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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
短編過去録「風雪の月」

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第13幕

「ふぁぁぁ・・・」


朝ベッドから起き上がり我輩は背筋を伸ばす。頭が冴えてきた辺りでするはずのない誰かの気配が家にある事に気がついた。母上はここ2週間程他の市に仕事で出かけているはずだ。ならば誰だろうか?自室の戸を音を立てずに開き気配のする台所へと足を運ぶとそこには灰色の綺麗な髪を靡かせながらフライパンを振るう後ろ姿があった。その後ろ姿を我輩は知っている。虎織だ。でもなんで虎織が家に?

いやまぁ普通に居ることの方が多い訳だけどあんな酷いこと言ってしまって2日ほど家に来なかったからもう嫌われたかと思ってたけど・・・

実際嫌われているのかもしれないが・・・今は何か不都合があって家の台所を使っているだけかもしれない・・・

嫌われてたらマジでショックだな・・・とはいえ一応挨拶はしておくべきだよな・・・?


「お、おはよう」


恐る恐る虎織に声をかける。ほんの数秒の無音。その間に虎織は手際よくフライパンをコンロへと置き、火を止め、こちらにくるりと向く


「おはよう将鷹!台所勝手に借りてるよー」


満面の笑みでおはようと返してくれた。さっきの無言の状態でそのまま台所を出ていってしまったらどうしようか、そんな考えは即座に本人の笑顔に否定された


「虎織、その・・・」


謝ろうとして口ごもった瞬間虎織が口を開く


「今はそういうの無しにして朝ごはん食べよ?フレンチトースト作ってるからさ」

「あぁ・・・」

「飲み物は珈琲でいいよね?もう少しでできるからそのまま座っててよ」

「うん」


虎織の言葉に甘え我輩は自らの席に着き静かに待つ。フライパンでパンを焼く音と虎織の鼻歌だけが響く


「でーきたっと!」


虎織はそういうと笑顔で皿に盛った綺麗な色に焼かれた美味しそうなフレンチトーストと我輩のお気に入りのマグカップに淹れた珈琲を我輩の前に置いてくれる


「ありがとう」

「うん。どういたしまして。じゃあ食べよっか」

「いただきます」


フレンチトーストを1口食べると甘い!甘すぎないかこれ!?不味くはないけど甘い!


「あっま・・・」


作った本人すらも苦い顔をするほどに甘い。でも


「ハッハッハッ!たまにはそういう事もあるって!」


我輩を笑顔にするには十分過ぎたみたいだ。気づけば笑っていた。虎織は珈琲を口に含み後悔の念を口にする


「ブラックにしとけば良かったなぁ」

「だな。まぁこれはこれで結構好きかも」


フレンチトーストを口にしてから我輩は言う。食べていくとなんだか癖になる甘さというか不思議なものだ


「そう?うーん。無理して食べてない?」

「してないしてない。微妙ならこんなに早くは減らないよ」

「それもそっか」


談笑しながらの朝食を終え、我輩は席を立ち虎織に向かって土下座した。我ながらこの切り替えはねぇわと思いながらも謝らなければ気が済まない


「酷いこと言ってごめん!」

「うぇっ!?いきなり過ぎない!?」

「どうしても謝らないと気が済まないんだ!本当にごめん!煮るなり焼くなりしてくれ!」

「あれは将鷹が言いたくて言った訳じゃないんだよね?」

「そうなんだけどさ・・・」

「なら別に気にしない・・・とは言えないから今日一緒にどこかいこう?それで許す、でいいかな?」

「それで虎織がいいなら・・・」


こうして我輩達は華姫を歩いて遊ぶ事になった。歩いて何気ない会話をしているうちに気づけば我輩と虎織の距離はいつもの距離に戻っていた。そして夕方ふとした拍子に路地裏に心惹かれ足を止めてしまった


