第42幕 怪鳥
「これで一件落着だね」
「・・・っ!まだだ!まだなんか来る!」
そうだなと言いかけた瞬間、ゾクリと背筋に恐怖にも似た悪寒が走り抜ける。何か計り知れないモノがすぐ近くに来ている、そんな感覚と共に血溜まりの城ヶ崎が笑いながら口を開く
「さすがは花影の息子・・・!危機察知能力の高さは評価に値する。今後我らの計画を邪魔するには十分な性能か。しかしお前達如きでは俺の溜め込んできた怨念を食らった最高傑作は倒せはしない!」
頭に血が上る。アレの息子という言葉だけで怒髪天を衝く怒りを覚え、警戒で強ばった身体は自然と城ヶ崎の身体に刃を向け振り下ろそうとしていた
「ちょっと待った」
鉄と鉄がぶつかる音と共に眼前に火花が散る
「虎織・・・」
振り下ろした刃は虎織の鉄板の様な刀によって軽々と止められた。冷静さを欠いて凶刃と成るのは愚かしく恥ずかしい。それに人を殺せない癖に殺そうとするなんて滑稽過ぎる
「将鷹の刃は人を助ける為の刃なんだからこんな奴に血で汚しちゃダメだよ。それに今はコイツよりもこれから来る脅威、だよ」
虎織はにこりと笑顔を作り刀を下ろす
「そうだな。ごめん、冷静さが足りなかった。ありがとな目が覚めた!」
自らの頬を叩き気合いを入れ、思考をリセットする
「なら私が殺してあげようか?このままコイツを放置っていうのはちょっとね」
月奈が転がっている城ヶ崎に神殺しの刃を向け言う
「いや、殺すのはやめとこう。色々聞かないとだしそれに京獄送りにした方がいいだろう」
「一気にあまちゃんモードになっちゃったね。まぁそれが将鷹の良さなんだけどさぁ・・・殺す時は言ってね、何時でも私が将鷹の代わりに殺してあげるから」
「怖いこと言うなよ・・・とりあえずこいつは今は口を閉めておいて貰うか」
袖から通常の鎖と白鎖を出して白鎖に解けない様鎖を結んで貰う。止血も兼ねて強めに縛り顎を動かせない様に頭に二周ほど鎖を巻き付ける。これでもう口を開くことは出来ないだろう。白鎖は袖に戻ること無く我輩の負傷した腕に巻き付く。それと同時に右手に握る白虎を正眼の様に構え背筋を強ばらせる恐怖と対峙する
「何がどこから来るかわからないってのは結構怖いな・・・」
「だね・・・」
神経を研ぎ澄まし、風の音を聞く。そこに紛れ込んでいるのは鳥の羽音。当然それも自然の一部だし聞こえてくるだろう、だがこの羽音は明らかに大きい
「社の方向か!」
振り返ると社の屋根に紫に黒を混ぜた様な色の怪鳥が降り立つ。羽から放たれる風圧に社の瓦が吹き飛ばされこちらへ飛んで来る。その瓦礫に紛れ怪鳥は長い舌を飛ばし城ヶ崎を絡め取り丸呑みにしてしまった
「空飛んでるのが厄介だね。それにアレ、黒影と何か混ぜた存在みたいだし」
月奈が怪鳥の正体を推察しながら神殺しの槍をクルクルと回してから握り直す。瞬間、月奈の槍が多節棍の様に中身の鎖を晒しながら怪鳥目掛け放たれる。多節棍の様な繋ぎ目は無いはずの神殺しの槍からそんな驚きのギミックが披露され我輩は驚愕した。対人戦なら確実に相対する者を殺せるだろう技に怖気さえ感じる
「将鷹、ボーッとしてないで倒しに行くよ!」
「あ、あぁ」
1歩前へと踏み出した瞬間怪鳥は甲高い不快な叫びを挙げる。身体が重い・・・!重力が何倍にもなったかのような重み、気合いで立ちはしているが距離を詰める事が難しい・・・月奈の放った神殺しも地面へと落とされめり込んでいる
「ちくしょう・・・どうやって倒せってんだよ・・・」
「らしくねェなァ、お前はこういう危機的状況を楽しめるヤツだと思ってたんだが俺の検討違いか?」
重い首を動かし後ろを見る。誰が来たかなんて見る必要もないのだがな。
腹に血の滲んだ包帯を巻き真っ黒な刀身の日本刀を肩に乗せ石段を上がってきたのは剣薙近衛だった




