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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第3章 華姫騒乱編(下)
188/361

第29幕 騒がしい朝

 「おーい、起きろ剣薙。朝だぞー。朝ごはん用意出来てっから食べに来い」

 「あ゛ぁ?あぁ・・・今行く」


 風咲の声が聞こえ俺は目を覚ましそれに返答する。昨日は何時寝たのか?そして俺はどうして見覚えのないこの部屋で寝ているのか皆目見当もつかない。

 しかもそれなりに上質と見受けられる羽毛布団で寝かされていた。

 酒の飲みすぎで眠ってしまったのだろうか?しかし二日酔い独特の頭痛や倦怠感など欠片も顔を出さない。むしろさっぱりとした気分だ。

 服はそのままみたいだな。後で風呂でも借りるか。

 襖を開けて煌々と光を放つ朝日に目を焼き風咲の後を追う


 「お前寝起き悪いタイプか?」


 唐突に風咲がこちらに目を向けず俺に問う。どういう意図がある質問かは分からない。そもそもコイツのこの質問に意図があるかすら分からない。

 だから俺は素直に答えることにした


 「んな事ねェよ。俺は起こされたらきっちりと起きる。なんなら寝坊なんて生まれてこの方無縁だ」

 「そいつは羨ましいもんだ。いいねぇ・・・」


 最後は小声で言ったつもりだろうがバッチリと聞こえた。ということはコイツは寝起きが悪いタイプか?そうは見えないが


 「で、なんでそんなくだらねェ事聞くんだよ」

 「いやぁ、声掛けたら第一声がクソ機嫌悪い声だったからな。もし寝起き悪いなら下手に起こせねぇなってな」


 なるほど。確かに寝起きの第一声はそう聞こえてしまっても仕方はないものだったかもしれない。連れ出してすぐの彌守にも怖がられたか


 「なんでまた俺を起こしに来る前提なんだよ」

 「だって琴葉ちゃんにしばらくお前のこと頼むって言われてるからなぁ」


 あの鬼姫の言うことならなんでも聞く、そうとも取れる言動は少々俺の悪戯心をくすぐった


 「なぁ、どうでもいい話なんだがてめぇはあの赤髪に死ねって言われたら死ぬか?」


 主従の関係なら建前だけでも死ぬとか答えるんだろうな。そう思った。そう、思っていた


 「唐突だな。正当な理由があって死ねってんなら死ぬよ」


 この声色、建前でも虚言でもない。真剣(マジ)だ。コイツの目は見えないがしっかりと先を見据え、真っ直ぐ前を見ているのだろう。コイツは異常だ、人とし何か大事なものが抜け落ちている


 「あぁーでもやっぱ今は死にたくないな。虎織と楽しく暮らしたいし。そうなりゃ適当に死を偽装して、虎織連れて華姫から雲隠れかねぇ」


 さっきまで俺に向けることのなかった視線を俺の目に合わせて笑う。大事なものが抜け落ちているというのは誤解だった様だ。

 俺は更に意地の悪い質問をする事にした


 「忠義とかそういうのは無いのか?」

 「あるけど今は死にたくないってだけだ。まぁ琴葉ちゃんが死ねって命令するとしたら華姫に仇なすことをした時だろうさ」

 「そうか」


 そう小さく頷いた時だった


 「お2人とも随分と物騒なお話をされていますね」


 後ろから声が聞こえた。この声は確か久那という巫女だったか?あの異様な雰囲気の巫女さっきから風咲の足音に合わせて歩いていたのを考えると只者では無い


 「うわっ!?久那さんいつから後ろに居たんですか!?」


 どうやら風咲は気付いて無かったようだ。危機管理大丈夫か・・・?と言いたいところだがアレに気付くのは確かに難しい


 「剣薙さんを起こしに行く辺りから真後ろに居ましたよ。足音も綺麗に合わせてみたんでバレないかなって思ってましたが案の定でしたね」

 「お前は気付いてたのか・・・?」

 「まぁな。背後に気配は感じてたからな。背後にも気を使った方がいいんじゃねェか?」

 「今は別にいいんだよ。ここに敵も黒影も近づけないからな」

 「常在戦場って言葉覚えとけ。もしもの事態もあるだろ」


 注意はしても気を張りすぎるな、親父がこの場に居たらそんな事を言うだろう


 「そのような事態はありませんよ。神社には絶対黒影も華姫に仇なす者も入れません。何故ならここは─」

 「くーなー!飯冷めるから早く連れてこいよ!」


 巫女が気になることを口にしようとした時自らを神と名乗った菊姫命の声が廊下に響く。揶揄(からか)っているとも怒っているとも取れる声、いや、これは駄々をこねる子供の様な声というのが俺の中ではしっくりくる


 「はーい!今すぐに!お2人とも早く行きましょう。あれ以上待たせると菊姫命が駄々っ子になってしまいますから」

 「ですね」


 やはり駄々っ子か。2人は急ぎ足で廊下を歩いて行くのを俺は追いかける。追いかける事に気を取られていたが疑問が1つ残っている


 「おい!ちょっと待て、ここがなんだってんだよ」

 「んなもんは後でいいから飯行くぞ!」

 「後できっちりと話してもらうからな」

 「そこまで気にする程の事ではありませんけどね」

 「まぁ朝飯食べてから話すから今は急ぐぞ」


 それはドタドタと騒がしい朝の始まり、これから起こる事態の前触れの様な騒がしさだった

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