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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第1章 先代鬼姫編
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第16幕 神社にて

ヴァンさんの経営する喫茶店を後にし商店街を進んでいく。


「風咲の旦那!今日はきゅうりが安いよ!」

「また後で買いに来るよ」


八百屋のおじさんが声をかけて来たが今は向かうところがあるから帰りに寄る事にした。

今日も商店街は賑わっている。みんな笑顔で楽しそうに商売や買い物、見世物などをしている。


もし先代が暴れて外にでてくることがあれば多分ここら辺はボロボロになってしまう。特に根拠はないがそう思ってしまう。

この平和な景色を護る為に全力を尽くさないと。



そんなことを考えていると目的地についた。

昨日の昼間に運び込まれた神社、十二所神社である。

社の正面の鳥居から敷地に入り石畳を歩く。

茶トラの野良猫が1匹が目の前で毛ずくろいをしながら構ってくれというような目線を送ってくる


「後でな。茶々丸」


この野良猫に勝手に名前をつけて呼んでいる。野良猫というよりここの境内で飼われている猫という方が正しいのかもしれない。

現に久那さんがよくご飯あげてるし。

この猫、茶々丸も存外この名前が気に入っているのか呼ぶと振り向いてくれるし我輩によく懐いている。


「久那さん居ますかー?」


社の前でここの巫女である久那さんを呼ぶ。



「はいはいただいまー!」


カラコロと下駄の音を響かせながら久那さんが呼びかけに応え社の横の建物から出てくる


「将鷹さんいらっしゃい。随分と気合いがはいった服装ですね。」


そんなに気合い入ってないとは思うが・・・


そういえば羽織を羽織ってここに来たのって高校の実習の時だけか・・・

そう言われても仕方ないか

気合いを入れてきたという事にしておこう


「気合い入れないとダメですから」

「そうですか。それで今日はお参りに?それとも私に顔を見せに来てくれたんですかね?昨日はそんなにお話出来ませんでしたし」

「両方ですかね。これお供えものの稲荷寿司です」

「あら、これはこれは。ありがとうございます。では、お供えしておきますね。」


そう言って久那さんは稲荷寿司を神棚に置いてくれた


二礼、二拍手。

必ずこの一件を終わらせてきます。

一礼。


神様の前で自らの決意を表明してから背を向ける。


「茶々丸おいで。」


手を叩き茶々丸を呼ぶ。

茶々丸は大きな欠伸をしてからこちらに寄ってきて我輩の脚に擦り寄ってくる。可愛らしい限りである。


茶々丸を抱き上げ社の端に座らせてもらう。

そして茶々丸を膝の上に乗せて撫でる。

ゴロゴロと喉を鳴らしながら茶々丸は目を細める


「茶々は本当に将鷹さんの事が好きですね」


久那さんは茶々丸を一撫してから我輩の横に座る。


「将鷹さん、無理は禁物ですからね。君は無理しすぎる節がありますから。昨日も誰かのため、みんなを護るためって禁止されていた炎を使ったのかもしれませんが君が思うほど現実は過酷ではありませんよ?虎織さんも白鷺さんもついていたのですからどうとでもなったと私は思います。」


ごもっともだ。もう少し冷静に考えるべきだったのかもしれない


「責めている訳では無いんです。ただ私は君が無茶して傷付くのが嫌なんです。」


本当に優しい人だ。昔から悩みや人生相談に乗ってもらっていたが昔から変わらぬ温かさがある。


「以後気をつけます」

「はい。気をつけてくださいね。」


少し思い悩んだ表情をした後、久那さんは口を開く


「一応忠告しておきます。次に炎をつかえば君は君でいられなくなりますからね」

「それはどういう・・・?」

「言葉の通りです。普通の炎の魔術は絶対に使わないでください。お願いします。」


久那さんは何かを知っている。我輩について、そして炎の魔術と相性が悪い原因を


「久那さん、我輩と炎の魔術に何かあるんですか?」

「それは私の口からは言えません。君が君自身で探し当て読み解く必要がある問題ですから」

「そうですか・・・」

「落ち込まないでください。ちょっとしたヒントなら差し上げますよ?聞きたいですか?」


一瞬迷った。知らなくてもきっとこれからの人生困りはしないだろう。

でも、ここでこの問題に蓋をするのはダメだと直感でわかる


「お願いします」

「君のその体質は雪城家が関わっています。でも虎織さんや今の家督の虎吉さんは知らないでしょうね。」


虎織の家か・・・妙な縁というかなんというか。

虎織や虎織のお父さんが知らないというのなら誰が関わっているのだろうか

考えていると茶々丸が膝から地面へと降りて神社の外へと出ていった。


「茶々の散歩の時間ですね。あの子この時間になるといつもふらりと外を散歩しに行くんですよ」


タイミングが良すぎて着いてこい的なものかと思った。

まぁ茶々丸は普通の猫だしそんなことはまず無いだろうが


「さて、夕暮れも近いし今日は帰ります。」

「はい。お気をつけて。」


久那さんに手を振り神社から出ようとした瞬間肩を掴まれ耳元で声がした


「もし、今日のお参りが必勝祈願であるのならそれはお門違いですよ。ここの神様は医薬、温泉、禁厭、穀物、知識、酒造の神様ですので。それに普通の刀を差している割に私が差し上げた風切と預けている心中を今はお持ちで無いご様子で・・・風切はともかく心中は肌身離さずお持ちください。」


背筋の凍るような冷たい久那さんの声だった。

振り向くことはできない。まるで金縛りのような状態だ。


「心中は君を信用して預けている妖刀なのですから非常時以外は他人の目につくようなことはあってはなりません。」


「でも、神様はきっと君を好いてくれていますから君のお願いは聞いてくれるでしょうし多少の粗相は赦してくださりますよ」


肩を掴んでいた手が離れた

それと同時にさっきまで動かなかった身体が動くようになり振り返ると笑顔を浮かべた久那さんが立っていた


「少々おふざけが過ぎましたね。失礼しました。では、ご武運を」


久那さんの声はさっきまでの冷たいものではなくいつもの温かさを感じる声に戻っていた。

巫女さんだし神様の事でああいう風になるのは仕方ない事かもしれない。

それに心中がどれだけやばいものかも重々承知している。怒られて当然だ。


「また来ますね」


再び手を振り鳥居をくぐり敷地からでて商店街へと向かう。

八百屋に後でと言わなきゃそのまま帰れたのだが

変なところで律儀だよなぁと自分を笑いながら沈む夕日を背に八百屋へと向かった

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