第30幕 開戦前
「琴葉様、皆さん各方角に敵襲です」
たん、たんと建物を飛び跳ねてくる音の後に日々喜さんの声が響いた。その声は冷静で、敵襲というには緊張感がなく逼迫した状況ではないというのが感じ取られる
「思ったより遅いお出ましで」
我輩は軽口を叩きながら腰に風切を差してから社の外へと出る。虎織や他の仲間達もぞろぞろと表へと集まり琴葉ちゃんの近くへと肩を並べていく
「作戦会議の前に禍築君からお届け物です。着けてから携帯とリンクさせてくれと言伝も。それとコレはお2人に」
インカム型のデバイス、昨日我輩に届いたものとはまた違うものだろう。それに携帯とのリンク機能、そんなもは我輩のものには付いていない。最新型か?いくらなんでも1日というか半日で作れるような代物じゃないだろうけど・・・
そして、剣薙と彌守に携帯、今はスマートフォンか。それが渡される
「我輩のは?」
茶化すように日々喜さんに問いかけてみる
「風咲君はもう持っていると聞いていますが?」
「あぁ、なるほど。これで十分事足りるってか。ってこの音・・・」
着けているインカムからガ-ピピピと懐かしい機械音が響く。禍築が通話前に鳴らすと言っていた音だ
「先輩、聞こえますか?」
禍築の声だ。珍しく仕事モードなトーンだな
「聞こえるぞ」
「皆さんにインカムは行き渡ったみたいですね。リンクしたデバイスからバイタルが確認できるようになってます。先輩のは技術的問題で雪城先輩のデバイスでしか確認できないようになってますけどね」
「なんだそりゃ・・・」
虎織にしか把握できない様になってるのは禍築なりの配慮なのかそれとも・・・
「先輩のは特殊なんすよ。翻訳機能とか通信機能とかを本体に詰め込んでるんで」
「なるほど。それで?我輩のデバイスへの通信はお前の言葉をリアルタイムで皆に伝える為か?」
「ご明察。デバイスと携帯をリンクさせてから色々と分からない事もあるかもしれませんから・・・ってアレ?皆さん、聞こえます?」
みんなの携帯から響く禍築の声から焦りが感じられる。誰か1人でもリンクできないとでも思っていたのだろう
「聞こえてるよ」
「バッチリね」
「なんだよ、結構簡単に使えて便利だな」
「すごいすごい!」
「異国の2人でさえ使いこなしてる!?えっ、俺の気遣い要らなかったパターン!?」
「そうなるな」
「うわぁ・・・はっず・・・もう寝よ・・・」
今にも消え入りそうな禍築の声が我輩のインカムだけに流れる。そりゃ恥ずかしいわな。だがきっちり仕事はしてもらわないと
「待て待て、恥ずかしがる前に現状把握してるんだろ?報告よろしく」
「おっと、そうでした。現在東西南北に敵影確認、北側白鷺城付近に城ヶ崎と白髪の少女が待ち構える様に陣取って、南側役所から更に南の地点に金髪の男女、東側土地神さまの神社付近に首の無い者と機械人形と見られる軍勢、西側皆さんが今居る十二所神社から約3km離れた地点に武装した軍人約30が華姫の中央駅に進行中」
四方に分断か。それにわざわざ中央に向かってくるってのは何か作戦があるのだろうか。まぁそういうのは真正面から叩き潰すのがいい気がするけど
「なるほど、総力戦はさせないという訳か・・・」
「今桜花さん、ヴァンさん、ローズさんが南側へ向かっています。金剛寺兄弟はまだ姿が見えないので残りの3箇所はそちらで対処お願いします」
「琴葉ちゃん、指示よろしく」
「わかったわ。その前に禍築、1つ聞いておきたいのだけれど城ヶ崎は陣取って動く気配はないのね?」
琴葉ちゃんが顎に手を置き考えるように禍築へと問う
「はい。今の所は問題ないかと」
「そう、なら命令よ。全員とっ捕まえて来なさい。チームは東側に将鷹、虎織。西側は・・・」
「悪いが俺は白鷺城へ向かう。妹もそっちに居るみたいだしな」
遮る様に剣薙が口を開く。妹の事となると出向く他ないだろう
「そうなるわよね・・・陰之伊、陰之伊兄妹。私の影の中にいるんでしょ?」
「悪いが俺らは取り込み中だ」
琴葉ちゃんの一言と共に黒髪のシュッとした顔立ちの男、陰之伊兄妹の兄、彩城が顔を出し一言残しまた影に潜る
「ちょっと!なんで裸なのよ!?やっぱ理由は言わないでいいわ!!じゃあ・・・」
琴葉ちゃんがキレ気味に言った後、呆れるように、どうしたものかと悩む様に言葉を発した時だった
「ここで私達が迎撃しましょう。いいでしょう菊姫命?」
久那さんの声が響く。その声は自信に満ち溢れ敵の数など歯牙にかけない様な眼差しで琴葉ちゃんを見る
「まぁいいけど、お前まさか・・・」
菊姫命が答える。まさか?なんだろうか?今気にしても仕方ないことなのだろうけど
「というわけで将鷹さん、風切お借りしても?」
元は久那さん、というか少彦名命様の持ち物だし借りるというが引っかかるがまぁこれも些細な事だろう。それよりも久那さんは戦闘とか大丈夫なのだろうか?人は見かけによらないとはよく言うが久那さんが戦う姿は一切想像できない
「大丈夫なんですか・・・?」
「えぇ、これでも私は忠定や幸三郎、それに綾寧と共に戦場を駆けた事もありますから」
「それじゃあ・・・」
我輩は風切を引き抜き、袖から元の鞘へと納めて久那さんへと差し出す
「蓮、雪、アリサ。ここは任せるぞ」
「任せとけ」
「うんうん。僕達がここを護って中央には行かせないからさ、安心して東側と城ヶ崎ぶっ倒してきてよ!」
「力になれるかはわからんけどウチも全力でやるけぇ心配せんで!」
「あぁ!それじゃあ虎織、行こうか」
「うん!」
元気の良い虎織の返事を聞いてから我輩達は神社から出て土地神さまの神社を目指す
「将鷹、風切渡してもよかったの?」
虎織が我輩の少し前を走りながら問う
「まぁ大丈夫だろうさ、久那さんを信じる他ないし」
「そうじゃなくて将鷹の使える手が減ってるから大丈夫かなって」
「あぁ、そういう事か。それなら心配しないで大丈夫だ。白虎と短刀有ればどうにかなるさ」
「初手から短刀か白虎抜くのは将鷹的に嫌かなって思ってたけどそんなこと無いみたいだね」
「まぁなぁ」
短く答えてから自らの手癖に気がついた
「んー?あー!なるほど!そういう事か!確かにいっつも風切が1番最初に抜かれる刀だもんな」
「そう、だからね」
「いやぁ言われて初めて気がついたよ」
「将鷹が最初から風切以外使う時は格上相手なんだよねぇ。そういえば刀2本ないから刀身を曖昧にするあの技使えないね・・・」
「あっ・・・ま、まぁなんとかなるって!」
誤算ではあるが誤差の範囲だろう。大丈夫だ我輩と虎織、2人ならきっと




