第24幕 華姫探索
「改めまして今日華姫を案内する雪城虎織です。明日に備えて英気を養って楽しんで貰えるように頑張ります」
姫はそういうと一礼してから俺に目線を寄越す。自己紹介しろってか。姫がしろってんならするけどさ
「俺は影朧、訳あって今はコイツの兄って事になってる」
俺は俺自身を指差し軽い状況説明と話合わせろよというのを遠回しに伝える
「テメェ風咲に化けたアルカンスィエルの手先じゃねェよなァ?」
白髪の男、剣薙は俺をキッと睨む
「んな訳あるか。そもそも姫がコイツを間違うはずがないし、もし偽物だったとしたらとっくに姫が首落としてる」
「姫ってお姉さんお姫様だったの!?」
剣薙に引っ付いている少女が目をキラキラと眩しいくらいに輝かせて姫に駆け寄る
「姫は愛称、ニックネームみたいなものかな。でも女の子はみんなお姫様って言葉があるから間違ってはないかなぁ」
「なーんだ」
困り顔で姫は返す。そして残念そうな顔をする少女を見て一言付け加える
「一緒に居るこの赤髪のお姉ちゃんは本物のお姫様だけどね」
「ほんと!?」
「ほんとだよー。ね、琴葉ちゃん」
「そうね。私は一般的に見ればお姫様かもしれないわね」
「おぉー!だからフリルいっぱいのドレスみたいなワンピース着てるの!?」
「んー。これは半分趣味よ」
琴葉は困り顔になりながらも少女の疑問に解答していく。はたから見たら子供2人が楽しくおしゃべりしてるように見えるのだろう。それが片方がここの市長なのだがな。それを承知の上で市民達は琴葉を見て微笑みながら通り過ぎていく
「で、影朧だったか?お前はなんだってんだ。見たところ身体は風咲だがアイツに無い鋭さ、いや、人を殺したヤツの空気が漂ってやがる」
そんな光景を眺めながていると剣薙が俺に問いかける。
会ってそんなに経っていないというのにここまで聞かれるとはな
「まぁ身体は将鷹のモンだ。簡単に言ってしまえば俺はコイツの防衛装置、コイツが死にかけたら発動する魔術式だ」
「なるほど。だからアイツらしさが少ない訳か」
「そういう事だ。俺はアイツの一部だが少しのズレがあるから殺せない制約も関係なしで人殺しができる」
「制約・・・?その話詳しく聞かせろ」
剣薙は顔を顰める
「コイツには神からの加護があってな。それが人を殺せない加護だ」
「ンだよそれ・・・それじゃあアイツは人を殺さないんじゃなくて殺せないって事かよ」
「そうだ。しかしまぁ制約があってもなくても殺しはしないだろうがな」
今の将鷹は人の生き死に、そういう些細な事で潰れてしまうからな。だがしかし姫と出会わなければここまで心優しい奴になってなかったなと昨晩思い知らされた
「無神経な事言っちまってたか・・・」
「気にすんな、コイツはそこまで気にしてねぇよ」
「どんだけお人好しなんだよ・・・それともマイペースなだけか?」
「どちらもだな」
「ほーら2人とも!行くよー!」
姫の呼びかけで俺たちは華姫の街を徘徊する事になった。まぁ元凶は将鷹なのだが
「おぉー!お店がいっぱい!」
「はしゃぎすぎて迷子になるなよ。お前気になるモンあったらふらっとどっか行きやがるからな」
「大丈夫よ。迷子になっても将鷹がすぐにみつけ・・・って将鷹は今居なかったわね。虎織がすぐに見つけるわ」
「私かぁ・・・そこまで目が言い訳じゃないし探すのはちょっと手間取るかもかなぁ。手でも繋いでくれてたら迷子にならないんじゃないかな」
「そうだねー。近衛、手出して」
「ん。」
2人が手を繋ぐと身長差も相まってさながら親子だな
「で、どこ案内してくれるんだ姫」
「そうだねー。まずはやっぱり商店街・・・って言いたいけど影朧の苦労考えると城通りの方がいいかな」
