並行断章 狐面
寂れた半壊の神社にて朝日が顔を覗かせる早朝、黒髪の豪奢な着物を着た神が男を出迎える
「おかえりなさい。あなたがそこまでボロボロになってるなんて珍しいですね」
「いやぁ参ったね。油断はしてなかったんだけどガス欠になっちまった」
男は恥ずかしげに頭を掻きながらとぼとぼと歩く。だがその表情は少し晴れやかでもあった
「逆鉾のレプリカなんて使うからですよ。いつものように万全で万策を尽くせば捻りつぶせたでしょう?」
神は男の頬に指を這わせ龍の面を作り出す。そして男はそれに手を触れ狐面へと変貌させていく。そしてその面を外し男は一息ついてから笑う
「どうだろうな。アイツは俺と違って未知数だからな。にしても逆鉾使ったのバレてたか」
「分かって当然でしょう?何年あなたを見てきていると思っているんですか?あなたが魔力切れ寸前になるなんて逆鉾を使う以外有り得ませんから」
「それもそうか・・・それで、話は変わるんだが昨日は何も無かったか?」
「何も無い日なんて有りませんよ・・・あの日から夜は黒影が湧き放題なんですから・・・でも、燈火が打ち払ってくれましたよ」
「全く困ったもんだな・・・それはそれとして燈火のヤツ褒めてやらないとなぁ」
「えぇ、そうしてあげてください。あの子あなたに褒めてもらうんだって張り切ってましたから」
「はっはっはっ!そりゃいい!またどっか連れて行ってやるかぁ」
男は嬉しそうに笑う。それを見て神も口元を隠して笑う
「それはそうと彼女のお墓参り、どうします?」
「もうそんな時期か・・・はぁ・・・虎織の命日が近づくと気分が重いな。あれから30年・・・あっという間というかなぁ」
「あなたは少々背負い込み過ぎなんですよ。彼女はきっと気にしてませんよ」
「そうかなぁ・・・あっ、そうだ!向こうの俺は虎織と付き合ってるらしいぞ」
「へぇ・・・」
怒りとも嫉妬とも取れるねっとりとした声の後容赦ない神の蒼炎を纏ったボディブローが男の鳩尾を捉えクリーンヒットする。男は一瞬倒れかけたがふらつく程度で数秒経つ頃には何も無かったというようにケロッとしていた
「殴る事ないじゃないか」
「失礼、私の前で他の女のことを嬉しそうに話していたのでついに腹立たしくなって」
ふん。と神はそっぽを向いてしまったがチラチラと男の方に目線を送っている
「悪かった、悪かったって!だからそんなへそ曲げないで!神様でしょ!?」
「神様ですけどぉ・・・」
不服そうな雰囲気を出しながらも神の顔はにやけている。イチャイチャとした甘い雰囲気を切り裂くように長い黒髪をたなびかせる少年が石畳の真ん中を走り抜ける
「母さん!やばいよ!またアイツが暴れてて!今月奈ねぇさんが・・・!って親父帰ってきてたのか!大変だから早く手伝ってくれ!」
息を切らしながら少年は言う
「あぁ、今行く。少彦名命、ここは任せた」
男は狐面を被り腰に黒塗りに赤い彼岸花が描かれた鞘に納まった刀を差す
「もぅ、すっかり仕事モードじゃないですか・・・そちらは任せましたよ風咲将鷹」
「じゃあちょっくら華姫の危機を救いに行きましょうかね!」
狐面を被った神は少年を抱えて神社の外へと走り出すのであった
 




