第19幕壱 ヴァン・R・クロウズ
轟音と土煙の中俺とローズは人間モドキの群れへと突っ込みハルバードを大きく振る。
鈍く重い音と共に肉を切り、骨を砕く感触がハルバードから手に伝わる。
この感触は何度経験しても気持ちの悪いものだ。自らが人を殺めている、その事実を実感させられる。
人の業の成れの果て達は殺してやるのがせめてもの救いだと俺は考えているが、やはり今は化け物とはいえ元は人間と考えると少しだが躊躇いが出てくる。
「ヴァン、人間辞めてるヤツらなんだから気にせずヤるわよ!」
そう言いながらローズはクリスヴェクター片手に突き進む。
「そろそろ弾が切れるから前方の敵を薙ぎ払ってちょうだい!」
なかなか酷な事を言ってくれる。だが俺もこんな所で立ち止まる訳にはいかない。
華姫市の危機となれば全身全霊で汚れ仕事だろうがなんだろうがやってやる。そう決めている。
ハルバードを大きく振りかぶりスイングする。
勢いでもう一度スイングする。
人間モドキの身体の一部が宙を舞い黒い血飛沫が雨のように降り注ぐ。
「あーもうお気にの服が汚れたじゃない!もう少し加減しなさいよ!血なんてシミになったら取れないんだから!」
ローズはガシガシと俺の事を蹴る。ヒールがとても痛い。
そんなに気に入っているのなら着てくるなよ。と言いたいところだが俺も人のことは言えないから黙っておくことにした。
「痛い。ローズ痛い。ヒールがめちゃくちゃ痛い」
「痛くしてんのよ!優しく蹴るとかただのご褒美じゃない!あーもう!ヴァンにあたっても仕方ないわ!撃って、撃って、撃ちまくってやる・・・!」
完璧に傭兵時代の鬼教官モードになっている。
ヒヒヒと口角を上げ目を見開いて目の前の人間モドキ達に銃弾を叩き込んで居た。
倒れ朽ちたモノでもこちらに向かってくる亡者でも関係なしに、平等に、漏れなく、目の前の全てに撃ち込んでいく。
部下の失態があればヴェクター片手に平野や山間部、至る所でヴェクターを乱射していた。しかも部下達の前で。そして必ず最後にはこう言っていた
「次なにかしたらお前の目の前にワタシが居ると思え」
今回も例に漏れず言ってきた。しかも銃口を向けながら。
味方に銃口を向けるのはマジでやめて欲しい。マガジンは空なのかもしれないが弾を撃ちまくった銃口が触れれば火傷は免れられない。
「イエスマム!」
大きく返事をした。返事をしないと銃口で根性焼きというのが傭兵時代では通例なのだ。
ローズがよし。と言って振り向きながら銃を乱射し始めた。
まだ弾が入っていたようだ。返答を間違えればお陀仏だったか。
「ヴァン!ヴェクターのマガジン寄越しなさい!」
「もう撃ち切ったのか!?」
「文句あるの!?」
「いえ!何も!」
ローズに持っているというか持たされていたマガジンを全て渡す。
若干重かったから助かる。
これで全力で叩き潰せるというものだ。ハルバードを意味もなくクルクル回し1度振る。
「外への門まであと少し!一気に道を開いて門を死守するぞ!」
右へ左へハルバードを振り回し前進していく。手に伝わる鈍く気持ち悪い感覚に耐えながら地面を踏みしめる。
後ろからは銃が乱射される音と薬莢が落ちる小気味よい音だけが響く。たまに舌打ちが聞こえるが気にはしない。
「ローズ!城門前まで来たぞ!ここでこいつらを食い止める!」
城門付近には先程の群れとは対称的に静まり返る程の少なさだった。
しかし振り向けばこちらに向かってくる人間モドキの群れがある。
どれだけ倒してもキリが無いそう思える程だった。
「ヴェクターの弾が残り少ないからワタシは援護に回るわ。あと50発も無いと思うからそこまで期待しないでちょうだい」
「了解だ。幸い量産型みたいなヤツらだからな、援護ぐらいでちょうどいい」
振りかぶり薙ぎ払う。
振りかぶり薙ぎ払う・・・
幾度繰り返しただろうか。両脇に朽ちた死体の山が出来上がる程には払い除けてきた。
「まだ群がって来るぞこいつら!」
「本当にキリが無いわね!」
ローズはヴェクターの弾を使い切った為奥の手である魔術を使っている。
ローズの魔術は植物を操る魔術だ。地面から植物の蔓を生やしそれを束ね神話の怪物、クラーケンの足の様に目の前の人間モドキ達を潰し、引き裂き、貫いていく。正直もうこいつだけで事足りる気がしてきたが気にせずハルバードを振るい続ける。
疲れてきたのか蔓は俺の目の前に有る死体達を脇へと寄せて行くだけとなった。
「疲れたなら下がっていいぞ」
「部下が頑張ってんだから下がれるわけないでしょ」
「それは昔の話だろうが。今は俺の方が偉いっての」
「なら店長に任せて休憩しようかしらね」
「タバコは吸うなよ。ここは禁煙だからな」
「結構前に辞めたわよ」
「そうだったな」
おしゃべりをしていても手は動かせる。まだ余裕はある証拠だ。まだまだ踏ん張ってやるさ。




