第24.7幕 試練Ⅱ
「次はお前だ狐面」
我輩はRSH-12の撃鉄を起こして狐面へと銃口を向ける
「まずはそいつを倒した事を褒めさせてくれよ」
「雑談してる余裕は生憎我輩には無いんでね」
「話してる間くらいは何もしねぇよ!あいつみたいに不意打ちもしないしそもそも俺は正々堂々真っ向勝負が好きなんだ!」
どうする?これが油断を誘う為の作戦って事もある。だがそうじゃない可能性も大いにある
「わーかーった!これでいいだろぉ!」
狐面を外して男は我輩と同じ顔を晒す。安心は出来ないが銃口を下に向ける
「それでいい、全く、いやまぁ俺も俺で悪いか」
「話なら手短に頼むぜ。あんまり長いことこっちに居ると虎織が心配するからな」
「・・・そうか、お前の所はちゃんと生きてるんだな」
「まさか・・・」
「お察しの通り俺の所じゃもう随分と前にな。まぁお前達程仲が良かった訳じゃないがいい友達、だった」
「悪い」
「気にするな。それはそうとさっきの闘い見事だった。格上相手に恐れることなく一撃で屠る為の技を用意してくるとは天晴れ」
我輩はニカリと笑う。嬉しいのだろう、しかし
「残念ながら一撃じゃ倒せなかったけどな」
「はっはっはっはっ、アレは男の意地で立ち上がっただけだ。信念がなければそのままぶっ倒れてそのまま死んでたさ」
「そうだとしてもあいつは倒れなかった。あいつが加減して彼岸花を燃やさなかったから我輩は勝てたんだ」
「なら1つ教えてやる、強いやつは死に場所を選んで死ねる、あいつはそういう考え方するタイプの俺だ」
「じゃああいつは負けを認めた上でアレをやったってのか」
「本人がいない今となっては確認しようがないが多分そうだろうな」
「はぁ・・・なんつー分かりにくい奴だよ・・・」
「俺からしたらお前もよく分からんがな」
「そうかい。で、そろそろ始めるか?」
「そうしようか。加減は無しだからな」
男は狐面を被る。あの時の様に狐面は口を開き蒼い炎を細く吐き続け、蒼い炎の尾が9、いや、12本。伝説の狐の妖怪、九尾の狐より尾の数が多いってなんだよ。まぁ神様に近づいた存在ならきっと大妖怪を越えても文句は言われないだろう。というか言うやつがいないか
「構える時間くらいはやるよ」
「既に我輩は構えてる」
「・・・なるほど、椿流の構えは読まれるから辞めたか」
今の我輩は右手にRSHを持って両手をだらりと下げている。ただそれだけの構えとは言えない姿だ
「死んでも知らないぞ」
いきなり眼の前に現れる狐面、右手の拳が握られている。ただのパンチなら受けても良かったがそんな単純なものでは無いのは見えている。
その場から後方へと跳び退き距離を離す
「そういうのなら意味無いな」
後ろへと跳んだが距離は離れない。拳は既に放たれている、軌道からするにアッパー、横に避ければと思ったがさっきの現象を見るに意味がない
「風切!」
呼びかけに呼応するように袖から風切が抜き身の状態で姿を現す。そのまま風切を握らぬまま袖を振るう。防御が出来ないなら攻撃する他ない
「っ・・・!」
アッパーは止まったが尻尾を思いっきり叩きつけられ吹っ飛んだ。
消耗式なのか1本尾が消えた。9本の時はそんな事はなかったのだが・・・
考えている間に身体が地へ落ちる。まぁ正確には水面なのだが。
立て直す為立ち上がりさっきと同じ体勢をとる。違う点は風切を左手に握っているという事だけ
「まだ構えないか」
「さっきも言ったろ、もう構えてるって」
「それじゃ死んじまうぞ!」
やはり距離が元からなかったかのように近づいてくる。
今度は11本の尾が勢いよく襲いかかってくる、これは当たると抉られるな。
一呼吸ついて構えず、風切を振るう。少しずつタイミングがズレている尾を1本1本乱雑に、舞う様に切り伏せていく
「なっ・・・!お前、それは!?」
狐面の口から出る蒼炎が太くなる。感情の起伏で吐き出される蒼炎の量が変るのだろか
「名無しの技でな、ある神様に教えて貰った」
経津主神、あの神様から教わった護身の剣、構えないからこその構え。戦即ち男の舞台、舞台なら舞踊ってこそ、経津にぃはそう我輩に教えてくれた。相手の動きは直感と剣が教えてくれるとも
「構えないからこそどんな型にでも移れる、臨機応変に戦う為の戦神らしい構えだな」
「あぁ。カウンターメインになるのが欠点だがな」
「なるほどな」
尻尾は9本まで減り面から吐かれる蒼炎は細くなっていた。息を整える暇を与えてしまったか。だがその程度ならまだいい。厄介な禁厭を放たれるよりはかなりマシだろう
「こっからは本当に加減無くやらないとだな」
左手を天に掲げると共に蒼炎が槍を模していく。まだ三又の穂先が出来ただけ、まだ本体を叩けば何とかなるだろう。そう思い銃の引き金を引く
「そう簡単には邪魔出来ないか・・・」
弾丸は蒼炎の尾に阻まれ本体には届かない。ならばと袖から竹筒を取り出し狐火で火をつけてから放り投げる。
槍はどんどんとその姿を現す。それは見覚えのある槍を模していた。もし本当にソレを模しているとなるとやばいな・・・
「爆弾程度じゃどうしようも無いぜ」
「だろうな!」
竹筒は尾に弾かれ後方で爆発する。その音を皮切りに我輩は走り出す。策はない、だがここで止めなければ勝機は無いに等しくなるだろう。鎖を袖から飛ばし2本の尾を捕らえる。尾の熱が鎖を伝い熱い、鎖もそこまでの時間もたないだろう
「やけくそか?」
その言葉には答えず風切を振り下ろす。予想はしていたが尾が邪魔をする。それどころかカウンターで風切が弾き飛ばされ、それとほぼ同時に鎖が弾け飛んだ
「白虎!」
すかさず白虎を袖から引き抜きもう一度斬り掛かる。刃には風を纏わせているが果たして斬れるだろうか?そんな弱気な考えが頭を過ぎるが振り払う様に魔力をさらに込める
「その刀は初めて見るな・・・随分と良い刀なのは分かるが」
驚いたと言うような声が漏れていたがそんなのはお構い無しに片手だけで尻尾を斬り伏せる。さっきとは違い難なく尻尾は斬れる、それでも本体には届かない、蒼炎故か直ぐに炎は繋がる
だがその一瞬の隙に一筋の光が差していた。言霊は不要、撃鉄を起こし間髪入れずに引き金を引く。弾丸は隙間を縫って男の肩口を貫く
「ちっ・・・外した」
「危ねぇな。あと少し遅けりゃあいつと同じようになってたな。でもこれで俺の勝ちだ」
男のその言葉で確信した。槍が出来てしまったのだと。空を見上げる暇もなく槍は石突を下に地面へと突き刺さる
「やっぱりそうか・・・厄介なもん複製しやがったな!」
「ほう。ひと目でコレが何か分かるとはなぁ」
突き刺さり方や男の言い分でその槍の名称は確定した。今や現存しない神の槍、有名所にも程がある。その名は天逆鉾、国づくりに使われた神器だった




