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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第3章 華姫騒乱編(下)
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第37幕 近衛と咲弥

 「しぶといですね・・・いい加減死んでください!」


 咲弥の蹴りが胴体の外装を掠めながら通り抜ける。掠めていく分にはまだいいが直撃となるとファヴの装甲であってもそのうち貫かれるだろう。通り抜けた咲弥の脚を掴み放り投げ、その影を追う


 「わりぃがお前には負けらんねェんだわ」


 この戦いは兄として、男として引けない戦いだ。それにここで死んだら彌守が独りになる、それは避けなければならない。

 咲弥に追いつき体勢を崩したまま吹き飛ぶ咲弥へと追撃を加える。加減はするが装甲の無い鳩尾付近への掌底だ、下手すると死ぬか・・・

 そんな甘い事を考えていると掌底を食らわせる前にワルキューレが動き出す。

 まるで使用者の身体を気にすることなく自らの意思で動いたかの様に俺の攻撃を払い除け、その衝撃を利用しながらさながらイルカの様に宙を舞う


 「道具に使われてる様じゃ俺には勝てねェぞ!」

 「モノは使い様とはよく言うでしょう!」


 咲弥の足は空を蹴り勢いよくこちらへと向かってくる。直線的な突貫、ここで刀を振り下ろせば確実に咲弥を殺せるが避けられれば隙が生じる。それに咲弥が避けなかった場合殺してしまう、加減しようが何しようが真正面からスパッと斬られてしまえば人間は死ぬ。ワルキューレを突き出しながら突貫してくれればまだ良かったんだがな。それに久しぶりの互角の相手だ、このまま戦いを終わらせるのは惜しい、その相手が実の妹であっても。

 そんな思考の末俺の取った行動は防御だった。下手すればファヴの装甲ごと殺られる可能性もある一手だが相手は必ずしも最善手を打ってくる訳では無い。その僅かな可能性に身を任せるのもたまには面白いだろう


 「真正面からとは随分と男らしいですが、防御なんてらしくありませんね!」


 また空を蹴り咲弥は舞い上がる。それを目で追うとギラギラと燃える太陽の光が視界を遮り咲弥の姿を消し去り風を切る音だけが頼りとなるがその音さえ有れば十分だ。

 頭の少し上で鋭く凄まじい勢いで空気が縦に裂ける


 「こういう命懸けの戦いの方が燃えるだろうがよ」


 篭手で咲弥の踵落としを受け止める。重く鋭い、それに恐怖や恨み、様々な負の感情がこの一撃には込められている。そんな一撃だ、手が痺れるなんて生易しい話ではない。篭手にヒビが入り次の一撃には耐えられない状態だ


 「せっかくの鎧もこれでは可哀想です。きっちりお兄様を殺した後に私がいい様に使ってあげます。なんせお兄様の遺品ですもの!」


 軽く篭手を蹴り咲弥は下がろうとするがさっきの一撃に力を込め過ぎたのかさっきよりも動きが遅い


 「勝手に殺すんじゃねェよ・・・!」


 遠ざかる足を掴みそのまま地面へと叩きつける。土煙が上がる中、影はふらりと立ち上がり口元拭い言葉を紡ぐ


 「はぁ・・・本当にお兄様は容赦がないですね・・・さっきのは痛かったですよ」

 「なら降参するか?」

 「いいえ、お兄様にはまだまだ私の憂さ晴らしの相手になっていただきます」


 土煙が目の前で風にかき消され咲弥が目の前に現れる。さっきの遅さは何処へやらキレのある動きに戻り足払いを狙いに来たか。そんなもんは簡単に避けられる。軽々と咲弥の頭上を飛び越えると空振りした足のせいか土煙が巻き上がり視界を悪くする。今回はさっきの比ではない量が舞い上がりファヴがなければ視界を奪われていたに違いない


 「避けましたね?」


 土煙の中またも咲弥の蹴りが迫る。今回は中段の蹴りか


 「だからなんだってンだよ」


 少し後ろに下がり紙一重で蹴りを避ける。正確には避けたと思っていたが乗せられていただけだった。さっきのはフェイント、とは言い難いがワルキューレが軌道修正させたのか振り抜いた蹴りからもう一段蹴りが繰り出され先日咲弥に付けられた傷口を抉られる。まさかファヴの装甲を一発でぶち抜いてくるとは思わなかった。激痛に眉を顰めるが鎧のおかげで咲弥には表情は見えていないだろう


