第34幕 勘違い?
さっきまでピクリとも動かなかった人形が一斉に動き始める。動き方はそれぞれで鉈を地面に叩きつけるように振るうモノや我輩達がいない見当違いな方向へと走るモノ。まるでさっきまで動きを抑制されていて止まる前にやろうとしたことを実行した、そういう風に見える
「やはりこの程度では引きちぎられてしまうか」
辰希さんの言葉を考えるに鉄線の様な糸か何かか。しかしその程度であれほどのモノの動きを止められるかは分からない。まぁ今は味方だし獲物が分からなくても・・・いやダメだ。もし鉄線とか糸の場合下手に突っ込むと死ぬ
「将鷹、なにか見える?」
虎織がひっそりと我輩に問う。虎織もどうやら我輩と同じ考えらしい
「いや、まだ見えてない」
「目視出来ない程の糸かそれとも何か他のものか・・・分からないとどうしようも無いよね」
「そうなんだよな・・・ちょっと時間稼ぎよろしく」
「うん」
「この眼は彼方を見つめる為の物、この眼は刹那を捉える為の物」
目を閉じてから眼に魔術式で強化を施す。これで何か見えればいいが・・・そう思いながら目を開く。
人形の関節には無数の切れた糸、この眼で光が当てれば見える、それぐらい細い糸だ
「気を付けてくれ、やっぱ糸だ」
「それが分かれば十分だ、よっと!」
虎織は鉄板の様な大剣を遠心力やら色んなテクニックを応用して重さを軽減しながら、かつ刀身に威力を乗せつつ振るう
「あまり動き回ってくれるなよ!」
辰希さんの声が聴こえた瞬間嫌な予感がした。風を切る音は聞こえないが確実に糸が来ている。振り返り確認するともう目と鼻の先ほどの距離に糸が襲いかかって来ていたがまだ避けられる範囲だ。頭を下げ糸を躱すと獲物を捉え損ねたソレは人形達に八つ当たりするかの様に火花を散らし引き裂いた
「おっと・・・危ない。殺す気ですか?」
「避けられるとは思って無かったな」
「ここで喧嘩したくないんですけどねぇ」
左手に握った白虎の切っ先を向け明確な敵意を示す。ついでに右手で威嚇も兼ねてRSHの引き金を引き横にいる人形の右胸を正確に撃ち抜き人形を潰しておく
「そうか、なら日々喜の為に死ね」
「なんでそこで日々喜さん!?」
「虫は駆除しねぇとなぁ!」
さっきの攻撃で1本じゃ殺せないと考えたのだろう。4本の糸が襲いかかってくる。
何かがおかしい・・・まさかとは思うけど我輩日々喜さんに好かれてるとかそういう風に見られてる!?
いやまぁ日々喜さんに好かれては・・・ないな!むしろ嫌われてるまでは行かないけど好かれてないんじゃないかなとは思う場面のが多々ある!
日々喜さんもよく考えれば変な理由でぶん殴って来るような人だな!うん!この2人育ての親が同じだからよく似てるな!
「狐火」
言葉と共に青い火がパチパチと音をたてながら我輩の周りを舞い始める。魔術とは勝手がちがうから咄嗟に使えないのは難点だけど今の眼なら相手の始動の時点で切り替えが出来る
「炎尾!」
力強く声を発すると周りを舞っていただけの炎が尾骨付近を起点に一尾の青い尻尾を形成する。これはあの狐面の我輩を真似てやってみたが中々使い勝手が良さそうだ。まぁ最大の弱点としてこれの発動中は維持と動かすのに神経使うから今使ってる眼の強化魔術以外が使えない所なんだけど。
腕を振るう感覚で尻尾を振るうと周囲に青い火の粉を撒き散らしながら糸を燃やし切る。思った以上に便利だこれ!と感動しながら近づいてくる人形の腹を尻尾で貫く。長さは多少変えられるけどあんまり延ばすと密度が少なくなって突破力が無くなるな・・・
「チッ!変な技使いやがって!なんでこんなやつなんだ・・・」
「なんか勘違いしてるっぽいから言っときますけど我輩は虎織一筋ですからね!」
「は?じゃあ遊びで日々喜のあられもない姿を見たって事か!?」
「はぁ!?そんな姿・・・」
思い当たる節がある!メイド服だ!先代と戦った時のアレだ!
「親父が言ってたぞ!日々喜の恥ずかしい姿をお前が見たとな!」
「久野宮さんんんんん!何変なこと吹き込んでんですか!日々喜さん、変な誤解してるから何とかしてぇ!」
叫ぶと同時だった。日々喜さんの飛び膝蹴りが辰希さんの頬にヒットした
「兄様、いい加減にしてください」
「この男!日々喜の事は遊びだって言ってたんだぞ!」
「はぁ・・・勘違いしているのでその勘違いを正しておきましょう。私は風咲君の事そんなに好きじゃありません。ダメダメなヘタレで女の子とばかりどこかへ出かけて助ける人はだいたい女の子、そんな彼ですが私からしたら大切な仲間です」
「言い分酷くないですか?」
女誑しみたいに言われてるんだけど・・・?
日々喜さんがナイフを振るうと近くに居た人形達の首がボロボロと落ちる。死神の寿命狩りだろうか
「最低だな君は」
「誤解です!というか誤解を解いて誤解を生むのはやめていただきたい!」
「将鷹ーそろそろ助けて欲しいんだけど!」
「あー!ごめん!今手伝いに行く!」
虎織が人形の鉈を鉄板で受け止め身動きが取れない様になっているのを見て吐き捨てる様に言葉を紡ぐ
「邪魔したら殺す」
まぁ殺せないんだけど。我輩は人形の肩へと降り立ち隙間から心臓部へ刀を突き立て機能を停止させる。
肩に乗ってるついでだ、見渡すにはちょうどいい。鉄がぶつかる音と共にガクりと体勢を崩す人形、やっさんと若大将のコンビか。そして神社方面から桜花さん、ヴァンさん、ヴァンさんに抱えられたローズさんが見えた。いい増援が来てくれていた。それとは逆方向に嫌な物も来ている。なんかよく分からん6足歩行の虫のようなロボだ。サイズはここの人形の倍近くはあるか。めんどくさいな本当に・・・!
「禍築!解析とハッキングまだか!?」
「今全力でやってます!独自言語みたいなのが混じってるんでもう少し時間をください!」
「わかった!」
今の状況であんまり消耗したくないんだけどなぁ・・・
仕方ないけどやるしかない!できるだけ早く片付けて剣薙と合流しないと・・・




