表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第1章 先代鬼姫編
27/360

第22幕 逆行

「まさか行方知れずだった白浜が人間モドキになっていたとはな」


久野宮さんがぐちゃぐちゃとなった人間モドキだったものを見つめながら呟く。


「大して関わりの無い無愛想なやつじゃったからなんとも思わぬのだがな。いつもこちらを見るだけでなにもいってこなかって正直めちゃくちゃ怖かったからな」


そうは言うが久野宮さんはそこにある肉塊に手を合わせていた。

その刹那さっきまで転がっていた肉塊がこちらへと飛来する。


「まだ動くのかよ!人間モドキって頭潰せば止まるんじゃないのかよ」


生きることへの執念とでも言うべきかそれとも道連れにするという強固な意思なのか。

飛んで来た肉塊を短刀で切り裂き袖から拳銃を取り出す。


「風咲!後ろから来ておるぞ!」

「しぶといっての!」


飛んでくる肉塊に銃弾を撃ち込むが全くと言っていいほど効いていない。

素直に短刀で斬っておけば良かったと思いながら寸前で肉塊を躱す。


目線の先では肉塊が寄り集まり形を成そうとしていた。

それは元あった姿ではなくただの腐った肉の塊であった。

蠢き、時に生気のない眼の様な何かがこちらを覗き消える。


「そうまでして生にしがみつくか・・・それとも誰かに生かされているのか・・・」


人間らしく死ねないというのはなんというか可哀想とも思えてくる。

拳銃を袖に仕舞い回転式拳銃を取り出す。

普通の銃弾では肉にくい込むだけだろうし威力の出るこちらに持ち替えることにした。

本来なら先代との戦いまで隠しておきたかったのだが仕方ない。

虎織にもまだ見せた事なかったんだけどな。


「将鷹、それは?」


虎織が珍しい物を見るような目でこちらを見る。

実際回転式拳銃自体が華姫では珍しいというか我輩以外で使う人を見たことがない。


「回転式拳銃、RSH-12だ。いつものよりは威力があるけど弾数が少ないのとうるさいって感じのやつだ。今からぶっぱなすから耳塞いどいてくれよ」

「了解」


虎織が耳を塞いだ瞬間撃鉄を倒し引き金を引く。

轟音と共に肉塊の一部が吹き飛ぶ。

威力は1級品だがその分反動も大きい為ここぞという時に使う他ないな。

もう一度構え直し撃鉄を倒し引き金を引く。

さっきと同様一部を吹っ飛ばしたが時間が逆戻りしたかのように吹き飛んだ部分が戻っていく。


「吹っ飛ばしたのにまた集まってきやがった!?」

「時間逆行・・・まさか噂は本当だったというのか」


久野宮さんの口から驚きの言葉が発せられる。

時間逆行って術者が望む時間に戻れるってやつか?それを身体にかけて身体の時間を戻したのか?


「時間逆行って勝ち目ないんじゃないですか・・・?」

「聴いた話ではやつの時間逆行は特殊で自ら決めた所までしか戻れんはずだ。それに戻せるのは身体だけだと聞いている」


あからさまにやばい能力だ。

気になるのはその決めた所というのだ。人間モドキは本能で動いているようなものだから普通に考えれば理性ある人間の姿に戻るはずだ。

何故肉塊の状態で戻ったんだ?