「そうかい」
城通り。白鷺城から真っ直ぐ伸びる大通り、確か飯屋やら雑貨屋が有るんだよな。将鷹も散歩でよく遊び歩いてるし退屈はしねぇだろ。歩いていくと緑色の旗の立つ店の前で少女が立ち止まる
「近衛!お茶のソフトクリームだって!」
「食いたいのか?」
「うん!」
「仕方ねぇな。昼飯はきっちり食えよ」
「はーい!1番甘いのください!」
言動とか合わせてほんと親子だな
「名物そっちのけで他でも食えそうな物食ってるな」
「美味しい物ならなんでもいいものよ。旅ってそういうのも醍醐味よ」
「そういうものか。ならあのちぃかまどっくっての食ってみたい」
アメリカンドックってやつなのか、それとも何か違うものなのか。俺は気になってそう口にした。おおよそここの名物とはならない代物だろうが
「ふーん。やっぱり将鷹みたいな所有るわね。そんなに華姫が好きなのかしら?」
「あ?どういう事だ」
「アレ、華姫名物よ」
「いやいや、将鷹の記憶にはそんな・・・えっ、マジ?」
「マジらしいよー。テレビとかでも紹介されるくらいには有名、みたいだよ」
含みのある言い方だが華姫名物には違いない様だ。まぁいいか
「なるほどな。蒲鉾揚げてる訳か、んでもって中のチーズがいい感じに溶けてると・・・悪かねぇな。剣薙達もどうだ?」
「もうちっと辛みでも欲しい所だが確かに悪くねぇな」
「だろ?」
いくらか歩いて食べ歩きしたり瀬戸物屋とかゲーセンとかで遊び倒したりしながら歩いていると珍しく剣薙が足を止める
「坦々麺か。ここ寄るぞ」
そう呟いてから剣薙は吸い込まれる様にその店へと足を踏み入れ食券機で坦々麺を注文する。
確か将鷹の気に入っていた坦々麺だったか。俺も少し食べてみたいと思って店に入ろうとしたら既に姫や琴葉が食券を買っていた。この2人も馴染みの店だったな
「姫達はここの店好きなのか?」
「うん。私達にとっては思い出のお店だからね」
食券を買って席に着いてしばらくすると剣薙の前に丼が置かれる。そして剣薙はそれを1口食べてから唐辛子をかけまくる。正直驚いた
「お前、どんだけ辛党なんだよ」
「普通だろこれぐらい」
「そ、そういうものか?」
そして俺の前にも丼が置かれる。野菜多めで美味そうな見た目だ。麺をすすると確かに刺激不足か。俺も剣薙と同じ様に唐辛子をかける。
決して不味いわけでもないしなんなら美味い。ただ、刺激が足りなかっただけだ
「お前もこっち側か?」
「さてな。まだわからん」
「そいつをかけるのは大概こっち側だ」
剣薙は笑う
「珍しー。近衛が誰かと話してあんな風に笑うなんて」
「思ったより影朧と剣薙は相性いいのかもしれないわね」
「将鷹とは相性悪いのにねー」
「あぁ?別にアイツとも仲わりィ訳じゃねェよ」
そうだったのか!?普通に仲悪いと思ってたが
「単純にアイツとは進んできた道が違う、それだけの話だ・・・」
「そうかい。それならアイツになんかあったらちっとは力貸してやってくれよ」
「あぁ」
「っとそろそろ昼か、約束の時間だな。返って来るかねぇ・・・」
こいつらとの時間、悪くなかったな。多分将鷹は俺に少しは楽しんで欲しいとかそんな事思ってたんだろうな。
悪くねぇ。本当にそう思った、また皆でこうして楽しみたいものだ。そう思っていると将鷹の声が聞こえる
「楽しかったか?」
「あぁ、お陰様でな」
「なら今日1日位は表に居たらどうだ?」
「それはやめておく。姫がお前のことめちゃくちゃ心配してるからな。でもまぁまたこうやってたまには表に出してくれよ」
「そうか。なら約束だ」
「そんじゃ後は任せたぜ」
俺は気づけばいつもの景色へと戻ってきて居た
「静かだな」
そう呟き目を閉じた




