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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
短編過去録「風雪の月」
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第3幕

「あなたのクラスは3組ね。まぁ変わった子も多いけどみんないい子達だからきっと馴染めるわ」


職員室の中、私の担任となる先生が生徒の名前が連なったリストを手に笑う。朗らかな笑顔に栗色の美しい髪、きっとこの先生は生徒たちに人気なのだろう。ひと目でそれがわかる程に人が良いという印象だ。そしてチラリと見えたリストには風咲将鷹と雪城虎織の名が記されていた


「ありがとうございます。それで少しお伺いしたいのですが雪城虎織さんってどういう子なんですか?職員室に案内してもらったんですけどその、私から話しかけていいのかよく分からなくて」

「あーあの子ね。あの子は人見知りだけど打ち解けた子にはとにかく明るいわ。それにコミュニケーションはしっかりとれるから大丈夫、って言っても打ち解けた子なんて風咲君しか居ないのよねぇ・・・」

「その風咲君は誰にでも優しいんですか?」

「んー、そうねぇ。優しいと言えば優しいんだけど雪城さん以外に興味が無い、と言うべきかしら。他の子達にも優しさはあるけど助けるだけ助けてそのまま放置って感じで他の子達とは自分からは関わらないと言うべきかしらねぇ・・・」

「変わってるんですね」

「そうねぇ。変わり者同士惹かれあってるのかもしれないわねぇ。そんな2人に興味を持つ貴方も変わり者かしら?なんてねぇ冗談よ」


先生は目を細くして笑うと名前の書かれたリストを私に手渡す。それを受け取ると先生は笑う


「名前、あった方が覚えやすいでしょう?」

「ありがとうございます。先生はいいんですか?」

「いいのよ私は。だいたいの子の名前と顔は解るから」


その後は他愛もない話をしてから先生と一緒に教室まで向かい廊下で待機する事になった。そして先生の声で私は教室へと足を踏み入れた途端何かがこちらに飛んでくる。その飛来物はただの文房具のコンパス、投げて来たのは多分後ろの席の男の子。見覚えのない顔だしニヤリと笑っている顔を見ればただのイタズラ感覚でコンパスを投げて来たんだと思う。あまりに唐突な事だったから私も反応が出来なかった。反射的に目を瞑って身を固めてしまう。普段なら飛び退くなり掴んだりできるはずなのに・・・


「文房具は投げるもんじゃないだろ。それに随分と物騒なヤツだし」


その言葉と共に鉄製の何かがぶつかる音が響く。身体には何も当たっていない、恐る恐る目を開けると先生が私を守るように前へと立ち、鈍く光る物を持った風咲君が自らの席から動かずにコンパスを投げたと思われる男の子の方を見ている


「手が滑っただけだっての。文句あるか?」

「あぁ、有るね。あの飛び方は故意に投げた飛び方だからな。それにそこの転校生を狙わないと前の取り巻きに当たるだろう?」

「決めつけは良くねぇよなぁ?魔術師にもなれない風咲君よぉ」

「まぁそうだな、我輩が口出しする様な事でも無い」


その言葉と共に風咲君の臨戦態勢が崩される。手に持った鈍く光るただの鋏をくるりと回してから机の中へと仕舞う。そして私の前に立っていた先生が口を開く


「湖陽崎君、職員室に来なさい」


さっきまでの柔らかい声はどこへやら凍り付く様な冷たく刺す様な声色でコンパスを投げた男の子へと告げる


「なんで行かなきゃなんねぇんだよ。ただ手が滑っただけじゃねぇかよー。それとも先生も俺の言ってる事が信用できねぇっての?」

「話は職員室で聞く、そう言っているんですよ」

「やだね」


男の子がそう言って言葉を続けようとした瞬間、彼の頬を掠めそうな程近くを何かが飛ぶ。そして後ろの本棚に何かが突き刺さる


「おっと、悪いな。手が滑った、返そうと思って投げたんだけどなぁ」


風咲君は笑いながらそう言う。先生は言葉も出ないと言う風に呆れ顔を覆う


「てめぇわざとだろうがよ!」

「いやいや、ほんとに手が滑ったんだって」

「んなもん嘘だろ!表出やがれ!二度とそんな真似できねぇ様に叩きのめしてやる・・・!」

「はいはい。そんならハンデくれよ。お前は魔術使えるんだろ?ならフェアに木刀の1本でも魔術の使えないこの哀れな風咲に使わせてくれよ」


風咲君の煽りに湖陽崎君だったっけ?は「上等だ!そんなもんでお前程度が俺に勝てる訳ねぇからな!」と煽り返す


「先生、決闘、いいよな?」


その言葉に教室がザワつく。決闘?何それ?ただの喧嘩だよね?


「はぁ・・・好きにして頂戴・・・」

「ありがと。賭けるもんはプライド、それでいいだろ?」

「いいや、そんなもんじゃ足りねぇな!負けた方は勝った方の奴隷になる、受けられるよなぁ!」

「いいねぇ、面白い。ルールは魔術の行使有りで魔術の使えない我輩は木刀の使用許可、勝負はどちからが力尽きて倒れるまで、よろしい?」

「いいぜ」


活き活きとした風咲君を横目に雪城さんは、はぁっ・・・っと大きなため息を零した。苦労が絶えない感じなのかな・・・

2人が教室を出るのを見送ると他の皆がぞろぞろと教室を出ていく。ある者はどちらが勝つか、ある者は馬鹿らしいなどと言いながら足速にどこかへ向かう。

残ったのは状況の飲み込めない私と雪城さんだけだった


「あの、雪城さん。決闘ってなに?」

「え、えっと、その、この学校で喧嘩の代わりにやる事かな・・・?学校としては問題にならないから黙認してるみたいな・・・」

「そういうの小説とかでしか読んだ事ないんだけど・・・というか雪城さんはみんなに着いていかないの?」

「わ、私は周りに居ると将鷹の足でまといになっちゃうから屋上から見る」

「そうなんだ。ついていってもいい?」


雪城さんは無言で頷くと席を立ち教室を後にする。私もそれについていって屋上へと足を踏み入れる。

グラウンドには観客たちがひしめきあいガヤガヤとしている。きっとあそこが決闘の会場になるんだろう

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