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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第3章 華姫騒乱編(下)

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第30.5幕 少彦名命

 「さて、招かれざる参拝客がいらっしゃいましたね」


 久那さんが鋭い目付きで鳥居の先を見つめながら冷えきった口調で言葉を吐く


 「数は30で銃火器持ち、どうするつもりだ久那」


 どこからか生えてきたのかさっきまで存在していなかった場所に石造りの丸い井戸、その上に脚を組んで座る菊姫命が笑いながら久那さんに問う


 「簡単ですよ。全員潰して無力化します」


 その問に笑顔で返すがその目は笑っていなかった。こんな久那さんは今まで見た事がないしお兄ちゃんからもこんな怖い雰囲気になるとか聴いたことは無い・・・


 「はぁ・・・それで、晒すつもりか?」

 「えぇ、皆さんなら大丈夫でしょう。私の考える最悪の事態にはなり得ません」


 冷えきった視線がウチらを釘を刺す様に向けられる。背筋から凍る、正にそんな表現がピッタリだった


 「晒すってまさか晒し首に・・・?それはちょっとやりすぎじゃ・・・」


 蓮さんが珍しく焦っている。晒し首にするって流石に久那さんはそこまでしないよね・・・?


 「薬師寺君、勘違いですよ。晒し首なんて怖いことしませんよ」

 「じゃあ・・・」

 「私の秘密を晒すだけです。ここの皆さんにはこの場で見た事は黙っていて貰う事になりますけどね」


 人差し指を立てて自らの口を塞ぐ様な仕草をしながら久那さんはいつもの様な暖かい笑顔を見せる。それがやけに不気味に感じてしまう。何か違う。いつもの久那さんに何かが足された様な不可解さがウチの胸に引っかかる


 「まさかとは思いますけど久那さん、貴方は・・・」


 琴葉様の言葉を遮る様にさっきまで自らの口に当てていた人差し指を琴葉様の唇の前まで持っていく。驚くべきは琴葉様と久那さんの距離はそれなりにあった。それがその距離が存在しなかったかのように距離を詰めていた


 「今言ってしまうと楽しみが無くなってしまうのでお口はチャックですよ琴葉様」


 楽しみ?何を言っているんだろう。分からない。そして思わず呟いてしまう


 「ぜんっぜん話が見えんのじゃけど・・・」


 こういう場で似非(えせ)広島弁が出てしまうのは不味い気がしたけど咄嗟に出た言葉はそうなってしまっていた。提督と船に乗っていた頃の名残だから仕方ないと言えば仕方ない


 「そのうち分かるわ。今は私達は久那さんの後ろ、というより菊姫命の後ろに下がって見物すること、それと将鷹と虎織には絶対に話しちゃいけないことが起きる、それだけよ」

 「虎姉にもお兄ちゃんにも・・・?」


 何故だろう?2人なら秘密を守るだろうし・・・もしかして2人だけには知られたく無い秘密という事なのだろうか


 「えぇ、もし喋ってしまったら、そうですねぇ・・・アリサちゃんの命と同価値のモノを引き摺り出して殺します」

 「ウチの命と同価値・・・?それに殺すって物騒過ぎませんか・・・」


 命と同価値、検討もつかない・・・一体何を殺そうというのだろう。きっと大事なものなんだろうけど


 「ふふっ、冗談です。それくらいの事が起きる、そう思ってください」

 「は、はい」

 「菊姫命、井戸で敷地内に誘導お願いします」

 「はぁ・・・神遣い荒いことで」

 「始めましょう」


 久那さんが纏う雰囲気が一気に変わる。いつもの優しい雰囲気でもさっきまでの凍りつく様なものでもない。人じゃない何か、菊姫命の怒った時の様な重々しい雰囲気だろうか


 「我が名の元に今汝の真名を解き放つ。仮面を外し我に従え」


 言葉と共にお兄ちゃんから渡された風切が鞘からゆっくりと引き抜かれその刀身に蒼の炎が灯る。これは禁厭の炎・・・


 「大倶利伽羅(おおくりから)


 その銘を呼ぶと蒼炎は燃え上がりガラスが砕けるように散っていく。炎の中から現れた刀身には見覚えの無い龍の紋様があった。秘密ってこれのこと?いや、絶対違う、こんなのじゃないはず


