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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第3章 華姫騒乱編(下)
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第35幕 兄妹

 聳え建つ純白の城、それを目指し俺は走る。橋の奥に有る大きな門は口を開き俺を歓迎していた。律儀に橋なんて渡ってやる必要なんてない。今は彌守も居ない、好きに身体を動かせるのは久しぶりか。・・・しかし下手に動き過ぎると妹、咲弥に付けられた傷が開くというのを考慮すると橋の周りの池を飛び越えるのはやめておくか。素直に橋を渡り門を潜り道なりに進むと直ぐに広場と笑える様なモノが目に飛び込む


 「なんだよこれ、いつの時代だよ」


 思わず声を出してしまうほどに自然で、だが今の時代ではただの真似事、ハリボテだ。

 今時陣幕なんてモン用意するなんて随分といい趣味してやがる


 「にぃ様・・・?にぃ様ぁ!」


 声を出してしまったのが良くなかったか。咲弥が陣幕を捲り顔を出し俺の姿を確認した瞬間、昔見た以来の無邪気な笑顔で俺へと向かってくる。殺気は一切ない・・・それにあの武装、ワルキューレが装備されていないのは俺の油断を誘う為か?


 「止まれ」

 「・・・にぃ様?」


 俺の指示通りに咲弥は小首を傾げながら脚を止める。おかしい。普通ここで止まるか?いや、普通なら止まらずワルキューレを出力して俺を殺しにくるだろう。あの時戦った咲弥はそんなあまっちょろい奴じゃ無いはずだ。

 警戒と共に黒鐡を引き抜くと咲弥は怯えた様な表情で言葉を紡ぐ


 「にぃ様・・・怖い・・・」


 その時だった。白い陣幕から黒い煙の様な物が咲弥の後ろに纏わりつき人の形を作り始める。

 黒い煙は咲弥の首に指を這わせ、首を絞める様な動作を見せる。俺は無謀にも既に走り出していた、家族を失うのはもう懲り懲りだ。親父とお袋が命と引き換えに護った妹をアルカンスィエルに置き去りにした俺がこういうのも可笑しく身勝手な話なのだが・・・風咲に変に影響されちまったか?前までならきっとこんな甘い事は考えなかっただろう


 「いや・・・!助けてにぃ様!たすけ・・・」

 「おやおや、いけませんねぇ。せっかくせっかく逢えた妹に刃を向けようとするなど。実に実に、悲劇的で喜劇的ではありませんか!ではでは、その願望に応えましょう!」


 黒い煙、口振りからすると城ヶ崎の手には赤黒い液体の入った注射器が握られ、それを勢いよく咲弥の首筋に突き立てる


 「いやぁぁぁぁぁ!痛い・・・!痛いよにぃ様!助けて・・・!」


 咲弥が苦痛に悶え涙を流しながら叫ぶ。助けるには距離が有りすぎた、あそこで俺が止まれと言っていなかったらと後悔しても現状過去には戻れない。城ヶ崎は咲弥の首筋に刺さった注射器をぐるりと回し咲弥の悲鳴を楽しむ様にしてから中身の液体を流し込む。それと同時に咲弥の悲鳴は電源を落としたラジオの様に途切れ、身体は糸の切れた操り人形の様にその場に脱力しペタリと座り込む


 「テメェ!咲弥に何しやがった!」

 「いえいえ、大したことではありませんよ。ただただ凶暴になるお薬を投与してあげただけですよ。さぁさぁ起きなさい」


 城ヶ崎が咲弥に蹴りを入れると顔を下げたままゆらりと立ち上がり顔を上げるとその表情と目は狂気に染まった人殺しという表現がピッタリだった


 「さぁ殺し愛ましょう、お兄様?」


 咲弥の脚には銀の大きな刃を携えた兵装、ワルキューレが装備され何時でも襲いかかれるという状態か。さっき城ヶ崎は凶暴になる薬を投与したとか言ってやがったな。それと昔の咲弥の性格とさっきの態度を考慮すると今の咲弥は交戦用の人格が別で出来ていると見るのが自然だろうか。断言は出来ないが可能性が最も高い仮説はコレだ


 「はぁ・・・なるほど・・・そういう事かよ」

 「ため息をつくと幸せが逃げてしまいますよ!」


 咲弥は脚を振り上げワルキューレの踵に付いた金色の刃で俺を攻撃してくるが随分と遅い。黒鐡を片手で振るいその刃を跳ね除ける


 「ドーピングしようがお前じゃ俺に勝てねェよ」


 あの時は油断したから負けた。なんて言う気はない。負けは負けだ。だが負ける事で学べる事も多い


 「ではギアを上げて行きましょうか。ファーヴニルを纏う位の時間は差し上げますよ」

 「今回はそうさせて貰う。後悔すんなよ?来い!ファーヴニル!」


 名を呼んだ瞬間俺の腕に銀の篭手が現れる。そして脚、胴体、頭と銀色の鎧を身に包む。

 フル装備なんて初めてファヴを纏ったあの日以来か。黒鐡を握りしめ咲弥を見る


 「来いよ咲弥、兄ちゃんが遊んで殺るよ」

 「ふふっ、それは楽しみですね!」


 ワルキューレ、まだ俺の知らない機能が有るだろう。油断は禁物、全力で殺しにかかるしかない

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