第22幕 引き抜き
「お、来たか」
「姫も一緒だけどいいよな?」
「あぁ、将鷹もいつもそうだからな。というか姫って」
桜花はくっくっくっと楽しそうに笑う。そんなにおかしいだろうか
「将鷹といいお前といい全く・・・似たもの同士だな」
「そんなにか?」
「あぁ、そうだろう姫?」
姫を揶揄う様に桜花は笑う。それに姫は笑って返す
「似てる似てる。そのキョトンとした顔とか特に」
「顔は同じだからそりゃそうだろ」
「表情ひとつで印象というのは変わるものだぞ。こうして面と向かって話すまではもっと目付きが悪いものだと思っておった」
「そっちの方がよかったか?」
「いや、今のままで良い。お前は趣味や好きな物はあるか?」
ありふれた質問と言うべきか。しかしこの男、白鷺桜花は頭がいいやつだ。何か意味があるのだろう
「趣味は読書、好きなもんはまだよく分からん。なんせまだちゃんと飯食ったこと無いからな。味は何となく分かるが」
そういえば1番最初に口にしたのがあの舌がおかしくなる薬ってのは最悪の滑り出しだな・・・
「えっ・・・てことはあれが初めて・・・?」
姫が顔を顰める。そりゃそうだろうな
「あぁ、あのクソまずい薬だ」
「これか、災難だったな・・・」
「やめろ、そういう哀れんだ目で俺を見るな・・・虚しくなる」
「何か食べに行くか。何か食べたい物はあるか?」
「ならコイツの好物食わせてくれ」
将鷹と俺の味覚に差はないだろう。なら好きな味も似てるだろう。しかし何故桜花も姫も難しい顔をするんだ?
「なんでそんなに難しい顔してんだよ。高級焼肉ってわけでもねぇだろ」
「将鷹は好物が多すぎるからなぁ」
「あーそうか・・・そうだったな・・・味覚馬鹿ではないがある程度の物は美味しく食えるやつだった」
「じゃあラーメンとかどうかな?」
「悪くないな。辛いやつがいい」
「あんまり辛いのだとお腹壊すよ?」
「大丈夫だろ。なんだかんだコイツは辛いもの食ってるし」
「まぁ本人がそういうならいいけど・・・」
姫は後悔しないでよと一言添えて
桜花は少し悩んでから声を上げる
「よく考えれば今日はどこの飯屋も休業ではないか・・・?」
「あっ」
「こりゃ姫の手料理だな」
将鷹の大好物といえば姫の作るカレーというのが真っ先に思い浮かぶ。まぁ将鷹はそれを好き程度の印象で見せているのだろうが
「いいけど食材の買い出ししないとだね。多分コンビニ辺りなら開いてると思うけど。何が食べたい?」
「カレー」
「ははーん。その即答具合見ると私が作る料理だと将鷹の1番好きなのはカレーだね。ありがと影朧」
「ま、飯食わせて貰うってんだこれぐらいの情報を出すのが筋だろ」
姫は嬉しそうに笑う。将鷹は自分を見せたがらないからそういうのが知れるだけでも嬉しいのだろう。まぁ姫には結構さらけ出してる方なんだがな
「桜花さんも一緒にどうですか?」
「良いのか?」
「もちろんですよ!というか元々3人でご飯でもって話でしたし」
「そうか。ではお邪魔しよう」
「そういえばあの件どうなりました?辻井君の」
辻井といえばあの変態技術屋か。なんかやったのかアイツ?
「あぁ、あの件か。問題ない。きっちりと経理課から優秀なのを引き抜いて来たぞ」
なんだ引き抜きか。しかし今の黒影対策課はそこまで人材不足という風には見えないが
「経理課から・・・えぇ・・・もしかして桜花さんも経理課が嫌いなんですか・・・?」
「もちろん。アレのせいで随分と経費の方で苦労しておるからな。もっとちゃんとした珈琲メーカーやウォーターサーバーを置きたいのだが毎年見送っておる」
「ウォーターサーバーは今年買いたいですね。というか冬までに。それで誰を引き抜いて来たんですか?」
「九重だ」
ここのえ・・・?知らない名前だ。多分将鷹は知っているのだろうが俺が見てきた記憶の断片にはなかった名前だな
「九重ちゃん!?大丈夫なんですか・・・?」
「問題ない。腕は確かだ」
「いやそこじゃなくて・・・」
姫の心配は多分禍築の女好きの部分だろう。ちゃんと付けで呼ぶということは引き抜いて来たやつは女だ
「あぁ、禍築の方か。九重は男だから変な気は起こさんだろ」
「えぇぇぇぇ!?男の娘!?九重ちゃんが!?」
ギャグ漫画なら目玉が飛び出すレベルの驚き様だな。そこまで見た目が女なのだろうか。キョトンとした顔でもしていたのだろう
「あぁ、影朧には何がなんだかわからん話だったな」
桜花は俺に気付いて携帯のデータから1枚の写真を俺に見せる。集合写真か、知らない顔が多いな
「今年の新人達の写真でな。この黒髪の子が九重だ」
ぴっしりとスーツでキメた女だ、顔つきから骨格まで女じゃないのかこれは?スーツでキメているとはいえ幼さが相まって可愛いと呼ぶべきだろう
「桜花、冗談キツイぜ。コレが男ってんなら何信用すりゃいいんだよ」
「まぁそうなるじゃろな。儂もそうだったし。だが、九重は男だ」
「それはまぁいいとして辻井君そっちに目覚めたりしないよね?いやまぁ私としては別に良いとは思うし見てみたいなーとは思うけど」
「大丈夫だろ。禍築の好みは童顔巨乳だらな。それこそ土地神さまの所の三巫女によくちょっかいかけとる」
それはそれでどうなんだろうか。まぁいいか・・・
今はカレーのが優先順位高いし




