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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第4章 異端狩り編
229/361

第2幕 写本

 「ただいま」

 「お兄ちゃんおかえり。怪我とかなかった?」


 家の戸を開けるとアリサがエプロン姿で出迎えてくれた。朝食を作ってくれているのだろう


 「大丈夫。なんにも問題ないよ」

 「そっか、じゃあまずはご飯、の前にお風呂入ってきて。埃っぽいというか汚い」


 アリサの言葉で自らの姿を見ると蜘蛛の巣や綿埃がかなりくっついていた。そりゃそういう反応するわ


 「あぁ、そうする。っとコイツらは綺麗なままか・・・」


 ナイフとオルゴールを見ると埃など一切付いていない。不思議、と言うべきなんだろうけどこんなことよくある事と言ってもいいだろう。そういえば分厚い本の表紙をまだ見てなかったっけ。そう思い本に視線を落とすとただの真っ白な表紙、見た瞬間に嫌な汗が流れる。我輩はコレを知っている。開いてはいけない本、魂の写本(たましいのしゃほん)だ。何も無かった、そう装い靴を脱ぐと


 「その木箱・・・」


 アリサがオルゴールを訝しむ様に見つめ顎に手を添える。見た事はあるが思い出せないそんな感じだろうか


 「見覚えあるってことはやっぱなんかあるかな」


 我輩は小声で呟く。誰にも聞こえないように、我輩の頭の中を整理するためだけに


 「一旦ここに置いとくか・・・風呂も入らないとだし。アリサ、悪いけど我輩の部屋から適当な着替えを風呂場に持ってきてもらえるか?このまま家歩き回るわけにもいかないし」

 「うん。正装でええんよね?パンツは・・・適当でええか・・・」

 「任せるよ」


 我輩は風呂場に向かい服を無造作に脱ぎ洗面所で服の埃と蜘蛛の巣を洗い流す。炎でも使えればバッと燃やせるんだけどな。使えないものを嘆いても仕方ない。だいたいは綺麗になったし風呂入るか。とりあえず水に濡れた服を洗濯機に放り込み風呂の戸を開ける。昔読んだ小説とかならここで虎織とはちあわせて洗面器のひとつでも飛んできそうなものだがそんな事はない。

 髪を洗い、体を洗う。温かい湯船に浸かり目を閉じ思考を巡らせる。異端殺しをどう追い払っていくか、武蔵にさえついてしまえばなんとかなる。いや、そんな甘い考えはやめておこう。武蔵でも必ず何かある、万全を期して挑まないと。大切な友達、もう二度と彼女を失わないとあの日虎織と約束したんだ。だから・・・


 「あんまり考えすぎてるとのぼせるわよ」

 「そうだな」


 目を瞑ったまま誰かの声に答える


 「あんまり驚かないのね。というかなんで入ってきてるのよ」


 考え事をしていて現実に目を向けていなかった。その声は琴葉ちゃんの声だった。我輩はあまりの衝撃に言葉を失ってしまっていた。なんで琴葉ちゃんが・・・?


 「ごめんなさい、どうやら予想以上に驚いてるみたいね」

 「驚くよそりゃ!さっきまで居なかっただろ!?」

 「いたわよ!思いっきり!湯船に顔沈めてたりもしたけど!居たわよ!」

 「いやいや!居なかったって!」


 記憶を遡ってもそれらしい影もなかった・・・はず


 「そもそも居るなら我輩が入ってきた瞬間声掛けてくれたらいいじゃんか!」

 「鼻歌交じりに入ってきたのがなんか面白かったからしばらく観察しようとしてたら言うタイミング失っただけよ!」

 「えぇ・・・」


 そんな時風呂場の戸が開く


 「騒がしいよ2人とも」


 戸を開いたのは虎織だった。不味い・・・何が不味いかと言うと虎織とは結婚を前提にお付き合いをしているわけで事情を知らない虎織からしたらこの状況は不貞行為と言っても差し支えない訳で


 「将鷹、どういう事か説明よろしく。私今すっごく怒ってるから簡潔に、わかりやすーく説明してね?」


 話は聞いてくれるらしい・・・虎織なりの温情だろうか


 「えっとだな、我輩が風呂入ったら琴葉ちゃんが居た」

 「そっかぁ?ねぇ、琴葉ちゃん」

 「な、何かしら!?」

 「鬼姫様としてこの状況はどう説明つける気かな?」


 笑顔ではあるけどその笑顔が貼り付けられたもので必死に平静を装おうとしているものなのはよくわかる


 「とりあえず、将鷹を吊し上げかしら・・・?」

 「なっ!それは酷くないか!?」

 「吊し上げ、ね。うん、そうしよっか」

 「待ってぇぇぇ!誤解だって!何も無かったし」

 「他の女と混浴の時点でアウトよ」


 琴葉ちゃんが平然とそう言う


 「琴葉ちゃんが我輩が風呂場に立ち入った時点でなんか言ってれば我輩だって気付くしそうしなかった時点で同罪では!?」


 汚い足の引っ張り合いである


 「あっはっはっはっは!」


 虎織が声を上げて笑う。やばい、その言葉が我輩の脳を支配する


 「将鷹、横見て横」


 虎織の言葉に怯えながらその言葉に従う。すると琴葉ちゃんがドッキリ成功のプラカードを掲げていた


 「なんだドッキリかよー!びっくりした・・・」

 「将鷹はなんでこんな簡単なドッキリに引っかかっちゃったのかしらね」

 「ちと考えすぎてたな」

 「気楽に行きましょう。気を張るのは敵襲の時だけでいいのよ」


 琴葉ちゃんが優しく諭す様に我輩に言葉をかけてくれる。結構前から何度も周りから言われて気をつけてるつもりなんだけどどうも直らないんだよな


 「はいよ・・・」

 「それはそうと。琴葉ちゃんは後で正座でお説教ね!」

 「なんでよ!?」

 「嫉妬心!」

 「ド直球ね!」


 虎織と琴葉ちゃんは仲良く風呂場を後にした。我輩はもう少し湯船でゆっくりしてから出ることにしよう。

 湯船の湯は冷えることないし・・・

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