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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第1章 先代鬼姫編
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第21幕 白浜征従朗

「あれって旧拾弐本刀の白浜(しらはま)さんだよね・・・?」


虎織が人間モドキを見て我輩と同様に動揺しアレの元になった人間の名前を口に出す。


「そうだな。どう見てもアレは白浜のおっさんだ。」


白浜征従朗(せいじゅうろう)。確か拾弐本刀の中だと拾壱番目、あの頃の番号は強さの指標だったはずだ。それを考えるとまだ倒せる範囲なのか?でも仮にも拾弐本刀の危ない人ばっかりの頃の11番目だしこれはスルーした方がいいのでは?

しかも広さ的には刀振れないんだよな。さてどうしたものか・・・

でもアレを避けて進むことは難しそうだしやるしかないか。


「ここじゃ刀振れないから虎織は援護頼むよ。」

「まさか素手で・・・」

「それは勘弁してくれよ。流石に素手じゃ倒しきれないし何より人間モドキって皮膚ぐちゃぐちゃだから殴りたくないんだよ」

「確かにあれは・・・うん。素手は嫌だね」


この様子だと多分殴ったことあるな。

かく言う我輩も殴ったことがあるが溶けた皮膚に腐りかけの肉の為殴った手応えがマジで気持ち悪い。


「素手は嫌だから文明の力に頼るとしようか。あんまりここでぶっぱなしたくはないけどな」


袖から拳銃を取り出しロングマガジンをセットする。

人間モドキはこちらを向いてはいるが見えていないのか一切の攻撃を仕掛けてこない。こちらにとっては好都合だが不気味で仕方がない。


拳銃のスライドを引き照準を定め発砲する。

乾いた音、手に伝わる反動、硝煙の匂い、飛び出す薬莢、いつになってもなれない物ばかりだ。

間髪入れずもう一度引き金を引く。


撃ち出した弾は人間モドキの前で水に呑まれ地面へと落ちる。

カランと弾頭が地面に跳ねた音を皮切りに人間モドキの右手から水が吹き出す。


吹き出した水はウォーターカッターというのだろうか鉄をも切り裂く様な勢いで我輩達へと襲いかかる。


「将鷹、下がって。やっぱり私が前にでるよ」


虎織が1歩前へ出て我輩に下がるよう促す。

我輩もそれに応えその場から下がる。


虎織の後ろに下がり虎織が髪留めへと手を伸ばすと後ろから強風というか暴風が吹き抜ける。

あまりの強風に虎織の髪を後ろで纏めていたリボンが解け宙を舞い、灰色の綺麗な髪が大きく靡く。


こちらに向かってくる水は周囲に飛び散り木の床や柱にシミを作りながら吸収されて行った。


「使う魔術が水だけなら私一人の本気で十分足りるからね。将鷹はいざって時の援護お願い」


どうやら魔術師としての本気を見せてくれる様だ。

先代と戦った時は制約や枷があったが今回はそれが一切ない。

本気の虎織を見るのは随分と久しぶりだ。


「油断は禁物だぞ?」


油断などしないというか油断しないからこそ本気なのだから、こういうのも野暮というものだが


「大丈夫。今日は昨日みたいにならないから」


虎織の手元に目視できるだけでも10種類を超える魔術式が展開されていた。多分見えていないだけで他にも展開しているのだろう。


虎織が手を挙げてから下ろしたその瞬間、風が束になっていく。

風が見える訳では無いが埃などの地面に落ちていた物が束ねられていきその場に留まり塊となった。

それが見えたのか人間モドキは両手を前に出し左右に大きく開いてから柏手を打つ。


柏手の音が響いた瞬間空気中の水分が減っていく。

これも目に見える訳では無い肌の水分が無くなり乾いてカサカサし始めた。

乾燥肌なんだからマジでこういうのやめて欲しいんだけど。


そんな事を思っていると我輩達を囲うように大きな波が押し寄せてくる。


「爆ぜろ」


虎織のその一言と共に虎織の目の前に溜まっていた風が轟音と共に弾け大波を跳ね除けると共に正面に居た人間モドキの両腕を風の刃が切り落とした。


跳ね除けられた波は冷たい雨のように我輩達へと降り注ぐ。

慌てて拳銃を袖へと仕舞い羽織と一緒に入っていた短刀に持ち替える。


「将鷹、構えて。上から何か来るよ」


虎織の声と共に我輩は身構える。何かとはなんだろうか?日々喜さんは人間モドキは三体居ると言っていたしもう一体が来たか?


「すまん風咲、雪城。しくじった・・・」


降りて来たのは久野宮さんだった。身体に目立った傷等はない。しくじったとはどういう事だろうか?

考えていると久野宮さんが凄い勢いで我輩へと向かってくる。


なるほど。そういう事か・・・

おおよそ誰かしらに身体の主導権を握られたのだろう


「一人で先に行くからこうなるんですよ」


直線的に突っ込んで来た久野宮さんを蹴り飛ばす。


蹴りで吹っ飛んだ久野宮さんを助けるかのように人間モドキが久野宮さんを身を呈して受け止めた。


「全く・・・老体は労るものであっていたぶるものではないぞ」

「これは仕方ないじゃないですか。操り人形になってる久野宮さんが100%悪いです」

「ぐうの音も出んな」


久野宮さんはまた直線的にこちらへと突っ込んできた。しかし今回は虎織の方へとさっきとは比べ物にならない速度で向かってくる。


「せぇい!」


掛け声と共に虎織が突っ込んで来た久野宮さんの服の首元を掴み地面へと叩きつけた

めちゃくちゃ痛そうだ。それよりも虎織の髪留めに仕込んだ御守りの魔術式が発動して久野宮さんと虚空に蒼い炎が走る。


「虎織!怪我してないか!?」


心配になり思わず大声を上げてしまった。


「平気平気。ピアノ線か何かで怪我しかけたけど将鷹のコレのお陰で無傷だよ」


虎織は髪留めを触りながらそう言った。怪我がなくてほんとに良かった。

胸を撫で下ろす最中久野宮さんの声が聞こえた


「ワシの心配は?」

「しませんよ。自業自得です。」

「お前なんか今日辛辣過ぎぬか?」

「そんなことはないですよ。久野宮さんが一人で先に行ったからちょっと怒ってるだけです」

「それはほんとにすまんかった・・・」


「おーわりっと」


久野宮さんと言い合ってる間に人間モドキの方は片付いた様だ。

旧拾弐本刀とはいえ虎織が本気を出したら一瞬だったな。相性が悪かったが故かそれとも人間モドキになって能力が劣化したか。

どちらにしても短時間でケリをつけた虎織は凄い。


「お疲れ様。やっぱり虎織が本気出すと一瞬だな」

「褒めても何も出ないよ。さて、久野宮さん。上で何があったか話してください」

「それがだな、城壁を登っておったら急に身体が引っ張りあげられてそのままさっきの状態になったという感じで全くもって有益な情報がないのだ」


それは困った。未知の相手と先代と戦う前にやり合うとか苦労しそうだ。分かっているのはピアノ線を使うという事だけ。


これは慎重に上へ登った方が良さそうだ

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