第19幕 幕引き
「椿我流、落椿!」
走る勢いと体重を乗せた袈裟斬りを大河の肩目掛けて放つ。速度は十分だが加減はしないと・・・そう思い手を抜いたのが良くなかったか腕1本で防がれてしまう。咄嗟に距離をとるために後ろへと跳び退く。手に残る打ち込んだ木刀の感覚は人の腕に打ち込んだというよりこれは・・・
「鉄板かなんか仕込んでるな・・・?」
「正解。喧嘩ってんならこれくらいはアリだろ?それに雪城はOK出したしお前はそれを否と答える程器小さくないよなぁ?」
煽り気味に大河は笑う。鉄板とか反則だろと言いたいけどその程度どうにか出来ないとこれからはやってけない。七罪甲冑が相手の手にあるならばこんな鉄板くらいは超えていかないと倒せない
「あぁ、別にいいぜ。そんなモンぶち抜いてぶっ飛ばしてやんよ」
強がりの為にアイツの口調を真似てみる。目指すべき相手、絶対に負けたくない相手。必ずアイツ以上に強くなってみんなを護るんだ
「いくぜ」
木刀を投げ置き掛け声と共に全速力で走る
「飛び道具相手に武器捨てて向かって来るとか正気かよ」
名刺サイズの鉄板数枚が横に広がり飛んでくる。袖から投げるのは確認出来た、後はこの薄い鉄板をどう避けるかだ。速度を出しすぎて下手に止まれないし横に避けるのは難しそうだ。でも、下ならくぐれるか?鉄板の少し前でスライディングのように足を前に突き出し地面を滑る。ズボンを摩擦で熱くしながら大河の足を絡め取る
「なっ・・・!」
「足下がお留守だぜ」
バランスを崩して尻もちをついた大河を見下す様に立ち上がると大河は口を開く
「まさかそういう手いや足か、使ってくるなんてな。ガキの頃の猪突猛進のバカのままだと思ったらそんな事できるなんてな」
「あー。そう、お前そんな風に思ってたのな。まぁいいや、これで少しは気楽にぶん殴れる」
「ちょっ、待てよ!友達だろ俺ら!」
「そういう命乞いは聞きたくなかったな」
「全くよぉ、嫌な大人になったもんだなっ!」
後ろから風を切る音が複数聞こえる。鉄板が戻ってきたか。我輩は飛び込むように前方へと転がる
「そういうずる賢い所は相変わらず変わってないみたいだな!」
精一杯の嫌味を込め言葉を紡ぐ。昔から大河は悪知恵はよく働くタイプだったし行動力もあったなぁ。懐かしいもんだ
「木刀捨ててくれてありがとよ!長物あっちゃ弾かれて楽に対処されちまうからな!」
「そうかい!なら投げさせる暇もなくぶん殴ればいいだけだろ」
立ち上がった大河へ目標を定め走り出す。そんな時銃声が響く。虎織のいる方向だ
「虎織!」
「大丈夫!当たってない!」
一安心した所で速度を上げる。さっきと同じように鉄板が投げられる。今回は避けられないように上下左右に大量の鉄板、どうするべきか。面制圧されると弱いんだよな・・・!
避けられないなら当たりながら進むしかない、腕をクロスして頭を護るように突っ込む。めっちゃ痛い!角が刺さるし見た目以上に質量あるみたいで腕が軋む程に痛い。でもこれで間合いだ。踏み込み、拳を突き出す
「椿我流、八極!」
ゴンっと鈍い音が響くと共に我輩の拳に痛みが走る。腹にも鉄板仕込んでやがった!めっちゃ痛いんだけど!
「どうした?顔が引きつってるぜ?殴って来いよ!んん?殴ってこないならこっちからいくぜ!」
右ストレートを左腕で受けると骨が軋む。さっきの鉄板なんて比じゃない程痛み。大河の鍛え抜かれた腕から放たれる一撃は重かった。間髪入れずに次の攻撃が来る。受けるのは愚策、ならば受け流すのが正解か。手や足の攻撃を掌底で弾いていなす。どれだけ連撃が続こうが何処かで必ず隙ができる、だからここは耐えることに集中する
「防御一辺倒になってるぜ!さっきまでの威勢はどうしたんだよ」
「喋ってる余裕なんてあんのかよ?宣言してやるよ次の一撃でお前を沈める」
「なんだよハッタリか?」
ハッタリなんかじゃない、腹に仕込んだ鉄板をどうにか出来ないと思ってるなら大間違いだ。
一瞬の隙、攻撃の手が緩んだ瞬間右手を広げ指の第一、二関節を曲げる
「椿我流」
踏み込み、その一歩で大気が揺れる
「彼岸花っ!」
手のひらの上の方が鉄板に当たりその衝撃で大河の身体が少し浮く。そして残りの手のひらが当たるように手首をガクンと動かし掌底を食らわせると大河は吹き飛ぶという程では無いが立っていた地面から少し離れた所へ落ちる。
本来の彼岸花は魔術で補強した五本指を突き出し初撃としてから掌底というものなのだが今回は補強出来ないからこういう変わった動きをせざるを得なかった
「鉄板貫通で鳩尾にダメージとか馬鹿げてるだろ・・・」
「空中じゃ踏ん張り効かないしバックステップも出来ないから威力そのままで通せるってやつだ」
「なるほどな・・・」
彼岸花のダメージが効いたのか大河はがくりとその場で気絶した。完全燃焼って程ではないにしろ不完全燃焼とも言い難い、そんな感覚の中ドスンと大きな音と共に大男が大河の近くに落ち気絶する
「そっちも終わったみたいだねー」
虎織が駆け寄ってくる。いつもと少し違う感じがする。その違和感の正体は片袖の羽織を羽織っているというものだった
「我輩の羽織なんで着てるんだよ・・・」
「こいつが銃使ってきたからアリサちゃんに投げてもらったんだよ。防弾、防刃仕様だし何より袖で手元隠せるからね!」
「ちなみに怪我は?」
「無し!将鷹は?」
「若干腕が痛いな。後で蓮に診てもらわないとだ」
「そっか、じゃあ早く診てもらいなよー」
「そうだな」
こうして我輩達の決闘は幕を閉じた。暴れたおかげか少しスッキリした気がする。でも背負った罪は変わらない・・・それだけは忘れないようにしないと




