第24.7幕 試練Ⅲ
「レプリカであっても神話の逸品・・・やばいな」
狐面は突き刺さった鉾に手をかけ引き抜き石突をこちらに向ける
「穂先は使わないのか?」
「使うに値すると思ったら使うさ」
加減無しとか言いながら加減してるじゃないかとかそういう野暮なツッコミはやめておこう。まだ釣り合わない、そういうのだろう
「お前もまだ色々と温存してるだろ?全力でこいよ」
狐面は言う。そして付け加えるように「じゃないと楽しくないからな」と笑う
「全力ねぇ・・・まぁいいか、どうせお前を倒せば終わる訳だし」
「いいねぇ。魔力も武器も小細工も総動員して勝ちに来い」
石突での一撃、直線的だから避けやすい。だがそれは誘いでは無いだろうか?そもそもこいつ相手に回避はしちゃダメだな
「よっと!」
白虎の鎬部分で軌道を逸らす。そして鎬を槍に当てたまま火花を散らしながら狐面目掛けて走る。尻尾は健在、きっと防御しに来るはずだ、それをどうやって突破する?出来ることはなんだ?全力で脳を酷使する
「風断ち!」
叫びと共に魔術式を起動し右腕を振るう。そして次に使う魔術式の用意だけはしておく。2つ以上の魔術式の同時発動は負荷が大きいからな。次の一撃も考えると風断ち1発だけに留めておこう。
作り出した風の刃は尻尾を斬り落とす
「風の刃か!?」
「ご明察!椿我流、しち・・・」
七彩を使おうとした瞬間槍に刀が巻き上げられ白虎が宙を舞う。まさかこの状態でも椿流は使わせてもらえないのか・・・!なら奥の手だ
「爆ぜろ爆鎖!」
さっき尻尾を捕らえてから弾け飛んだ鎖は爆発する鎖だ。いい感じにアイツの足下に落ちている鎖の破片が小さな爆発を起こしていく
「なるほど、その為の鎖だったか。ちょっとこれは予想外だったな」
今回はアイツが飛び退いた。距離は離れたがこれでいい
「逃がすか」
RSHの残弾は3発、それを全て叩き込む。弾は尾に燃やされる。ここまでは予想出来た
「白鎖!頼んだ!」
右の袖から白鎖が飛び出し白虎の柄に巻き付く。それ確認した所で前へと走り出す
「中々面白い戦い方するじゃねぇか!」
槍の穂先がこちらに向く。今のでどうやら本気になったらしい。竹筒を取り出し火をつけ投げると狐面は槍の穂先で軽く竹筒に触れる。するとまるでそこには竹筒が元から無かったかのように姿を消していた
「石突が国づくりに使われたからって逆にある穂先がなんでも消しされるってのは暴論過ぎるだろ!」
「神様と神器ってのは理不尽なもんだぜ!」
「知ってる!」
何回かそういう理不尽な目にあってるからな!RSHは弾切れだし仕舞っておくとして次に何を取り出すべきか。GLOCKか?それとも短刀か・・・ここは牽制も兼ねてGLOCKだな。装弾数17発あれば十分だ
「リボルバーの次はオートマチックか!だがそう何度も弾はくらわないぞ」
「それはやってみないと分からないぞ!」
白鎖を伸ばしたまま右に持った拳銃に左手を添え構えながら撃つ。1、2、3、4・・・近づきながら引き金を引く。弾のことごとくは尻尾か槍によって本体へ届くことなく消えていく。そして10発目を打ち終えた所で白鎖が袖へと戻ってくる。そして絡みついていた白虎を左手に握る。
アイツとの距離は約7歩分、走ればすぐに詰められる距離だが下手に突っ込む訳には行かない。だがそろそろ決めないと奥の手も何も残っていないのが現状だ
「泣いても笑ってもこれが最後だ・・・!」
「来いよ人間!」
白虎を握り締め走り出す。穂先に当たれば致命傷じゃ済まない、でもこれをどうにかしないと我輩は前へは進めない。
蒼炎の尻尾を伸ばし凄まじい速度で我輩を貫こうと襲ってくる。避けられる分は避け無理なものは白虎で弾く。そうしているうちに天逆鉾の穂先がこちらに狙いを定めて襲ってくる。右からだと刀で防げない
そう思っているのだろう。最初から刀で防ぐ気なんてない。一か八かの賭けだ
右腕に鎖を巻き付け槍をぶん殴る。鎖は一瞬で消え去り右腕だけが残された。だが穂先を掻い潜り天逆鉾の柄の部分を掴むことが出来た。身を焼くほどの熱に耐えながら槍を無理矢理、力任せに振り払う
「やばっ・・・!」
「これで終わらせる」
ここからが本当の賭けだ。男の胸ぐらを掴み投げるように地面へ叩きつける
「ぐっ・・・!」
「椿流、奥義が1つ・・・」
叩きつけられた反動か今回は邪魔が入らない。未だ掴んだままの胸ぐらをさらに強く掴んで魔術式を足場に高く跳ぶ
「櫓落とし・・・改!」
空中で勢い良く男を放り投げる。
そして風を背に宙に舞う男に飛び蹴りを入れ、足踏みをするように蹴り続け地面が近づいた所で渾身の蹴りを放つ
「ガッ・・・」
男の息が漏れた様な声と地面へ衝突した轟音だけが響いた。だが男は立ち上がった
「流石にこれはキツいな・・・見事・・・」
男の狐面は燃え上がる様に消えた。そして男も一言残してから蒼炎に包まれ消える
「花影には気をつけろよ」
そんな事言われなくても分かってる。アイツはいつか必ず・・・
「随分と派手にやったな。だがこれでお前は試練を乗り越えた」
「雪城・・・忠定。お前は何を知ってる」
「さてなぁ。しかしまぁ頑張った訳だ少しだけ影朧と入れ替わるコツを教えてやろう。使いこなせれば死なずとも入れ替われる、便利だろう?」
「あぁ・・・」
教えて貰えたのは何となく感覚では分かっていた事だった。まぁでもこれでアイツとバトンタッチしやすくなるならいいか。それに早速使う時ってやつだな・・・
砂時計をひっくり返すイメージを固め目を瞑る。
すると目の前に影朧が現れた
「楽しかったか?」
「あぁ、お陰様でな」
「なら今日1日位は表に居たらどうだ?」
「それはやめておく。姫がお前のことめちゃくちゃ心配してるからな。でもまぁまたこうやってたまには表に出してくれよ」
「そうか。なら約束だ」
「そんじゃ後は任せたぜ」
現実世界に戻ると目の前には真っ赤に染まった坦々麺のスープと口の中のひりつく痛みが待っていた・・・




