第20幕 人間モドキ
「首なしの人間モドキか・・・」
首の無い人間モドキが柱が乱立している場所で迷いなくこちら側に向かってくる。
相手の獲物は太刀。それと腰に小刀1本。広さ的に縦になら刀を振る事の出来る広さだしこちらも太刀で応戦するべきか?
いや、ここは銃で応戦・・・待てよ?発破音でもしかしたら敵側の増援がくるかもしれない。
なら刀で斬り伏せるのみ!
虎徹を構え人間モドキの動きを見据える。やはり真っ直ぐこっちに来ている。
耳も目もないのにこちらに気づいているのだろうか?
「どうする?ここで闘って倒しておく?それともスルーして久野宮さんの所へ急ぐ?」
虎織が我輩に質問を投げる。
答えは分かっているだろうに。だがまぁ確認も兼ねてるだろうからな。
「倒す。それ一択だ」
「そう言うと思った!」
嬉しそうに刀を構えながら虎織は人間モドキの前へと出る。
我輩は虎織とは反対側から人間モドキを討ち取る為走り出し人間モドキの後ろを取る。
この広さなら刀は振れなくても突きはできる。
「椿流。丑の番。牛刀割鶏。」
普通は技名など言う必要はないが、師匠に相手に椿流の恐ろしさを知らしめるために必ず言えと耳にたこができる程言われ、今では直せない癖みたいな物になってしまっている。
牛刀割鶏。椿流の中でも最も単純だが最も対処しにくいただの頭への突きを繰り出す。まぁこいつは頭が無いから心臓付近への突きなんだけど。
「なっ!」
刀を使って突きを逸らされた。真後ろからの奇襲なのに対応できるとかこいつマジで人間辞めてるな。
技名を声に出すのが良くなかったか?でもこいつ耳はないぞ?
考えている最中人間モドキの身体がくるりとこちらを向き刀を刀を振ってくる。
それはまるで剣道の面を打つかのような動作だった。
「横に振るには狭くても縦で振る分には十分な高さだもんな!」
振り下ろされる刀を咄嗟に刀の鍔で受け止める。
刀の鍔が広くなければ受け止められなかっただろう。
鍔迫り合いではないが鍔で刀を受け止めている状態がしばし続く。
人間モドキの後ろには虎織が八相構えで近づいき刃を振り下ろす。
「おいおい嘘だろ・・・?」
人間モドキは後ろに目があるかのように何故か虎織の一撃を腰に差していたもう一本の小刀で受け止めたのだ。
「これは思ってた以上に厄介かもね。申で行くよ!」
「だな。さっきの不意打ち2発防がれたのなら我輩達2人の本気見せてやろうぜ!」
「「椿流、申の番。猿臂之勢」」
猿臂之勢は2人以上で行う攻守自在の型であり基本は1人が敵の攻撃を弾き、もう1人が隙を見て攻撃を行う型だ。
まずは我輩が先陣を切って袈裟斬りをするが弾かれてしまう。我輩は1歩引いて虎織が逆袈裟を、これも弾かれたので2人で突きを行うが防がれてしまった。
人間モドキは2本の刀を駆使して我輩達に斬り掛かるが1人ならいざ知らず、2人なら余裕で捌ける技ばかりだ。
「こいつ我輩達の動き全部見えてるのか?」
「そうとしか思えないよね。それにこいつ器用に柱のない所で刀振ってるしね!」
我輩が一太刀防いで虎織が突きを入れるがそれもいなされる。
どう考えてもおかしい。こいつ先読みができるのか?それとも・・・
「虎織、少し防御に専念してくれ」
「わかった。アレやるなら頭気をつけてね」
「おう。椿流。戌の番。犬斬刃朱。」
体勢を極限まで低く、刀を逆手に持ち、片手を地面に付ける。
そして勢いよく飛び出し敵の脚を切り裂く。とはいかなかった。やはり刀で弾かれる。なら次の一手だ。
「椿流。酉の番。刃隠奇襲。」
本来なら袖に刀を隠して刃の長さを隠蔽及び誤認させる技だが正面のこいつからは見えないが後ろからは見えるように少々工夫した。
結果としては当然の如く防がれた。
このことから分かるのはこいつが風などを感知して攻撃を防いでいる、または身体から頭を離し何処かから我輩達を見ているというところだろうか。
人間モドキは言わばゾンビのようなものだし頭が身体から離れていても動くというのもできるだろう。
次の技で感知しているのか見ているのかはっきりさせよう。
「虎織、ちょっと自慢できる技やるから見ててくれよ」
「おっけー。じゃあかっこいい所魅せてね!」
仕事口調ではなく日常会話の口調で虎織は応えた。
かっこいい技ではないが面白味はあるかもしれないな。
ただ刀の軌道とかを感知してて防がれたならかっこ悪いぞこれ!
敵に袈裟斬りで斬り掛かる。もちろん敵は刀を弾くため刀を構えるが我輩の刀はスルりと構えられた刀をすり抜ける様に通り過ぎ人間モドキにはじめて刃で傷をつけた。
「えっ、何その技!刀がすり抜けたよ!」
虎織が凄い!と興奮気味に言う。
「この戦いが終わったら教えるよ」
口で説明してもいいのだが敵地で技の種を明かすのは愚行だろう
「それ死亡フラグだよ」
虎織が笑う。我輩も敵の前ながらも少々頬が緩んでしまった。
さすがに人間モドキはさっきの一撃で倒れることはなく、こちらにまた攻撃を仕掛けてくる。
おおよそさっきので何処からか我輩達を見ているのがわかったがそれが何処からかなのかはまだ分からないままだ。
攻撃を捌き反撃の隙をうかがっているその時だった。
天井から血がポタリ、ポタリと落ちてくる。
「虎織!天井の血が落ちて来てるところに攻撃仕掛けてくれ!」
「了解!」
虎織は風の魔術で天井の一部を吹き飛ばす。
そしてそれは降ってきた。
「うわっ!生首だ!きもっ!」
いかにも落ち武者という感じの男の頭が口から血を吐きながら落ちてきたのだ。思わずきもいと言ってしまったがまぁ仕方ない事だろう。
まさか頭を天井に置いてたとはな
「とりあえず頭潰せばあの身体は止まるか」
我輩は無慈悲に冷酷に人間モドキの頭であろうものに刀を振り下ろす。
こいつが人ならば我輩は殺せない。しかし人から外れればこの刃はこれの灰さえ残さないだろう。
刃に触れた頭は跡形も無く消え去り身体の方も崩れ落ち砂へと変わった。
「よし。終わったし先に進もうか」
「うん。やっぱりこういう人型の人外相手だと将鷹強いよね」
「まぁ色々とあるからな」
「そうだったね。神様と仲がいいからこそだね」
「かもな。たまに困りはするけどな」
我輩達は目の前の廊下を進み階段の前で歩みを止める
「あーやっぱりここからは虎徹も風切も使えないな」
「魔術でどうにかしていくしか無さそうだね」
「あぁ。」
目の前の階段を登り上を目指す。そこにはまた人間モドキが居た。各階に居るとかゲームみたいな配置しやがって。しかもこっちに気づいてないとか無能なのか?
我輩は内心毒づきながら階段を登りきる前に袖口から銃を取り出し身構え勢いよく階段を登り人間モドキに銃口を向け驚愕した。
「あの人ってまさか・・・」
見覚えのある顔をした人間モドキがそこに立っていた




