第31幕 開戦
「そういえば報告で首無しが居るって言ってたけど人間モドキなのか・・・?」
虎織と並走しながらふと疑問を投げかける。虎織は速度を落とすこと無く考える様に顎に指を当て考え口を開き疑問を第三者へとパスする
「どうだろう?そこんとこどうなの辻井君」
「こちらで認識出来ている姿は頭のない西洋甲冑、それだけですね」
さも当然の様に虎織の端末から禍築の声が響いた。多分だが我輩のインカムから声を拾って何かしらのプログラムで強制的に端末の通話アプリを開いたのだろう
「西洋甲冑かぁ・・・丸っこくて斬りにくい相手だな・・・ちなみに上からそいつの中身は確認出来たりは?」
「やってみましたけど中身は深淵、真っ暗で見えないそんな感じです」
「んー困ったな。正体不明となるとなぁ・・・そういえば禍築」
「なんすか先輩」
「機械人形のサンプルデータ欲しくないのか?」
「はっはっはっ、何を言い出すかと思えば・・・欲しいに決まってるじゃないですか。もう既に土地神さまの神社で待機してます。先輩達には人形が暴れない様にぶっ壊してから一機でもいいんで持ってきて貰います」
「人使い荒いなぁ・・・」
虎織が呆れながらため息をつく。珍しいとは思ったがそれもそうか・・・データや廃品回収は禍築の趣味で我輩達にとっては仕事が増える、それだけなのだから。
しかも虎織からすれば禍築はそこまで仲がいいわけでもない訳でめんどくさい限りだろう
「雪城先輩は壊しすぎないでくださいよ。その背中に背負ったヤツ明らかにオーバーキルになりそうですし」
「文句言うんだったら持ってかないよ」
らしくない平坦な口調がめんどくさいという心情をまざまざと表している
「それは困るんで!というか壊しすぎてデータ回収出来ないのも困るんでマジで程々にしてくださいよ!」
「善処するけど先に謝っとく。ごめんね」
「雪城先輩ぃ!?」
「まぁ期待せず待っとけ」
「頼みますよ・・・マジで」
「っとそろそろ接敵か?」
「はい、もうすぐ先輩の眼なら目視できる距離かと」
その言葉を聞いてすぐに人型でずっしりとした無機質が待機していた。まるで我輩達を待っていたと言わんばかりにその背を丸め大型の鉈の様なものを担いだパワードスーツの様なそれらはまだ動く気配は無い。
目視でざっと20は居るだろうか?
「あー、結構な数居るな・・・」
「でしょ?一機くらい余裕でしょ?」
「余裕あるかなぁ」
「水はやめてくださいよ・・・精密機器かも知んないですから」
「そうだな・・・そんじゃ交戦に入る。虎織、行こう」
「うん!」
我輩は虎織の返事を聞いた後腰に差した鞘から白虎の刀身を少しだけ風に晒し振り抜く準備と魔術式発動に必要なモノを空気中から集める。今日はいい感じに湿気てるからちょうどいい。我輩は白虎を振り抜き叫ぶ
「椿我流、七彩!」
やめろと言われればやりたくなるよね。仕方ない仕方ない。それにこの程度で壊れるくらいならデータも要らないだろ。それこそ鉄クズにしてから禍築が作り直した方がいいものができる。
まぁ水の刃は残念ながら一機目にぶち当たった時点で魔術式が解けたみたいに霧散して元々の姿に戻った訳だが
「おいぃぃぃぃ!?なにやってんすか!さっき水はやめてくださいって言ったでしょうが!?」
インカムから鋭いツッコミが耳を劈く様な音量で飛んできた。鼓膜が破れたかと思ったがあの機械人形達が動き出す音が聞こえてるから破れてない、大丈夫
「防水機能とかついてないなら要らないだろ」
ドタドタとアスファルトを踏み砕く音と表現し難い妙な機械の駆動音が近付いて来る。流石に仕掛けてから話終わるまでは待ってくれはしない、当然だろう。
近くに来ると結構デカイな。2m、いや、2.5mくらいか?鉈が振りかざされると共に我輩は白虎を逆手に持ち変える
「だからって初手でぶっ壊そうとしないでくださいよ!?てかデータ欲しいか聞いた先輩が面倒くさそうに対応するのやめてくれませんかねぇ!」
鉈が振り下ろされるのに合わせて人形の腹部辺りに手を当てる。高熱が篭っているのかほんのりと温かい。まぁそこはどうでもいい。人形の後ろから来る更なる人形を横目に魔術式を発動させるがどうも効いていない様だ。出力はそれなりにあるはずだが・・・風が少ないから上乗せが出来なかったのか・・・
「ま、防水機能ついてたみたいだし結果オーライだろ。それはそれで困るんだけど・・・な!」
禍築の言葉に返答しながら白虎を叩きつける様に鉈に当て軌道を変える。ズドンと鉈が地面に叩きつけらるとアスファルトがひび割れ砕けた。これは下手に受けると不味い威力だ。避けに徹して隙を見て攻撃するしかない。ただ・・・
「しかもコイツら思ったより硬い・・・!」
虎徹で応戦していた虎織の刃すら通さないとなるとこっちは高火力をぶつけていくしかない
「これはこの子の出番かな!」
虎織の背中に背負われていた防刃の布で包まれていた鉄板の様な刃がその姿を晒す。
黒く鈍く光る刃というか鈍器と呼ぶに相応しいそれを軽々と虎織は振るう
「よっ・・・と!これなら物理的に壊し切れるね!」
その刃は人形の頭をひしゃげさせ吹き飛ばす。中身の配線やら基盤がボロボロと砕けながら地面へと落ちていく
「わぁ・・・頭部分粉々だぁ・・・」
「それでも動くって事は頭は飾り、かな?」
「さて、どうだろうなぁ・・・」
我輩は袖から回転式拳銃を取り出し撃鉄を起こしてから人形の胸に狙いを定める
「撃ち貫け!」
声と共に引き金を引く。弾丸は胸を貫き人形からすれば小さな風穴が空き向こうの景色が見える。オイルの様な独特の臭いがする液体を撒き散らしながら人形は地面へと倒れめり込む
「防弾仕様じゃないみたいだね。それに心臓部分がこの人形の弱点なのかな」
「そうであって欲しいがなぁ・・・如何せん数が数だ、テキパキ壊していこう!」
何かまだ仕掛けがある気がしなくもないがそれは直面したその時に対処しよう
「うん!ここで見せるつもりはなかったけど出し惜しみするのも良くないからね。弐刃解放、双翼剣!」
虎織は言葉と共に鉄板から蒸気の様な白いモヤが噴き出す。それはすぐに風に流され虎織と共にあった鉄板は2枚に増えていた。さっきより厚さが薄くなっている様に見える事から2枚重ねて一刀として扱い必要なら二刀になるようにしていたのだろう
「分割二刀・・・!」
「これがロマン、ってヤツだよね」
「よくお分かりで」
「さぁ、これからが本番だよ!」
虎織はそう言うと走り出し重々しい一撃を軽々と叩き込んでいく。我輩も負けてられないな




