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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
短編過去録「風雪の月」

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プロローグ

「月奈、早くご飯食べないと遅刻するよ」

「はーい!」


お父さんの優しい声が響く。今日から私、吉音月奈は晴れて中学生!小学生の頃より自由に色んな所へ遊びに行けるし、もしかしたら昔見たあの子が今日から行く学校にいるかもしれない。そんな淡い期待を持ちながら朝ごはんの目玉焼きの乗ったトーストと牛乳を平らげる


「ご馳走様!それじゃあ行って来ます!」

「こらこら、嬉しいのは分かるけどあんまりはしゃぎすぎちゃダメだよ。車とかには気をつけて行くんだよ」

「お父さん心配しすぎだよー!大丈夫!安全第一で行くから!」

「そうかい?それならいいんだけど・・・お父さんと一緒に車で学校へ行ってもいいんだよ?」

「うーん、遠慮しとく!探してみたい人も居るし!」

「そっか、そうだね、月奈は彼に会ってまた話してみたいと言っていたもんね。でも、彼はきっと月奈の事を覚えていないだろうから初めましてからだよ」

「分かってる。だからこそだよ」

「ならいいか。行ってらっしゃい」

「いってきまーす!」


初めましてから、か・・・家を出て神社の石段をちょっと降りてからお父さんの言葉が胸へと突き刺さる。

そうだよね、そもそもであの時あの子の目に私は映ってなかったもん。他人が助かるなら自分の命なんてどうでもいいと言ってのけたあの苛烈なまでの自己犠牲、悪を罰する為なら悪になるという覚悟と矛盾の様な考え方、私は彼のそんな正義に憧れ、魅せられてしまった。どうしようもない片想いの様な何か。もう一度彼に会ってこの気持ちの正体を確かめてみたい、そんな感情だけが私を突き動かしている。

本来なら近くの中学校にでも入る予定だったけどお父さんに無理を言って初等部から高等部のエスカレーター式学校、華姫学園に中等部から編入という形で入る事になった。ここは魔術師や国守を育成するのに特化した学科、そういうのが有る。彼がここに居るのは確実だろう


「そろそろちゃんと歩いて行かないと早めに着けないよね」


期待に胸を膨らませ学校へとたどり着く。まだ他の子達は登校して来ていない静寂の中に微かな車のエンジン音だけが響く不思議な雰囲気に足を弾ませ敷地内へと入り辺りを散策する。

よくある石像や花壇にプランター。在り来りな風景、そこに異様が1つ。空を見上げた瞬間にソレは在った。黒い狐の様な面だけが屋上付近に浮いている。吊るされているにしては不自然で怪しいソレを目指し私は走る。校舎の中に入り階段を駆け上がる。12段を登り踊り場、反転する様な形で更に12段。これで1階分、確か校舎は3階建てのはず。屋上への階段を登切りドアを開ける。普通なら開いていないだろう屋上の扉はすんなりと開く


「まさか来るなんて思いませんでしたよ。普通なら逃げるか何かすると思ったんですけど・・・」


宙に浮いている面、近くで見てわかったけど多分龍が象られた物だ。その面から女性の声が響く


「貴方は一体何者?気配からして人でも幽霊でもなさそうだけど」

「ま、菊理媛の所の巫女ですし姿を見せても良いでしょう」


白く細い手が現れ面に手をかけ外す。するとそれと同時に気配がひとならざるものから人のものへと変わる。ゆらりと黒く長い髪を靡かせる眼鏡を掛けた巫女服の女性が目の前に現れ口を開く


「どうも、お初にお目にかかります。私は砂彦久那、十二所で巫女をやっています」

「同業者・・・?いや、違う!だって巫女である者があんな人じゃない気配になるはずない!」

「あーやっぱり子供であってもそこら辺は騙せませんか・・・名乗り直しますのでそんなに殺気立たないでください」


女性はコホンと咳払いをしてからまた口を開く


「我が名は少彦名命。薬と禁厭とその他諸々を司る神。本来なら貴様の様な人間に姿も名も晒す事はない、感謝するがいい」

「少彦名命様・・・!?」


前の華姫の土地神様が目の前に居る、私が今仕えている菊理媛様とは全く違う重圧。気迫も年季も格も違う・・・


「あっ、畏まらないでください。さっきのはただの定型文みたいなものなので。どうか私の事は少彦名命ではなく砂彦久那、ただの巫女として接してくださいね」

「あの・・・神様が何故ここに・・・?」

「今さっき少彦名命として扱わないでくださいって言ったばっかりじゃないですか・・・まぁいいです。高圧的な文言で名乗ってしまった私にも非がありますし。私はただ気に入った人間の様子を見に来ただけですよ。今日が中等部に上がる日らしいですから」


少彦名命様は禁厭の神様、ということはもしかして気に入った人間っていうのは・・・


「風咲将鷹君と雪城虎織ちゃんって言うんですけど、もし関わる事があったら優しくしてあげてくださいね」


やっぱりそうだ。やっと会える。私が憧れたあの正義の味方に


「おや?顔がにやけてますよ・・・?もしかして・・・いや、もしかしなくてもあの一件に関わってしまった子でしたか・・・はぁ・・・これは大変そうですね。彼には私が少彦名命ということは絶っ対!秘密ですからね!」

「は、はい・・・!」


この少し押しの強そうな神様との出会いが私たちの運命を大きく左右するなんてこの時は思ってもみなかった。なんて漫画みたいな事にはならないか。そんなことよりも会うの楽しみだなぁ・・・

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