「風咲!ぼーっとするな!奴が人間の姿に戻り始めたぞ!」

「えっ・・・?あっ。すみません」


考えすぎたようだ。時間差で人間の姿に戻ったか。

でもあの気持ち悪い肉塊の状態を経由して時間逆行を行うものなのだろうか。他の何かが関わっている気もしなくもない


「将鷹、柏手1つお願い。」

「わかった。」


大きく柏手を1つ。これは魔術や身体が強くなるようなおまじないではない。ただの精神的なブーストをかける様なものだ。


「さて、きっちり人型になったことだし仕掛けるとしようか」

「そうだね。今度は塵一つ残さないぐらいに切り刻まないとだね」

「物騒だな」

「そうでもしないと先代様の所には行けないからね」

「違いない」


銃の撃鉄を倒し短刀を握りしめ目の前の魔術師目掛けて走り出す。

炎で塵も残さず燃やし尽くすのが1番手っ取り早いのだろうが我輩にはそれが出来ない。

普通ならここはスルーして先代を倒してから妖刀の心中で殺しきるのがベストなのだろう。


魔術師が手を挙げたのを見て走りながら後ろ以外を確認すと無数の水の針が我輩を囲んでいた。

そんなものは構わず一直線に走る。


「虎織!頼んだ!」


我輩は叫んだ。そしてそれと同時に風が吹き水の針はただの水へと形を変え地に落ちる。


魔術師の首に短刀が当たる距離まであと6歩。


「お前は随分と面倒なモノ。持っているな。」

「人間モドキが喋ったァァァァ!」


魔術師が口を開く。さっきまで爛れ剥がれ落ちそうだった肌は人間らしい健康的な肌に変わっていた。

驚愕のあまり叫んでしまった。


「失礼極まりないな。お前は。」


魔術師はボソリと消え入りそうなほど小さな声で呟いた。


短刀を魔術師の首に突き立てようとしたが寸前のところで腕が止まる。

飛び退き距離を取り魔術師を凝視する。

どうやら完璧に人間に戻っているようだ。こうなると厄介極まりない。


魔術師はボソボソと何か言っているが全く聞こえない。

マジで声が小さい


人間に戻っているのなら我輩に殺す事は不可能だ。

人間は殺せないそういう呪いというか加護がかかっているらしい。

これは何故か虎織にも影響があるらしく人は殺させないようにと久那さんから言われている。コイツは久野宮さんにも殺させたくはない。

甘い考えなのは分かってるけどこの魔術師は戦闘不能にする他ない。


魔術師を見つめながら虎織の所まで飛び退く。


「虎織、アレ人間に戻ってるぞ」

「てことはとっ捕まえて縛り上げるしかないね。縄抜けされると厄介だけど」

「大丈夫だ。あやつにそんな器用な事は出来んはずだ。昔捕まっておったのを助けに行ったことがある」


縄の類は一応袖に入っている。あとはどうやって縛り上げるかだ。


柏手が2回聞こえる。


「あの大波が来るよ」


虎織が呟く。

今からじゃ風を集めるのも難しい、これは一点突破でどうにかする他ない気がする。


「一点突破で切り抜けるぞ。我輩があの波が来たら斬るから2人はそこを通って捕縛を」

「わかった。じゃあ頼むね」


虎織に頼まれたらやる気が出てくる。短刀を構え大波に備える。

しかし、柏手が響いてから数秒経つが一切波が出てこない。

そう思ったその時だった。階段から大量の水が流れて来る。


「来たか」


大量の水が目の前まで迫りくる。

それは目の前で左へと曲がり階段の方へと流れた。


「えっ?なんで?」


身構えただけあって唖然としてしまう。マジでなんで?

水が引いた後魔術師は何かを引きずりながらこちらへと向かってくる


「これ、俺を人間モドキにした元凶。俺そんなに力ないからこいつ殺して。それにこいつ。俺に糸括りつけて人に戻るの阻害した。」


魔術師はボソボソと言葉を紡ぎながら大型の人間モドキをこちらに投げる。

いや、そいつ投げられるなら力はあると思うんだけど?


「こいつを殺せばよいのだな?」


久野宮さんが魔術師に問う。

魔術師はコクリと頷きく。


「ちなみにそいつ。久野宮を操ってた元凶。」

「そうか。こいつがか。蹴られ、投げられ、焼かれた恨み、ここで晴らすとするか」


久野宮さんが倒れている人間モドキの頭を躊躇なく踏み潰した。


「白浜、お前今まで何をしておった。3年前から行方をくらませおって」


久野宮さんが魔術師に優しく問う。


「監禁されてた。人間モドキになる薬の投与も。」

「そうか。それは大変じゃったな。それでお前を監禁した者の名前はわかるか?」

「そーぎいん。拾弐本刀の拾番の息子。」

「左右偽陰、やはりその名前か」

「久野宮は覚えてないの。あの人の事。」

「残念じゃが」

「そうか。俺もあんまり覚えてないけど。あいつは拾弐本刀の。あれ。思い出さないや。誰だったかな。えっと番号でいいや。漆番と仲良かった。」


これは大きな情報を得られたのではないだろうか?


「君達には礼を言う。1度殺してくれてありがとう。君達のおかげで時間逆行できた。」

「礼を言われる立場には居ませんよ。我輩達は貴方を殺しただけですから」


「それもそうか。あの鉛弾痛かったしな。じゃあ俺はここから出るから。」


そう言うと魔術師は水に溶けるように床に消えていった。

なんなんだあの人は?それにしても最後まで声小さかったし。


我輩達は天守閣を目指しまた歩を進め始めた

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