第23幕 風呂場にて
「はぁ・・・しんど・・・」
我輩はため息をつきながら風呂へと浸かる。なんで何回も死ぬはめになってんだよ。これじゃ精神的に削られていく一方だ。あの2人と我輩じゃ戦力差があり過ぎる。片方だけでも天と地程の差があると言うのに2人がかりとなると地球と冥王星レベルだぞ。まぁそれは言い過ぎとしても2人とも行き着く所まで行き着いた、そういう表現が似合う、半端者では敵わないと言いたくなる。
椿流も構えた瞬間に読まれて潰されるってのがなぁ・・・
でもここで諦めたら死ぬ。今死ぬのは嫌だな。そういえば影朧大丈夫かなぁ、大丈夫だよな
タオルに熱湯をかけてから絞り、少し冷ましてから自らの顔に被せる。気分の問題だろうが眼が疲れた。そういう時はコレに限る
「お疲れ様。サイダー持ってきたよー」
虎織の声と共にガラガラと風呂場の戸が開く音がする
「あーありがと。適当に置いといてくれ」
「うん。お盆ごと湯船に浮かべておくね、っと隣座るね」
「うん」
お湯が揺れる。それを引き金に我に返る。ちょっと待て、一緒に風呂入ってる状態か今!?
このタオルで見えないけど腕がくっついてるから分かる。素肌だ、いやまて、タオル巻いてるなら腕は素肌だろう。大丈夫。気をしっかり持て風咲将鷹
「あのー虎織さん?1つお伺いしても?」
「なに?かしこまっちゃって」
「タオル巻いてる?」
「巻いてないよ」
虎織は笑いながらそう言う。
あっ、えっ?えぇ・・・裸ですか・・・?マジで?いやいや、えっ?
「な、な、な、なんでタオル巻いてないの!?」
「んー?まぁそういうのもアリかなって。あーもしかして見たい?」
「そりゃ・・・虎織は好きな人な訳で・・・」
「ヘタレー。えいっ!」
掛け声と共に顔に被せたタオルが剥がれる。咄嗟に目を瞑ろう、そう思ったがそれは虎織に失礼では?そういうのが過りそのまま虎織の方を向くことにした
「裸じゃなくてがっかりした?」
虎織は水着姿だった。クロスホルダービキニというやつだ。確かに期待はしたがでもこれはこれで良いというものだ
「多少はな。でもまぁ可愛い水着姿見れて良かったな。ここ2、3年プールにも行けてなかったし」
率直な感想を述べ手元に浮かぶお盆からお猪口と徳利を手に取りサイダーを注ぐ。少しでも気を紛らわせるにはこうでもしないとなー。待て、今我輩マジで裸じゃん・・・!いやいや見られて減るもんじゃないけどそれはそれで恥ずかしいぞ!?心の準備もクソもねぇ状態じゃないか!
「もう少し焦るかなーって思ってたけどそんなにだったかー。って将鷹、手めっちゃ震えてるけど大丈夫!?」
「だ、大丈夫!問題ない、多分!」
「そう?あっ、そうだ、表に出てきて無い時何やってたの?」
「あー、すっごい簡単に言うなら死にゲー?」
虎織の顔が少々曇る
「その口ぶりだと結構死んでは生き返りって感じだよね」
「まぁ、な。嫌って程殺されてる。かといって諦めたら死ぬしなぁ」
「勝てる見込みは?」
「ほぼないだろなぁ。なんせ相手は制約なしで高火力の炎ぶっぱなしてくる我輩に神域に身を置く我輩だし」
「無理ゲーって程じゃ無いんじゃない?」
手こずっているのが不思議というような表情で虎織はお猪口にサイダーを注ぐ。まぁ虎織はアイツらの強さを間近で見てないからそういう風にもなるのだろう
「いやぁアレはヤバいぞ。椿流の技ほぼ使えないというか構えた瞬間崩されるんだぜ」
「じゃあアドバイスになるかは分からないけど、椿流じゃなくて将鷹らしく戦ってみたらどうかな」
「椿流抜きで我輩らしく?」
「将鷹には椿流以外にも色んな人に教えてもらった技が有るんだからさ。経津主神様とか久野宮さん、それに将鷹の素の力自体も強いんだから椿流に固執することは無いと思うよ」
確かに椿流に固執し過ぎているのかもしれない。だがそれでも足りないんじゃないだろうか
「王道は戦力がある時に使うもの。奇策は戦力差を覆す為のもの。足りないならそれをひっくり返す相手の思いつかない要素を加えれば勝てるはずだ、だっけ?高校の頃将鷹が言ってたよね」
あぁ、懐かしい。強がりで言った言葉だ。よくそんなの覚えてたな・・・我輩自身それをすっかり忘れていた。昔はただのはったり、戯言だったが今はその強がりが役にたちそうだ
「そうだな。まだ我輩には打てる手が有った訳だ・・・勝てないって嘆くのはらしくなかったな」
「そうだよ。将鷹は強いんだからさ、そんな偽物なんてやっちゃいなよ」
「あぁ、やってやるさ!虎織にそこまで言わせたんだ!我輩はあの二人に勝つ!」
我輩はサイダーを飲み干し立ち上がる
「うんうん。そのい・・・」
虎織が言葉に詰まる
「前・・・タオルで・・・」
あっ・・・風呂場なのを忘れていた・・・
「ぎゃぁぁぁぁ!」
「なんで将鷹が叫ぶの!?」
虚しく我輩の声と虎織のツッコミが風呂場に響くのであった・・・