「どうしたの?」

「いや、なんかちょっとそこの路地が気になって・・・」

「行ってみる・・・?」

「いやでも危ないかもしれないじゃん?変なのに絡まれるかもだし・・・」

「でも気になるんだよね。私達2人なら大丈夫だよ」

「そうか、じゃあ行ってみよう!」


路地裏に足を踏み入れ少し進むといきなり風景が変わった。薄暗い壁だけだったものが白い石が敷き詰められ竹が生い茂った風景へと変わり2人して立ち止まってしまった


「綺麗・・・!」

「これはすごいな!」


立ち止まり風景を見ていると聞きなれない声が聞こえてくる


「おや?君たち、ここは初めてみたいだね。どうぞ店の方へ入っておいで」


2人で顔を見合わせてからその声に従い奥に見える日本家屋へと踏み入れる。すると


「いらっしゃいませ」


と中性的な、声からして多分男性が出迎えてくれた。店内には魔術道具と普通の雑貨が混雑しており少しオシャレな雑貨店という感じだ


「あの、ここは?」

「ここは僕が店主をしているしがない雑貨店、東雲雑貨さ。初めてここに来れたって事は何か必要なものがある人という訳だね」

「必要なものがある人しか入れない様になってるんですか?」

「そうだよ。次からは普通に入れるけどね。ふーむ。君は・・・なるほど?君、ちょっとこっちへ来てくれるかい?あーそこのお嬢さんは店内見て回ってて。すぐに終わるから」


そういう店主の言葉に従い店内からは死角になる場所へとついて行ってしまった


「お代はいいからこの鉄、触って魔力を込めて見て」

「魔力を・・・?」

「君は魔術師だろう?」

「まぁ・・・はい」

「あと、あの子への思いも乗せるといいよ」


死角から顔をだし店内で商品を見て回る虎織の方を一瞬見た。まるで全部この店主に見透かされてるみたいだ


「それじゃあ・・・」


銀色の鉄、多分授業で習った人の思いと魔力で色の変わる鉄、気応鉄ってやつだと思う。それを持ち魔力と思いを込める。すると鉄は青へと染まっていく


「君、思ったよりあの子に対して冷めてるのかい?貸してごらん」


そう言って店主に鉄を渡す。冷めてるわけが無いんだけど鉄がそういう風に示したのだろう。そう思った瞬間店主が笑った


「驚いた。さっきの言葉は撤回だ。君のあの子への思いはどうやら異様に強いみたいだね」

「どういう事ですか・・・?」

「この青は青では無く蒼。漢字は草かむんりに倉の字の方だよ。本来の蒼は緑色なんだけど時代が移ろうにつれて青色みたいな認識で歪んでしまったみたいだね、僕はそれに合わせて蒼と呼んでいるよ。それで青は無関心な冷たい人によく現れるけどこの蒼は燃え盛る蒼炎、よっぽど彼女の事が好きなんだね。普通じゃありえないよコレは」


青、蒼とややこしいが文脈でなんとか分かる。そこまで虎織を好いているのだろう


「これをアクセサリーに加工してあの子へプレゼントするのはどうだろう?加工賃は払ってもらうけど今すぐじゃなくていい、少しづつ持ってきてくれればいいさ」

「髪留めとかってどれくらいの値段になります・・・?」


現金なヤツと思われるかもしれないがよく分からない人の提案にはいそうですかと乗る訳にもいかない。手持ちは今2000円、今すぐ払わなくてもいいとは言うが100万とかふっかけられたらたまったもんじゃない


「髪留めか・・・あの子がつけてる感じのでいいなら1000円くらいでいいかな?」

「じゃあお願いします」

「承りました。すぐに仕上がるからそこで待ってるといいよ」


そういって店主は鉄を研磨する機械と魔術を駆使して髪留めを作っていく。何がどうなってそうなるんだという感じだ・・・


「はい、どうぞ。あとは思いと共に魔術式を込めるといい。きっとあの子のお守りになるからね」


店主が渡してくれたのは5つの髪留め、まさか


「すっごい失礼なこと聞くんですけどこれ1つ1000円ですか・・・?」

「ハッハッハッ!面白いこと言うね、セットで1000円さ。簡単な作業かつ僕の提案だからね。本来ならお金を貰うのすらはばかられるけどまぁこういうお仕事だからどうしてもね?」

「な、なるほど・・・」

「あぁ、別に僕は君がケチくさいとか思ってないからね?むしろその確認は正しい。さぁ、魔術式を込めて」

「はい」

「よし、じゃあ渡しておいで。できれば店の外でね。君がまたここに来るのを待ってるよ。風咲将鷹君」


なんで名前を?そう聞こうと思ったがきっと名前すらも見透かされていたんだろう。そう思うことにした


「虎織、おまたせ」

「おかえり。何かあった?」

「まぁ色々と」

「そっか」

「それじゃあ店出ようか」

「うん」


店を出て竹林の付近で足を止める。それに合わせて虎織も足を止め、我輩を見る


「どうしたの?」

「その、虎織に渡したい物があるんだ」


そういって我輩は5つの髪留めを手のひらに広げる。すると虎織は3つだけとって自らのつけている髪留めを取り言う


「ありがとう。その2つは将鷹が着けてくれる?」

「あぁ・・・」


2つの髪留めを虎織のサラサラした髪へと着ける。灰色に蒼、いい感じだ。


「じゃあ帰ろっか」


表には出さない様にしているのだろうけど虎織は凄く嬉しそうだった。こうして何気ないけどかけがえのない日が幕を下ろした

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