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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第4章 異端狩り編
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第10幕 海賊

 轟音、そして船が大きく揺れる。さっきまで外は晴れていたし雨雲のようなものは見渡しても一切なかった。ということは敵襲だろう。我輩は虎織に視線を送り扉を勢いよく開け飛び出す。船員達がまだ出てきていない狭い廊下を走り急なラッタルを跳ぶように2歩で登る。船中と外を隔てる扉を開き外へと出る。天気は雲ひとつない快晴、眼前に敵影無し。確認の最中またも船が揺れる。一瞬の空間の揺らぎを見て船が魔術式で守られているという確証は得た。揺れの原因は魔術式と外からの攻撃によって発生する波。防御の魔術式がどれだけ持つかは分からない手早く周囲を確認するため甲板の中央付近に立ち、くるりと回る。

 扉と逆方向にこの船と同じかそれ以上の戦艦が一隻並走している。これはそれなりの数の敵が乗っているだろう、少なくともこの船と同等以上の船員と考えるとなかなかに骨が折れるというものだ


 「将鷹、敵は?」

 「進行方向右側に居るよ」


 追いついた虎織が問いそれに軽く答える


 「これは中々・・・」

 「覚悟決めていかないとな」

 「うん」


 袖の魔術式から白い刀身の日本刀、白虎を引き抜きその鞘を袴に差す。虎織は腰に差した刀を鯉口切って刀身が少し見える程度の場所で止め構えている。

 我輩は構えない。どう構えるのが正解か分からないからだ。右足を前に左手に刀を持ち警戒だけを行う


 「何か来るよ!」


 虎織が何かを感じ取り警戒を強める。刹那視界に現れたのは鉤爪のついたロープ、それが船の手すりにかかりピンと張る


 「随分古風な海賊だな!」


 まさか甲板へ直接乗り移って来る気だとは思わなかったな


 「お兄ちゃん!インカム!」


 アリサの声が聞こえる。その方角へ軽く眼を動かしインカムが飛んでくるのを確認した。アリサはインカムを投げて速攻で船内へと引っ込んだ様だ。我ながらいい妹、正確には従妹を持ったもんだと飛んでくるインカムをキャッチし左耳に着け口を開く


 「こちら風咲、甲板にて報告。敵船はこちらと同等かそれ以上、速度一定でこちらと並走、甲板に敵船鉤縄が引っかかった。対応法を求む」

 「こちら刻坂、バランスを崩さぬよう注意されたし鉤縄は敵が侵入しそうな場合は即刻切り離すべし、それ以外の場合は放置でよし」

 「了解。虎織!今からバランス崩すなだってさ!」

 「無茶な動きでもする気かな・・・!」


 ゴオォォォォっと重たく鈍い何かが開く音が響く。表に出ている砲塔は一切動いていない。まさかこの船昔のガレオン船とかみたいに側面にも砲門があるパターンか!?


 「砲門解放ヨシ!敵艦確認、派手にぶちかませ!」


 インカムから聞こえる提督の指示の後船が小さく揺れ煙をあげる。そして敵艦は少し速度を上げ一部砲弾を避けるがその側面に何発か砲弾を受け揺れる


 「これは我輩達要らないかもな」

 「気を抜かない。もしもは常に想定してて」

 「わかった」

 「2人とも怪我は無いでありますな」


 カツカツとブーツの踵を鳴らし提督が我輩達の前へと出て周囲を見渡し、敵艦を見ても眉一つ動かさず進行方向へと眼を向け腕を組み言い放つ


 「旋回準備、エンジン停止。艦首側右舷非常推進器に火を灯せ」


 歴戦の猛者を思わせる威風堂々とした号令。それと共に魔術式が提督の足元に現れる。背中の軍服を風で靡かせ大きすぎるその背に虎織共々見惚れていた


 「風咲殿、雪城殿。鉤縄を斬って何かに捕まるのでありますよ」

 「了解」


 抜刀状態の我輩が行くと虎織に視線を送ると静かに頷き近くにある手すりを掴む。それを確認してから我輩は最速で鉤縄を斬る。それとほぼ同時に号令が飛ぶ


 「船員全員衝撃に備えよ!旋回始め!」


 斬った瞬間にこれかよ!と思いながらも横にある手すりに捕まる。号令からすぐに艦尾を中心に凄まじい速度と衝撃で左へ90度回転し敵艦が武蔵丸を追い越す形となる。まさかこのまま艦尾側へ進んでT字になる様に艦を移動させる気か!?


 「エンジン再始動、艦尾側へ進め!」


 そのまさかだった。敵艦のエンジンに数発砲弾をぶち込みこのまま離脱するのが楽そうではあるが提督はどうするんだろうか。まぁエンジン部が後ろにあるという確証はないんだけど


 「魚雷発射準備急げ、1分以内に発射範囲!砲撃班も再装填、装填完了後すぐに砲撃!」


 提督の魔術式が未だに発動しているのを見るとあの式の効力は艦の操作または艦内の状況把握だろうか。砲撃が次々と敵艦の後方へと命中する。外れた弾など1発たりとも無く練度の高さが伺える


 「魚雷撃て!」


 提督の号令で水中から大きな気泡が上がる。ドンと大きな音が数回響いたが敵艦は未だに動き続けている


 「確実にスクリューは捉えていたと思ったのでありますが・・・」

 「提督!」


 ありえない物に驚愕と納得をしながら叫んだ。さっきまでそこにはなかった砲身が提督を狙っている。一瞬の間に出てきた、そういう表現が正しいだろう


 「大丈夫でありますよ」

 「椿流、結の太刀、風刃裂破!」


 提督が大丈夫と答えてすぐに虎織の声と共に敵艦の砲台が火花を散らしながら傾く。少し前の虎織が使う結なら鉄までは斬れなかったが今は多少苦戦するものの火花を散らしながら斬り裂ける様だ


 「将鷹、さっきの見た?」

 「砲台がいきなり出てきたな。相手にいきなり何かを出現か作るかする能力使えるやつがいるな」

 「むぅ・・・それはそうなんだけど」


 なるほど、虎織は前よりレベルアップしてるぞっていうのを見せたかったのか!最近は前よりなんだか褒めてくれって感じが強くなってるけど我輩としてはそういう感情を表に出してくれた方が嬉しい


 「結、凄かったな。鉄まで斬れる様になったって事は師匠レベルまであと少しだな!」

 「そうでしょ!できる事の幅も増えたから作戦とかで色々任せてね!」

 「あぁ!」

 「イチャイチャするのはいいのでありますが敵前でそれは命取りとなるのでありますよ」

 「あっ・・・すみません・・・」

 「いいのでありますよ。その代わり、2人にはこっちに飛び移ってくる厄介な奴の相手を任せるのであります」


 提督の言葉の数秒後、空から赤黒い甲冑が降ってくる。見覚えのあるその甲冑、確か七罪甲冑と言っていたか、それが飛来してきた。前のはレプリカだのなんだのと言っていたが今回のは本物だろうか・・・


 「虎織、アイツに魔術は効かないから気をつけてくれ」

 「了解、中々分が悪い相手みたいだね・・・」


 我輩は正眼で虎織は霞で構えて甲冑の動きを見据える。甲冑の動き方次第でお互いどう動くか、それを決める為ただ我輩達は切っ先を向け動きを待つ

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