 「私の気持ちも知らないで・・・」

 「あぁ・・・?」


 痛みを悟られない様、精一杯取り繕ってコレってのが我ながら情けない


 「お兄様は何故あの被検体を連れ出す時に私にも声をかけてくれなかったんですか!?」

 「嫉妬か?」

 「えぇ・・・そうですよ!たった一人、唯一の肉親を何処の馬の骨とも知らないただの被検体の子供に盗られた!こんな気持ちお兄様には分からないでしょう!?私はただお兄様と同じ会社でたまに顔を合わせてすれ違うだけでも良かったのに・・・!なのに・・・!何故一言も無く消えたんですか・・・」


 至極真っ当な事を真正面から言われると返答に困る・・・だが1つだけ否定するべき所がある


 「アイツはモルモットなんかじゃねェ!人間だろうが!確かお前には一言でもかけて出ていくべきだった・・・!だがアイツを、彌守を平気でただのモルモット扱いする奴は信用できねェンだよ!」

 「っ・・・!それは・・・」


 動揺したような声を聞き、土煙の中微かに見える咲弥の影目掛け踏み込み、握り締めた黒鐡の刀身を自分に向け刀の峰でワルキューレに一撃を撃ち込む。鉄と鉄がぶつかる感覚、微かに痺れる腕、痛みを増す傷口。譲れない信念を胸に更に刀を振るい吹き飛ばす。

 同意の上で殺し合ったり自分の信念の元殺すってのは別に構いやしねェ。だが、なんの罪もない、ただの子供を拷問して実験して命を弄ぶってのが気に食わねェ!

 それに薬を打ち込んでこうやって妹を戦わせに来ているアイツも許せねェ!

 口には出せない想いを心の中で噛み殺し吹き飛んだ咲弥を追いかけると雪城と城ヶ崎が対峙している。城ヶ崎の周りには紫電の球体がぐるぐると回り数を増やし続け、雪城が打開策を探っている様だ


 「邪魔だぁ!」


 城ヶ崎の言葉と共に雷球が咲弥と俺目掛けて飛んでくる。速度はそこまでだが咲弥は避ける気配がない


 「わりぃファヴ、無茶させるぞ」


 咲弥目掛けて飛び込み雷球をこの身で受ける。バチバチと音を立てながらファヴの装甲が焦げていく。銀の綺麗な色は見る影もなく黒く焦げ付いてしまい更にこれ以上は身体に纏う形での顕現を維持出来ない


 「お兄様・・・なんで・・・?」

 「俺は咲弥の兄ちゃんでたった一人の家族、だからな」

 「にぃ様・・・」


 咲弥の頬に一筋の涙が流れる


 「鬱陶しい茶番はそこまでだ。被検体2号、さっさとその男を始末しろ!」

 「いや・・・いや!にぃ様と戦うなんてもう・・・!」

 「黙れ、これは命令だ!ワルキューレ、命令だ!投薬し・・・」


 城ヶ崎の言葉が遮られると同時に回っていた雷球が次々と音を立てて消えていく


 「雪城式風鎖。時間稼ぎありがとう剣薙さん。これならアレ全部処理できるしアイツの動きも止められる・・・!」


 どうやら目には見えないが風の鎖が城ヶ崎を捕え回りにある雷球に触れては繋ぎ目を繋ぎ直し封じている様だ。

 これで城ヶ崎を始末してしまえばいい、そう思った瞬間に機械の駆動音と共に咲弥が項垂れ、まるで操り人形の様に動き始める。最悪のパターンだ。殺さずにワルキューレを壊せるか?全力をぶつければもしくは・・・だがそうなると咲弥まで斬り殺す可能性もある。

 悩んでいる暇なんてない。立ち上がり黒鐡を両手で強く握り締め構え覚悟を決める。そんな時だった、背中にトンと何かが当たる。その正体は赤黒い甲冑に追い詰められ後退してきた風咲の背中だったのだ

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