表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第3章 華姫騒乱編(下)
187/360

第28幕 木霊

 「んー?もう朝か・・・」


 目を閉じていても分かる太陽の光、鳥のさえずりとトタトタと廊下を走る様な音で我輩は目を覚ました。昨日はどんちゃん騒ぎしてそのまま寝てたと思ったが大広間から客間へと移動していた。久那さんが運んでくれたのだろう


 「あら?将鷹さん起こしてしまいましたか?」


 半開きの障子から久那さんが顔を出し我輩に問いかける


 「いえ、自然と目が覚めただけです」


 流石にはいそうですとは言えないからなぁ


 「そうですか。朝ごはんまだ出来てないのでお風呂など如何ですか?自慢ではありませんがここの裏の温泉は格別ですよ」

 「なら頂きましょうか」


 朝から温泉ってのも悪くないなと思ったがウチのお風呂も温泉じゃないか。まぁ格が違うだろうけどさ


 「ゆっくり浸かってくださいね」

 「わたしもいっしょにはいるぅ・・・」


 寝ぼけているのだろう。虎織が我輩の服の袖を掴みなが言う


 「虎織おはよー。眠いならまだ寝ててもいいんだぞ?」

 「んー・・・。ちょっとまってね」

 「あらあら、随分と仲良く、いえ、イチャイチャしてらっしゃいますね」


 微笑ましいですねと言いながら久那さんは笑うが我輩からすれば恥ずかしい限りだ


 「いやぁ・・・なんというかお恥ずかしい・・・」

 「私としては将鷹さんの成長が見られて少々嬉しいものですよ。あのヘタレでチキンで臆病者な将鷹さんがここまで立派になって」

 「事実とはいえ酷くないですか!?」

 「というか温泉は別で入ってくださいね。色々とややこしい温泉ですので」

 「くなさんがそういうならしかたない・・・おやすみー・・・」


 虎織は持ち上げていた頭をもう一度枕に埋めすぐに眠ってしまった。まぁ寝ぼけてる状態だったしこうなるのも当然か


 「虎織さん寝るの早すぎません!?」

 「あれ寝言みたいなもんですから・・・」

 「寝言なんですかアレ!?ゲロ甘過ぎませんか!?」

 「まぁそういうもんです。というか温泉が厄介ってなんですか?」

 「入れば分かりますよ」


 意味深な言い方だが、まぁ久那さんが勧めるのだからやばいモノではないだろう。

 とりあえず立って背伸びをしてから神社の裏手へと周り温泉マークの描かれた暖簾を潜り洞窟の様な場所を少し進むとそこには緑が広がっていた。

 湯けむりが漂う中に木々が生い茂るというのは中々に乙なものだ。

 もう少し歩を進めると乳白色の温泉が姿をみせる


 「うわぁ!温泉広い!」


 思わず声を上げる程に温泉は広かった。25メートルプールくらいはあるだろうか。1人で浸かるには少々寂しい程に温泉は大きい


 「おやぁ?君、初めて来る人間、だねぇ?」


 まったりとした声とが響く


 「誰だ!?」


 まさか久那さんの言っていた厄介ってこれか?


 「誰かだってぇ?ここに住み着いてる木霊と言えば分かるだろぅ?ふぅん。君ぃ、珍しいモノを飼ってるみたいだねぇ。道理で少彦名命達が気に入るわけだぁ」


 木霊というと木々の精霊みたいなものだったか・・・それにしても珍しいモノ?


 「影朧の事か?」

 「いやぁ、雪城忠定の魂さぁ」

 「知ってるのか・・・?」

 「もちろんだともぉ。少彦名命を籠絡しておいてそのまま去ってしまった大罪人、だからねぇ」

 「籠絡・・・?」


 それに大罪人って・・・一体何やらかしてんだよ


 「おやぁ?そんな事も聞かされてないのかい?忠定と少彦名命は」

 「木霊、話し過ぎです。全く、余計なことを言っていそうな雰囲気があったので見に来てみれば・・・少彦名命の秘密は守ってあげてください」


 久那さんの声が木霊の話に割って入る。さすがは少彦名命様の巫女というところか、おおよそ聞かれたくないであろう話を遮りにきた


 「ふぅん。君がそう言うならしかたない。しかしここでの話をやめてしまうのはこの子にとって生殺しというものではないだろうかぁ」

 「将鷹さんは少彦名命とは直接の面識はありませんからそこまで気にならないでしょう・・・?」

 「いやぁ・・・それが忠定絡みなんで聞いておきたいというか」


 あいつは我輩にはろくに話をしてこないし何かを聞くのもはばかられる。こういう機会じゃない限りはあいつは謎のままだ


 「・・・仕方ありません木霊、話してあげてください。将鷹さん、失礼しました」

 「はぁい。ワタシもきっちりとした話は出来ないんだけどねぇ。こういうのは当事者が話をするべきじゃないかなぁ。まぁいいけどさぁ」

 「それで籠絡って」

 「言葉通りさぁ。惚れさせた、それだけの話だよぉ」

 「忠定がぁ!?えぇ・・・!?」


 驚きだ。神と人との恋は御法度、とまではいかないがあまり宜しくは無いと聞くしまず少彦名命様がというのが意外すぎる


 「意外かい?アレは中々の女たらし、いや、人たらしと評価すべきだろうねぇ」

 「へぇ・・・アレが・・・」


 利己的なやつかと思ってたけどそうじゃないのかもしれないな


 「随分と不服そうだねぇ。彼が嫌い、なのかい?いやまぁ無理も無いかぁ。君の中に忠定の魂が在るのは魂の写本の影響だろうし、それによって君の何かが縛り付けられてしまっているわけだぁ。嫌いにもなるよねぇ。分かるともぉ。君の本質は自由、縛られるのは嫌いだろうにぃ」

 「嫌いって訳じゃありません。ただ」

 「ただ、なんだい?」

 「アレはなんというか人たらしとは思えないんですよ」


 思った事をそのまま言うと木霊は手を叩きながら笑い出す


 「はっはっはっはっ!これまた面白い回答だぁ!君ぃ、本当に面白いねぇ!ははっ!これは随分と面白い人間が出てきたものだぁ!君たちがどうなるか今から楽しみでしかたないよぉ。っと君はお風呂に浸かりに来たんだろう?邪魔してしまったねぇ。ワタシは退散するからゆっくり浸かるといいさぁ」


 スっと木霊は風景に溶け込み消えていく


 「人たらしねぇ・・・アイツがかぁ。第一印象最悪だったからなぁ・・・まぁ今はどうでもいいか」


 そうつぶやきながら我輩は服を脱ぎ温泉へと浸かるのであった

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