがったからな。あぁ・・・思い出しただけでもムカついてきた」


 男がブツブツと言った後にその男を嘲るように聞き慣れた声が響く。白髪にイカした黒コート、それに特徴的な目付きの悪さ。そんなやつ我輩の知り合いに一人しかいない。でもなんでアイツが今武蔵に・・・?

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