 「こうやってこの子の刀身を見るのも随分と久しぶりですね」


 そして風切、もとい大倶利伽羅を握っている手とは逆の手を振るいさっき砕け散った蒼炎から黒い龍のお面を繕う。

 それとほぼ同時だった。鳥居から迷彩服を着た大男たちがアニメとかで警察官が持っている様な透明な盾を持った者を前に後ろからアサルトライフルを構える様な陣形で攻め入って来た。全部で30人、3つ有る鳥居全てが塞がれ包囲されてしまっていた


 「ここハてらってヤツか?オレたちはなんでココに?」

 「イや、ここは神社とイうヤツだ。ここのウィザードに呼ばれたようダ。アレをミろ、ジャパニーズミコだ」

 「ウィザード、それに()()ですか。随分と低く見られたものですね」


 不機嫌にそう言いながら。さっきの龍面を被る。すると久那さんの周りに蒼炎が舞い燃え盛る


 「ヤバい!ニゲろ!アレはアヤカシだ!」

 「あっはっはっはっはっはっ!妖ぃ?本当に失礼極まりない人間ですね!」


 久那さんは笑う。機嫌が良いとすら感じられるその笑いには少し怒気と狂気が混ざっている。笑い終わると同時に鳥居が大きな石造りの井戸によって塞がれてしまう


 「なンだこの石のナニカは!?」

 「とじこメらレた!こうなったらあのアヤカシをブチ殺すゾ!」


 乾いた発破音と薬莢が地面に落ちる音が響くが銃弾が届く事はなかった。久那さんが腕を振るった瞬間蒼炎が銃弾を全て燃やし尽くしてしまったのだ


 「そんな玩具程度で私を殺そうなど面白い事を言いますね!」

 「ヒッ・・・ナンダアレは!?マジュツじゃなイ!」

 「カラダが・・・動かナイ・・・!?」


 大男達はその場で金縛りにあった様に口以外はぴくりとも動かなくなってしまう。これはお兄ちゃんが言ってた神様が使う蛇の眼?でもアレは眼を合わせる必要が有るって・・・


 「この人数なら1人くらいイレギュラーが混じっているかなと期待していましたが残念です・・・大倶利伽羅の出番はお預け、ですかね・・・久しぶりに神として振舞おうにもこれじゃあ消化不良ですし最後に大技を拝ませてあげます。地を這いつくばって感謝してくださいね」


 神様!?禁厭に蛇の眼の様な広範囲の金縛り、禁厭の時点でその正体に気づくべきだったのかもしれない。

 ()()()()、お兄ちゃんに加護を与えている神様の1柱だと


 「加減ミスって殺すなよ久那」

 「大丈夫ですよ・・・多分。非殺傷なはずですから」

 「そういうの平気で使えるの怖ぇよ・・・お前が生きてる人間殺したら童の加護が消えんの忘れんなよ」

 「はいはい、分かってますよ」


 少彦名命が大倶利伽羅を振り上げ切っ先で天を指し言葉を紡ぐ


 「白き流星、天の咆哮、煌々たる星々、星の息吹を糧に我が元に集え」


 言葉を切り天を指した大倶利伽羅を振り下ろし叫ぶ


 「神域、森蒼星域(しんそうせいいき)!」


 視界が歪む、正確には景色そのものが歪み空は北極星が輝く星降る空へと、石畳は苔むし、神社の敷地内が雑草が生い茂る森へと変貌する。そして動かない大男達は各々苦しみの声を上げながら夜空の流星の如く蒼炎にその身を焼く。木々のざわめきだけが聞こえる様になると星空は元の青空へと戻りいつもの神社へとその姿を戻した


 「まぁ、こんなものですかね。ショック死とかしてませんよね。うん、大丈夫ですね」


 大男達は焼けた跡など一切なくただそこに倒れ込んで居た。幻覚・・・?さっきの風景も幻覚なのだろうか・・・頭が疑問に支配される


 「さぁ皆さん、縛るのを手伝ってください」


 そんな久那さんのいつも通りの声でハッと現実に戻され、傷一つ無い男達を鎖で縛りあげることになった・・・

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